暑い季節になりました。ぜん息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは、ふだんの症状のコントロールに加え、熱中症予防も大切になります。熱中症とはどんな病気かを知り、熱中症予防のポイントについて理解しましょう。
熱中症とぜん息、COPDは関連があるのでしょうか。呼吸器系の疾患を持つ患者さんは体温調節が難しくなるため、暑い環境下での熱中症リスクが高まることが考えられます。ぜん息、COPDの患者さんは高齢者である場合が多く、高齢者は熱中症になりやすいことがわかっています。
熱中症とは、どんな病気でしょうか。熱中症はかつて日射病、熱射病と呼ばれていました。強い日差し、高温多湿な環境により発生するからです。2000年から熱中症という名称になりました。人間の身体は、平常時は体温が上がっても汗や皮膚温度が上昇することで体温が外へ逃げる仕組みとなっており、自然に体温が調節されます。しかし、気温や湿度が高い、日差しが強いといった「環境要因」、基礎疾患や体調不良などの「からだの要因」、激しい運動や長時間作業、水分補給ができない状況といった「行動の要因」により、体温の上昇と調整機能のバランスが崩れると、どんどん身体に熱が溜まってしまいます。暑い環境で体温の調整ができなくなった状態で、めまいや吐き気、頭痛、失神などのさまざまな症状を発症します。これが熱中症です。熱中症による救急搬送数や死者数は年によって大きく変動しますが、平均して年間1000人以上が亡くなっています。
総務省消防庁の「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」によると、高齢者(65歳以上)が54.9%と半数以上を占めています。高齢になると、体内の水分が不足しがちになり、暑さに対する感覚機能や身体の調整機能が低下するため、熱中症を発症しやすくなるので、注意が必要です。熱中症は日差しの強い屋外で発生するイメージがありますが、上記の「救急搬送状況」では、発生場所は「住居」が39.9%と、最も多くなっています。室内だからと安心せずに温湿度計を置き、温度や湿度が高くなれば、暑さを感じなくてもエアコン等を使用しましょう。
年齢区分別総搬送人員
発生場所別の救急搬送人員
(いずれも、総務省消防庁報道資料「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」より作成)
熱中症予防で特に大切なことは以下の4つです。
体内の水分の減少が熱中症の原因となります。こまめに水分を摂取しましょう。1日当たり1.2リットルの水分補給が目安とされています。外出時には、飲み物を持ち歩くようにします。
涼しい服装をすることも重要です。帽子の着用や日傘を使用して、強い日差しを避けることも効果的です。
仕事や運動をしているときには、適度な休息を取りましょう。
室内でも熱中症が多く発生していることから、適切な室温や湿度を保つことも心がけましょう。
行動の目安になるのは、「暑さ指数」です。暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)、略称WBGT)は、気温や湿度、日射(にっしゃ)などを基に計算して出す値で、熱中症のリスクを示します。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。環境省は気温との混同を避けるため、単位の℃を省略して記載しています。指数25以上28未満は「警戒」レベルで、運動や激しい作業をする際は定期的に十分に休息を取り入れることが求められます。28以上31未満は「厳重警戒」で、外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意します。激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避けるようにします。31以上は「危険」で、外出はなるべく避け、涼しい室内に移動することが必要です。特別の場合以外は運動を中止します。特に子どもの場合には直ちに中止すべきです。
暑さ指数は環境省の熱中症予防情報サイトで確認できます。暑さ指数の予測値及び実況値の情報についてのメール配信サービスを無料で利用することも可能です。
● 【参考】環境省熱中症予防情報サイト(別ウインドウで開きます)
環境省は暑さ指数が33に達すると予測される場合には「熱中症警戒アラート」、暑さ指数が35に達すると予測される場合には、「熱中症特別警戒アラート」を発表しています。特別警戒アラートが発表された場合には、「エアコンのある室内などの涼しい環境で過ごす」「こまめな休憩や水分補給・塩分補給をする」「涼しい環境以外では、運動は原則としてしない」などの対策が求められます。涼しい環境への避難が大切なため、市町村が指定しているクーリングシェルター(指定暑熱避難施設)に移動することも考えられます。
役所やスポーツセンター、図書館など地域の施設がクーリングシェルターとして指定されていることが多いです。「クーリングシェルター ○○(自治体名)」で検索すると調べられるので、お住まいの地域のクーリングシェルターをぜひ調べてみてください。
国は熱中症予防に必要な対策を総合的、計画的に推進するため、令和3(2021)年から「熱中症対策推進会議」を開催し、11省庁がこれに参加しています。「2030年に熱中症死亡者半減」を目指しています。
気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律(令和5年法律第23号。)が令和5(2023)年5月12日に公布され、上記で紹介した「熱中症警戒情報」「熱中症特別警戒情報」やクーリングシェルターの制度などが新設されました。
独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)においては、「熱中症警戒情報等の発表の前提となる情報の整理、分析及び提供を行うこと」及び「地域における熱中症対策の推進に必要な情報の収集、整理、分析及び提供並びに研修を行うこと」が業務として追加され、熱中症対策に係る様々な取組を実施しています。
● 【参考】環境再生保全機構 熱中症対策部サイト(別ウインドウで開きます)
次回はぜん息・COPDと熱中症との関係や運動する際のポイント、周りの人が熱中症になってしまった場合の対応などについて紹介します。
(この記事は3回連載の予定です)
熱中症対策新時代 イチから学ぶ熱中症➀