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COPDの栄養療法について考えよう①(全2回) ~COPDの栄養障害と栄養療法とは~

世界4位、日本で8位の死因と言われているCOPD。COPDの治療法は、薬物療法、運動療法とともに毎日の食事による栄養療法が大切です。今回は、COPDの栄養療法を2回にわたって紹介します。

第1回はCOPD患者さんにやせ型が多い理由と栄養療法のワンポイントを紹介します。

ポイント!

1日3食バランスのよい食事を心がけよう。さらに脂質でカロリーアップ!

田中 弥生 先生 関東学院大学 栄養学部 教授
田中 弥生 先生

COPD患者さんにやせ型が多い理由

COPD患者さんは気道の炎症により空気の通り道が狭くなっており、また痰などの分泌物が多く空気の流れも悪くなっています。しかし肺の弾性収縮力が低下し空気を吐き出す力は弱くなっているため、弱くなった肺の代わりに肺の周りにある筋肉を激しく使って呼吸するため、健康な人よりもたくさんのエネルギーを必要とします。さらに肺に生じた炎症が全身に広がるため、熱が発生することでもエネルギーを消耗してしまいます。

こうしたことからCOPDの人の1日に必要な安静時エネルギー量は、健康な人の約1.5倍と考えられています。これは、体重60kgの人で安静時エネルギー量が1600kcalの方の場合、2400kcalが必要になる計算です。

消費量に見合うエネルギー量を食事で摂取しなければやせてしまいますが、COPD患者さんは、肺が膨張し胃を圧迫することで満腹感を得やすいことや、常に息苦しさを感じているため、食事量が減ってしまいがちです。

そうなると消費エネルギー量>摂取エネルギー量となり、体重が減少しやすくなります。

消費エネルギーと摂取エネルギーの関係

太っているよりやせている方が死亡リスクは高い

COPD患者さんの体重が減少すると増悪しやくなることや入院リスクの上昇、余命が短くなるといった報告があります。また、中国・日本・韓国の東アジアでのBMIと死亡リスクの関連を調べた調査※ではBMI35.0以上の太っている人では死亡リスクが1.5倍であるのに対しBMI15.0以下のやせ型の人では2.8倍となり、死亡リスクが高くなるという調査結果が報告されています。

※『Association between Body-Mass Index and Risk of Death in More Than 1 Million Asians N Engl J Med 2011; 364:719-729』

死亡リスクの上昇のほかにもCOPD患者さんが栄養状態の低下によりやせていくと、呼吸筋などの筋肉量の低下につながるため、息切れがひどくなります。息切れがひどくなると、ますます呼吸筋を使って呼吸するようになり、活動量も低下、食欲が減ってさらに栄養状態の低下が進んでいく悪循環に陥ってしまいます。こうした状況にならないためにも、COPD患者さんにとって十分なエネルギー量や栄養素を摂取することはとても大切なことなのです。

世界的に見ても重症度評価からみたCOPD患者さんの平均BMIはアメリカ24.0(±0.2)、フランス23.0(±5.0)に比べて日本は21.0(±3.7)と低い傾向にあり、やせ型の人が多いと言われています。それでは、効率よくエネルギー量を摂取するにはどうしたらよいのでしょうか。

炭水化物よりも脂質を!効率のよいエネルギー摂取を心がけましょう

一般的に、体重1キロを増やすには、7,200kcalが必要と言われています。これを1カ月で増やすには、一日あたりで240kcal、1食あたりでは80kcal増やしていくことになります。

そのために必要なことは、まず1日3食きちんと食べることです。主食(ごはん、パン、麺など糖質になるもの)、主菜(肉、魚、大豆製品などたんぱく質や脂質になるもの)、副菜(野菜やきのこなどビタミン・ミネラルになるもの)が揃ったバランスのよい食事を摂りましょう。

エネルギー量を多く摂取することを考えると炭水化物を増やしたくなりますが、炭水化物は体内で分解されるときに二酸化炭素が多く発生してしまいます。COPD患者さんはもともと息を吐き出す力が弱くなっているので呼吸への負担を増やしてしまうのです。そこで炭水化物を増やす代わりに普段の食事に脂質を加えるようにしてみましょう。

脂質は1gあたり9kcalと、少量でもたくさんのエネルギー量が摂取可能なことに加え、身体の中で燃焼したときに発生する二酸化炭素の量が炭水化物に比べ少ないため、COPD患者さんにとって、呼吸への負担が少ないというメリットがあります。

具体的には白米を炒飯にしたり、焼き魚を唐揚げやフライにしたり、いつもの料理に一工夫して積極的に脂質を摂り、効率よく摂取エネルギー量を増やしていきましょう。どちらかというと、ダイエットの天敵とされる油っこい食事をイメージしてください。油のなかでもMCTオイル(中鎖脂肪酸油)がおすすめです。MCTオイルは、オリーブオイルやキャノーラ油より消化吸収がよく、短時間でエネルギーになりやすいので、エネルギーの摂取効率を高めます。

忘れないで!ビタミン・ミネラル

脂質だけを沢山摂取しても効率よくエネルギーにすることはできません。主食(炭水化物)、主菜(タンパク質や脂質)などをエネルギーに変換してくれるのは、副菜に含まれるビタミン・ミネラルです。これらがないとエネルギー代謝は促進されません。栄養バランスの取れた食事に一工夫して脂質をプラスしてみましょう。

メニューに困ったら・・・体格に合わせたおすすめ簡単レシピを多数掲載しています。ぜひ参考になさってください。

https://www.erca.go.jp/yobou/copd/nutritiontherapy/

次回は、COPD患者さんに多いサルコペニアと筋肉量を維持する食事について紹介していきます。

田中 弥生先生

関東学院大学 栄養学部 教授