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COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身併存症のこと~①(全4回)
COPDは肺だけの病気ではありません

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、肺の病気と思われがちですが、実は、全身の病気とも言われています。COPDで亡くなる患者さんの死因の多くは、合併症や併存症によるものとの報告もあります。そこで今回は、「COPDと合併症・併存症」をテーマに、COPD治療の第一線で活躍されている奈良県立医科大学呼吸器内科学講座の室 繁郎先生にお話を伺いました。あまり自覚症状を感じなくても、合併症や併存症をわずらっていることは少なくありません。COPDだけでなく、予後に悪影響を及ぼす合併症・併存症への理解を深め、QOL(生活の質)の向上を目指しましょう。

ポイント!

注意したい! COPDの「肺合併症」と「全身併存症」!

室 繁郎 先生 奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授
室 繁郎 先生

COPDは喫煙が主な原因で起こる慢性の病気です

COPDは、有害物質を長期間吸入することで肺が炎症などにより傷害されて、呼吸がしづらくなる病気です。有害物質の代表はたばこの煙で、日本のCOPD患者の9割以上は喫煙が原因と言われており、このため「たばこ病」という俗称があるくらいです。

長年たばこを吸い続けて、肺や気管支が炎症等を起こすと、咳や痰が多くなったり、空気をうまく吐き出せなくなって息切れを生じます。また、酸素不足を起こすこともあります。

世界保健機関(WHO)の発表によると、2019年に世界でCOPDにより亡くなった人は約323万人で、死亡原因の3位となっています。

COPDの詳細は以下のウェブサイトをご覧ください。

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202110_2/(別ウィンドウを開きます)

https://www.erca.go.jp/yobou/copd/(別ウィンドウを開きます)

COPDは肺を含めた全身の病気です!

COPDは肺や気管支に炎症等を起こす病気ですが、それだけにとどまりません。COPDは全身性の病気と呼ばれていて、肺を含む体全身にさまざまな病気が起こることが知られています。COPDの診断治療のためのガイドラインでは、COPDに伴って肺の中に起こってくる病気のことを「肺合併症」、COPD患者さんに起こりやすい全身の病気のことを「全身併存症」と、区別して示しています。

COPDの肺合併症には、「肺がん」「肺炎」「気管支ぜん息」のほか、肺が線維化して硬くなる「肺線維症」や肺がパンクして縮んでしまう「気胸」などがあります。

一方、全身併存症は体の多岐にわたります。さまざまな臓器の「がん」や、「動脈硬化」「心筋梗塞」「脳卒中」といった脳・心臓血管系の病気が挙げられます。そのほか、食事量の減少等による栄養障害からくる異常なやせ(「るいそう」)、「フレイル(加齢に伴い筋力や心身の活力が低下し、生活機能全般が衰えた状態)」「サルコペニア(フレイルの前段階として加齢とともに筋力が衰え活動性が低下した状態)」「骨粗鬆症」、さらには骨が弱くなることから起こる「椎体骨折」など、生活の質(QOL)を大きく左右する病気を併存することも少なくありません。呼吸が苦しかったり、体を動かすことがつらいことから、日常生活で不安が蓄積され、「うつ」になる方もいます。また、消化性潰瘍、胃食道逆流症などの胃腸の病気もよく見られます。

健康寿命を伸ばす上で重要なフレイル・サルコペニアとの関係については、以下のコラムもご覧ください。

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202011_2/(別ウィンドウを開きます)

甘く見ることなく早期に検査しましょう

日本には約530万人に上る患者さんがいると言われていますが、実際に治療を受けている患者さんは1割も満たしません。大多数の患者さんが未受診・未診断のため治療を受けていないのが現状です。タイトルのとおり、COPDは肺だけの病気でなく、全身に悪影響を及ぼす可能性が高い病気です。患者さん、ご家族は、このことに注意して、「ちょっとした息切れぐらいたいしたことはない」などと甘く見ることなく、さまざまな病気が潜んでいるかもしれないことを理解した上で、早期に検査し、しっかり治療に臨むべきだと思います。

次回は、どうしてCOPDに合併症・併存症が多いのか、その理由をご紹介するとともに、代表的な合併症に関する注意点などをご説明します。

室 繁郎(むろ・しげお)先生

1989年京都大学医学部卒業。田附興風会北野病院内科研修医・医員、カナダマギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員、京都大学医学部附属病院呼吸器内科准教授などを経て、2018年奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授に就任。現在に至る。医学博士(京都大学大学院医学研究科)。『喘息とCOPDのオーバーラップ 診断と治療の手引き』(2018年)作成委員、『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』(2022年)副委員長 。現在、日本呼吸器学会で、閉塞性肺疾患学術部会(COPD、喘息および気道系疾患に関する諸問題)の部会長を務めている。