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日本で、海外で学び、実践する「呼吸リハビリテーション」
~進化し続ける呼吸リハビリテーションの世界~
⑤ 呼吸リハビリテーションの最新知見

兵庫医科大学リハビリテーション学部で学部長を務める玉木彰先生は、欧米での豊富な研修・留学経験を持ち、日本における呼吸リハビリテーションの実践、研究、普及に力を尽くしています。最終回は、玉木先生による呼吸リハビリテーションの最近の動向、これまでのまとめ、読者の皆様へのメッセージをおうかがいします。

ポイント!

「何をしたいか」という目的意識を持って取り組むことが呼吸リハビリテーションの効果を高めます

玉木 彰先生 一般社団法人日本呼吸理学療法学会 理事長
兵庫医科大学 リハビリテーション学部
学部長・教授 玉木 彰先生

欧米ではオンラインを用いた呼吸リハビリテーションも! どこでも受けられる呼吸リハビリテーションへ

前回のコラムで、日本も欧米も、呼吸リハビリテーションのできる医療機関が少なく、万人が受けられるようにすることが課題である、と申し上げました。実は欧米では、少し前からオンラインツールを使った呼吸リハビリテーションの試みが続いており、その効果検証も進められています。医療機関に行かなくても、呼吸リハビリテーションができるシステムが構築できれば、誰もが気軽に、気長に取り組めるようになるかもしれません。

日本では、一部機関がオンラインによる呼吸リハビリテーションを試験的に実施しているだけで、本格的な導入までには、まだ克服すべき課題があり、少々時間がかかりそうです。

だた、このようにして進化するICTをうまく活用することで、呼吸リハビリテーションの裾野が大きく広がる可能性を秘めていると、私は思います。

呼吸筋が弱くなる「呼吸サルコペニア」の研究がスタート! 呼吸筋強化でつらい息苦しさの解消に

呼吸リハビリテーションに関連する、新しい研究課題も登場しています。

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会と日本サルコペニア・フレイル学会、日本呼吸理学療法学会、日本リハビリテーション栄養学会の4学会は、2022年、「呼吸サルコペニア」という概念を設けて、その有病率や生命予後、予防と治療の研究を開始しました。

サルコペニアとは、加齢とともに生じる骨格筋(骨格に沿ってついている筋肉のこと)の減少に伴って、筋力や身体機能が低下している状態のことで、立ち上がったり歩くことが困難になる、つまずく、体が思うように動かせない、といった症状が出ます。サルコペニアの状態になると骨折や心筋梗塞、脂質異常症などのリスクが高くなり、健康長寿が脅かされるとされています。

ところが骨格筋の変化は必ずしも全身に生じるわけではありません。私たちが定義した呼吸サルコペニアは、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の減少を伴う状態のことで、今後呼吸筋にスポットを当てて研究を進めることで、呼吸筋を鍛える意義などについて検証したいと思います。呼吸筋のトレーニングは、非常に簡単なので、呼吸リハビリテーションのプログラムに積極的に加えることで、呼吸不全の有効な解決策の一つとなるのではないかと期待されます。

「近くのカフェに行ってコーヒーを飲む」……そんな目的を持って呼吸リハビリテーションを続けましょう

連載の最後に、これから呼吸リハビリテーションを始めようとしている方、今続けていらっしゃる方にお伝えしたいことがあります。呼吸リハビリテーションの効果を得るためには、何よりも継続することが大切です。

よく「どうすれば続けられるのでしょうか」という質問をいただきます。私が米国で学んだことの中にそのヒントがあります(連載第2回参照)。それは「呼吸リハビリテーションを続けることで何をしたいか」と自分に問いかけてみることです。具体的な目標を立ててみるわけです。

「富士山に登る」などの大きな目標を立てる必要はありません。身近なことで、たとえば「お孫さんと一緒に公園に行く」でも「ペットと散歩をする」でも十分です。「カフェに行ってコーヒーを飲む」でも「近場の温泉に行く」でもよいでしょう。実際、家族の活動性が高い人や、ペットを飼っている人は活動性が高いという論文もあります。目的意識を持つことで、日常生活にメリハリが出て、リハビリテーションにも前向きになっていきます。

呼吸リハビリテーションだけでなく、リハビリテーション全般に言えることですが、医療者と一緒に、患者さんご自身がその必要性を理解し、自分なりのリハビリテーションの方法を考え、続けていくことが大切です。息が苦しいから動けない、動かないから食欲もわかない、食べられないからどんどん動けなくなる……こんな悪循環から抜け出すためにも呼吸リハビリテーションを続けていただきたいと思います。

玉木 彰(たまき・あきら)先生

1988年京都大学理学療法学科(現 京都大学医学部人間健康科学科)卒業。1999年大阪教育大学教育学研究科健康科学専攻修士課程修了。修士(学術)。2005年兵庫医科大学 博士(医学)。星ヶ丘厚生年金病院、大阪府立大学(現 大阪公立大学)理学療法学科助手、京都大学医学部保健学科助教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻准教授などを経て、現職。一般社団法人日本呼吸理学療法学会理事長。専門理学療法士(呼吸理学療法・心血管理学療法)・認定理学療法士(呼吸)・臨床工学技士・呼吸療法認定士・呼吸ケア指導士・サルコペニア・フレイル指導士。1998年より複数回欧米にて留学、研修に赴く。