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睡眠時無呼吸症候群とは?ぜん息・COPDと深い関わりがあります
④ぜん息・COPD…だからこそ、すこやかな睡眠が必要です!

「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」は、全身性の疾患の発症リスクを高め、ぜん息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に悪影響を与えます。SASとぜん息・COPDの合併がもたらすリスクなどについてご紹介してきた本コラム、最終回となる今回は、これまでのまとめと、すこやかな睡眠を得るための手立てについて、高槻赤十字病院呼吸器内科部長の北英夫先生にご紹介いただきます。

ポイント!

生活習慣を見直して、睡眠の質を改善しましょう!

北 英夫 先生 高槻赤十字病院呼吸器内科部長
京都大学医学部臨床教授
北 英夫 先生

SASはぜん息・COPDの増悪因子! 早めに医療機関を受診しましょう

SASは睡眠中に無呼吸を繰り返すことにより、日中いちじるしい眠気を生じ、日常生活に支障を来すこともある病気です。血液中の酸素レベルが低下し、心臓や肺、血管に大きな負担をかけるので、心不全や脳卒中の一因となり、ぜん息・COPDにも悪影響を与えます。

ぜん息患者さんがSASを合併すると、気管支のれん縮(けいれんして細くなる)を誘発したり、気管支の炎症を増悪させるなどして、症状悪化を招きます。逆にぜん息がSASの発症に関与しているとの報告があり、互いに良くない相乗効果を与え合っています。

COPDにSASを合併するオーバーラップ症候群は、ただでさえ弱っている肺機能の減退に追い打ちをかけ、入院、死亡の危険性を高めてしまいます。とくに肥満のCOPD患者さんはSASを発症するリスクが高く、要注意です。

激しいいびきや日中の耐えがたい眠気といったSAS特有の症状があるようなら、早期に医療機関を受診することをお勧めします。最近、診察時に睡眠アプリのデータやベッドルームの見守りカメラの動画データをお持ちになる患者さん・ご家族が増えています。確定診断のためにはもちろん精密検査が必要ですが、診療の一助になります。就寝時の状態は、眠っている患者さん本人が把握しづらいので、各種デバイスを用いて、受診のきっかけ作りとするのもよいでしょう。無呼吸用マウスピースやCPAPでSASの症状を抑えることで、ぜん息・COPDの症状悪化に歯止めをかけることにもつながります。

食事改善、運動、睡眠環境の調整で、肥満を解消、眠りの質を向上させましょう

マウスピースやCPAPは睡眠時の無呼吸を抑えて、SASの症状を緩和する有効な治療手段ですが、根本的な原因を絶ちきるための根治療法ではありません。肥満が主因のSASなら、肥満解消が不可欠です。肥満はSASを招くだけでなく、病気の難治化や合併症につながります。肥満気味のぜん息・COPD患者さんは、脂っぽいものや炭水化物を控えめにして、食物繊維などを中心とした食事を、腹八分目を目安に食べるよう心がけましょう。食事時間が不規則だと、内臓脂肪が増えてしまいがちなので、一日三度、規則正しく食べてください。なおアルコールは睡眠の質を悪化させ、SASを増悪させてしまいます。SASと診断された方は、思い切って禁酒に挑戦してはいかがでしょうか。

運動も肥満解消に効果的です。COPD患者さんは息苦しさがあるので、なかなか難しいかもしれませんが、無理のない範囲で散歩をするなど体を動かす工夫をしてみましょう。

睡眠の質を向上するには、入眠方法や睡眠環境を整えることも大事です。照明を落とし、静かで落ち着いた環境で就寝すると良いでしょう。この時期、暑さのせいで睡眠不足になる人も少なくありません。適正な温度でエアコンを使用してください。

長年しみついた生活習慣を変えることは、確かに容易なことではありません。私は患者さんに栄養相談や肥満外来の受診をお勧めしますが、それでも行動を変えることはなかなか難しいことです。肥満はSASだけでなく、心筋梗塞や脳卒中といった大きな病気のリスクです。臓器や血管を守る、という意識を持って取り組んでいただければと思います。

肥満を解消し、睡眠の質を改善する。それがぜん息・COPD患者さんにとってのすこやかな日常にきっとつながるはずです。

【参考】COPDと食事で向き合う 体格判定&おすすめレシピ(別ウィンドウで開きます)

北 英夫(きた・ひでお)先生

1987年京都大学医学部卒業。博士(医学)。専門分野は、呼吸器内科全般、睡眠時無呼吸症候群、ぜん息、COPD。日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医など。現在、高槻赤十字病院呼吸器内科部長。京都大学医学部臨床教授も務めている。