ぜん息やCOPDの方は、運動誘発性ぜん息への不安や、つらい息切れ症状などにより、運動をためらうことが少なくありません。しかし運動は、筋量を維持・増強し、免疫力も高めて、より健やかな日常生活を送る礎となります。運動をすることの意義、安全に運動するためのポイントなどを、東京女子医科大学内科学講座呼吸器内科学分野教授の桂秀樹先生に伺い、3回に分けてお伝えします。スポーツの秋と呼ばれるこの季節、定期的な運動をはじめる契機としてはいかがでしょう。
運動は健やかに過ごすための万能薬。 病気をコントロールしながら安全に楽しく運動しましょう!
東京女子医科大学内科学講座
呼吸器内科学分野教授
桂秀樹 先生
ぜん息やCOPDをはじめとする慢性呼吸器疾患はもちろん、糖尿病や高血圧など生活習慣病、その他さまざまな病気の改善に、運動が非常に大きな効果があることは科学的に証明されています。病気を持たない健康な人も、運動を継続することで、元気に長生きできる、つまり「健康寿命」が延びることが分かっており「運動は万能薬」といえます。
近年、「身体活動」という概念が注目されています。身体活動とは、体力の維持や向上を目指して計画的、意図的に実施する「運動」と、運動以外の日常生活における家事や通勤、仕事など「生活活動」を合わせたもので、呼吸器疾患のコントロールにおいても、身体活動性を高めるべきであると考えられています。
ぜん息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患の方は、発作への不安や息切れなどによって、この「身体活動」が低下しがちです。さらに、昨今のコロナ禍での外出自粛を理由に、とくに高齢者の身体活動量は3割も減少したことが明らかになりました※。このようなときこそ、日常的に運動することだけでなく、家事などの生活活動を継続的に行うことが重要です。
運動は呼吸機能を整え、免疫力を高め、ストレス解消の効果があります。筋肉や運動をする力を強めて、日常生活全般を快適に過ごす活力を与えてくれます。少しの運動でも継続することで、思うように体が動くようになり、やりたいことや好きなことが続けられるようになるということです。
ぜん息の方はときに運動で、「運動誘発性ぜん息(詳しくは第2回で解説します)」を起こすことがありますが、あらかじめ十分な対処をして発作を予防すれば、運動することに問題はありません。かえって、トレーニングを継続することで、運動誘発性ぜん息は起こりにくくなるという報告もあります。運動によって、ぜん息悪化の要因のひとつである肥満の予防にもつながります。
COPDについては、約20年間、2386名を対象とした外国の調査研究で、1週間に4時間以上歩いたり自転車に乗る習慣のある人は、ほとんど動かない人に比べて、10年生存率が約30%も高かったことが判明しています。
ぜん息も、COPDも、運動をする際の大前提となるのは、安定期の治療をきちんと行い、病気を良好にコントロールすることです。その上で、運動の種類や強度、運動時間などについて医療者ときちん話し合い、指導を求めることが大切です。そうすることで、無理なく安全に、かつ効果的に運動と取り組むことができます。
ぜん息の場合、症状が出なくなっても、通院を怠っていると再発するケースがあるので、継続的に治療、通院を行うことで運動に伴う発作は起きにくくなります。
COPDの方は、息苦しさによって動かなくなり、身体活動性が落ちてしまうと、さらに生活の質が悪くなるという悪循環に陥ってしまいがちです。薬や、呼吸リハビリテーションなどで息苦しさを改善しつつ継続できる強度の運動を続けることが重要です。
暦の上では秋。季節の変わり目を契機と捉えて、運動の「はじめの一歩」を踏み出してはいかがでしょうか。すでに運動を続けている方は、ぜひそのまま継続を。ただ暑い日や、体がつらいときは決して無理しないようにしましょう。新型コロナの感染予防策を講じつつ、屋内外での運動を、できる範囲で行うことが重要です。
次回は、ぜん息の方が運動をする際の注意点をご紹介します。
※2020年5月28日国立長寿医療研究センター発表
●独立行政法人環境保全再生機構「ぜん息などの情報館」(別ウィンドウで開きます)
桂秀樹(かつら・ひでき)先生
1985年岩手医科大学医学部卒業。博士(医学)。東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授などを経て、現在、東京女子医科大学内科学講座呼吸器内科学分野教授。日本内科学会認定内科医、日本呼吸器科学会専門医・指導医・代議員、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会理事。専門分野は呼吸器疾患全般、とくに慢性閉塞性肺疾患(COPD)。
運動をしましょう、続けましょう①
~ぜん息、COPDの方が運動することの意義~