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知っているようで知らない「セルフマネジメント」~その最新情報~
③医療者との良好な関係がセルフマネジメントを成功に導きます

セルフマネジメントとは、患者さん本人が自分の病気のことを理解し、病気と上手に付き合う力を身につけること。セルフマネジメントを実践することで、ぜん息やCOPDによる増悪ぞうあく(発作)を防いだり、生活の質(QOL)の維持・向上につながることが分かっています。今回は、セルフマネジメントを継続する上での良きパートナーでありサポーターである医療者との関係性やセルフマネジメント用アプリ開発など最近の動向について、順天堂大学医療看護学部の若林律子教授にご紹介いただきます。

ポイント!

医療者はセルフマネジメントのサポーター! 遠慮をしないで相談しましょう

若林 律子 先生 順天堂大学医療看護学部
同大学院医療看護学研究科教授
若林 律子 先生

自分が今「困っていること」を具体的に伝えましょう

2000年代初頭に、ぜん息・COPDなど呼吸器疾患患者に対するセルフマネジメントの有効性が確認されて以降、医療者向けのマニュアルが作成・発行されるなどして、医療機関の多くがセルフマネジメント支援に積極的に取り組むようになってきました。患者さんやご家族などの周りの人が、医療者と良好な関係を築くことで、より患者さんに適したセルフマネジメントの継続につながります。

受診する医療機関において、相談しづらい、聞きづらい、という気持ちもあるかもしれませんが、ぜひとも遠慮することなく、今ご自身が困っていることを医療者に伝えていただきたいと思います。これは、初めてかかる医療機関でも、かかりつけの医療機関でも同じです。

伝え方も、工夫をしてみると円滑なコミュニケ―ションが生まれます。たとえば「咳が出ますか」と聞かれて「はい」、「いつ出ますか」に対して「夜出ます」と答えて終わるのではなく、「夜に咳が出て眠れないので困っています。疲れが取れず、日中は仕事にやる気が出ません。」と踏み込んで相談するとよいでしょう。医療者は「困ったこと」を改善するためにどうしたらいいのか考え、サポートします。

また、診察時に聞きたいことを忘れないよう事前にメモを作ったり、病状などを記した日記などを持参するのも効果的です。

【参考】ぜん息日記(別ウィンドウで開きます)

患者さんの中には、医師に相談するのをためらう人もいます。そのような場合は、ほかの医療従事者を頼ってみてはいかがでしょうか。医療機関の多くは、多職種のチーム体制で患者さんと向き合っています。

例えば採血が終わった時に看護師に相談してみたり、リハビリの最中に理学療法士に話してみたり、食事指導の際に管理栄養士に質問したりなど、きっかけはいくつもありますので遠慮せず、相談してみましょう。

AI(人工知能)がセルフマネジメントのサポートをする時代が到来するかもしれません

近年の情報通信機器の進化はとどまるところを知りません。セルフマネジメントにも、その技術を採り入れようという動きがすでに始まっています。

2020年12月には、禁煙治療用のアプリと呼気の一酸化炭素濃度を数値化するCOチェッカーが禁煙外来で処方されるようになりました。

私自身、現在、患者さんの体温や酸素飽和度などのデータをモニタリングすることで、増悪リスクを判断し、早期の病院受診につなげるためのアプリ開発を進めています。今後AI(人工知能)などを導入することで、より精度の高い判断が可能になるのではないかと思います。他にもぜん息・COPDに関連する各種のアプリが開発されており、将来的には、アプリやデバイスがセルフマネジメントのサポートをしてくれる時代になるでしょう。

セルフマネジメントを実践、継続することはすこやかな生活を維持するために大変効果的です。ほんの小さな工夫からスタートし、一人でがんばらず、医療者やご家族を頼りながら、セルフマネジメントに取り組んでいただきたいと思います。

若林 律子(わかばやし・りつこ)先生

1995年東京医科歯科大学医学部保健衛生学科看護専攻卒業。2011年日本医科大学大学院呼吸器感染腫瘍内科学博士後期課程修了。博士(医学)。2021年度より現職。セルフマネジメントプログラムとCOPD治療に関する知見を深めるため、カナダ・マギル大学ヘルスセンター・チェストインスティテュートに留学。欧州呼吸器学会、米国胸部疾患学会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本看護学会に所属。『呼吸器疾患のセルフマネジメント支援マニュアル(呼吸リハビリテーションマニュアル——患者教育の考え方と実践——改訂第2版)』(2022年)の主任編集ワーキンググループメンバー、事務局を務めた。