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COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身併存症のこと~③(全4回)
併存症の中でも特に多く見られる心臓疾患の兆候を見逃さないで!

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、肺だけでなく、全身の病気です。COPDで亡くなる患者さんの死因の多くは、合併症(COPDに伴って肺の中に起こってくる病気)や併存症(COPD患者さんに起こりやすい全身の病気)によるものとの報告もあります。COPD治療の第一線で活躍されている奈良県立医科大学呼吸器内科学講座の室 繁郎先生に「COPDと合併症・併存症」をテーマにお話を伺う連載の第3回。今回は、COPD患者さんが注意すべき全身併存症について伺いました。

ポイント!

「心不全」や「心筋梗塞」、「不整脈」などの心臓疾患は高い頻度で現れる併存症です!

室 繁郎 先生 奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授
室 繁郎 先生

COPDと併存する心臓血管系の病気に気をつけましょう

COPD患者さんは、全身性のさまざまな病気を併存しやすいことが知られています。中でもかなり高い頻度で現れるのが、「心不全」や「心筋梗塞」、「不整脈」など心臓血管系の病気です。その理由として、前回お話しした「喫煙感受性」が影響しています。たばこの煙に含まれる有害物質に弱い(=喫煙感受性が高い)人は、血管が悪影響を受けやすく、動脈の血管が固くなって弾力性がなくなったり、血栓ができたりして、血管が詰まりやすくなる「動脈硬化」になりがちです。動脈硬化になると、動脈に血液を送り出す心臓の負担が大きくなり、高血圧や心臓の病気につながります。

また、COPDでは肺の毛細血管も減少してしまうため、少なくなった毛細血管に向かって、心臓が一生懸命に血液を送り出そうとします。心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高くなることで(「肺高血圧」)、さらに心臓の負担が大きくなるわけです。

COPDの代表的な症状である「体を動かしたときの息切れ」は、心臓の病気の特徴的な症状とも重なります。「COPDだから息切れするのはあたりまえ」と思うのではなく、息切れの度合いが少し悪くなっているなどの兆候があれば、何か別の病気が併存していることを疑って、主治医、医療機関を受診しましょう。

COPD+併存症の悪循環を断ち切りましょう

心臓の病気のほかにも、さまざまな内臓の悪性腫瘍(がん)を発症することもありますので、定期的な健康診断を積極的に活用しましょう。

また、COPDとの併存率が高い骨粗鬆症にも要注意です。栄養障害や身体活動性の低下により骨が脆くなる骨粗鬆症となり、圧迫による頸椎骨折や、転倒による大腿骨骨折などを起こすと、要介護状態や寝たきりになることも少なくありません。骨折を契機に体を動かすことがおっくうになると、気分が落ち込んでうつになったり、食欲不振からくる体重減少、筋力低下、低栄養状態によって、サルコペニア(加齢とともに筋力が衰え活動性が低下した状態)に陥り、さらにフレイル(加齢に伴い筋力や心身の活力が低下し、生活機能全般が衰えた状態)に進行してしまうことも考えられます。こうした悪循環にならないために、患者さんご本人も、またご家族や周りの方も、注意深く症状を見て、併存症の芽を、早いうちに摘み取りましょう。

COPDのような慢性疾患患者さんは、よほど急激な変化でないと自覚症状を訴えることは少ないので、ご家族など周りの人が、「最近元気がない」「よろよろしている」「ボーッとしている」などの変化に気づき、声をかけたり、散歩に誘うなどすると良いでしょう。

最終回となる次回は、COPDの早期発見・早期治療の重要性と、合併症・併存症の予防について説明します。

室 繁郎(むろ・しげお)先生

1989年京都大学医学部卒業。田附興風会北野病院内科研修医・医員、カナダマギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員、京都大学医学部附属病院呼吸器内科准教授などを経て、2018年奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授に就任。現在に至る。医学博士(京都大学大学院医学研究科)。『喘息とCOPDのオーバーラップ 診断と治療の手引き』(2018年)作成委員、『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』(2022年)副委員長 。現在、日本呼吸器学会で、閉塞性肺疾患学術部会(COPD、喘息および気道系疾患に関する諸問題)の部会長を務めている。