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食物アレルギー今むかし③(全4回)
食物アレルギーの予防の変遷 : 科学的な根拠がある食物アレルギー予防を!

独立行政法人環境再生保全機構では、「ぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2021改訂版」など、ぜん息を合併していることも多い食物アレルギーに関する冊子、パンフレットを数多くお届けしています。「食物アレルギー今むかし」の第3回では、食物経口負荷試験を日本に定着させた海老澤元宏先生に、食物アレルギー予防に関するこれまでの誤っていた考えや、現在科学的に推奨されている予防法についてご説明いただきます。

ポイント!

不確かな情報に惑わされず、正しい知識を身につけましょう!

海老澤 元宏 先生 国立病院機構相模原病院臨床研究センター長
アレルギー性疾患研究部部長
海老澤 元宏 先生

アトピー性皮膚炎のスキンケアをしっかりと

小児期の食物アレルギーの発症リスクには、家族歴や、特定の遺伝子が関係していることなどがあげられますが、中でも乳児期早期に発症したアトピー性皮膚炎は重大な因子と考えられています。正常な状態の皮膚は、角質に守られ、異物が入りにくい頑丈な構造ですが、湿疹などがあり、皮膚のバリア機能が損なわれたアトピー性皮膚炎の患者さんは、環境アレルゲンや食物由来のアレルゲンが侵入し、IgE抗体が作られやすくなりアレルギー症状を起こす可能性が高くなります。このため、アレルギー疾患であるぜん息や食物アレルギーの予防のためにも、皮膚を清潔に保つ、保湿剤を適量塗る、医師の処方によるステロイド外用薬を使用するなど、きちんとしたスキンケアや管理を行いましょう。

乳児期に、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの、どちらが先に発症するかは、依然として未解明な部分もありますが、少なくともアトピー性皮膚炎の湿疹の治療を優先して行うことが、食物アレルギーの発症予防や重症化防止などの管理にとっては最優先事項と考えられます。私が行っている相模原市での調査でも、近年のアトピー性皮膚炎の管理の向上により、ダニの感作(IgE抗体が作られた状態)を抑制しその後のぜん息など他のアレルギー疾患の予防にもつながると思われるデータが得られています。

原因食物の摂取は早過ぎても遅過ぎてもダメ、タイミングが肝心です

昔は、「卵アレルギーは鶏卵だけでなく魚卵などを含む卵類すべてがダメ」「鶏卵アレルギーは鶏肉も食べてはいけない」などという、エビデンスに基づかない意見がまかり通っていました。今では冗談のように思われる方も多いと思いますが、もちろん大きな誤りです。アメリカでは食物アレルゲンになりやすいものの摂取を遅らせるべきという指針が一時期出されたことがありますが、今では撤回されています。現在は食物アレルギーの原因食物となりやすい鶏卵等の摂取を遅らせることは、予防的な観点から正しくないものとされています。

日本の研究では、生後6ヶ月から微量の加熱卵を与えて、9ヶ月目から摂取量を若干増やした結果、卵アレルギーの発症が抑えられたとの報告があります。イギリスでも、0歳の時にアトピー性皮膚炎あるいは鶏卵アレルギーのあるお子さんを対象に、ピーナッツを与える群と、そうでない群に分けて5歳の時に調べたところ、ピーナッツを摂取していた群で、ピーナッツアレルギーの発症が8割抑えられていたとの研究があります。原因食物を避けるのではなく、上手く食べさせる方が予防効果があるというわけです。一方、生後3日までの新生児期に牛乳由来の調製乳を与えると、牛乳だけではなく鶏卵や小麦などの食物アレルギーのリスクが上がるとも報告されています。早過ぎず遅過ぎず、摂取のタイミングと与える量や形態が大切と言えるでしょう。現在、さまざまな研究結果をベースに、どのようにしたら予防が可能か、検討が行われているところです。

今、食物アレルギーに関するさまざまな情報がインターネットやSNSで飛び交っています。その中には、医学的な根拠に基づかないものや、個人的な感想や経験を記しただけものが少なくありません。また、商業ビジネスを目的にしているサイトもあります。どうか間違った情報に振り回されず、医療者と信頼関係を築きながら、正しい知識に基づく予防、管理を行ってください。日本アレルギー学会と厚生労働省で作成した「アレルギーポータル」という信頼できるサイトがありますので、是非訪れてみて下さい。

アレルギーポータル(別ウィンドウを開きます)

次回は学校等における食物アレルギー対策についてご説明します。

海老澤 元宏(えびさわ・もとひろ)先生

1985年東京慈恵医科大学医学部卒業。国立小児病院医療研究センターレジデント、ジョンズ・ホプキンス大学臨床免疫学教室留学を経て、2000年より国立相模原病院小児科医長。現在、国立病院機構相模原病院臨床研究センター長、アレルギー性疾患研究部部長。食物アレルギー研究会世話人代表、日本アレルギー学会/アジア小児アレルギー学会/世界アレルギー機構の3つの理事長も務める。「食物アレルギー診療ガイドライン2021」作成委員長。医学博士。