感染症と呼吸器疾患③ RSウイルス感染症

乳児や基礎疾患のある人が重症化しやすいとされる「RSウイルス感染症」。ぜん息やCOPDなどの呼吸器疾患を持つ方が気をつけたい感染症について解説をしてきた「感染症と呼吸器疾患」の最終回はこのRSウイルス感染症を取り上げます。RSウイルスの感染ルートや病態、感染を予防するにはどうしたら良いのか、感染したらどのような治療法があるのか、ぜん息・COPDとの関係性などを、すこやかライフ編集委員の佐藤さくら先生に伺います。

乳児や基礎疾患のある人は特に注意

RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染して起こる呼吸器感染症です。鼻水や咳などの「かぜ」のような症状から始まり、次第に咳が強くなることがあります。乳児期に感染すると、「細気管支炎」と呼ばれる呼吸が苦しくなる病気を起こすことがあり、注意が必要です。大人では軽症で済むことが多いものの、基礎疾患がある方は重症化することもあります。

以前は冬に流行する感染症でしたが、近年は夏でも流行がみられます。さまざまな感染症に対してワクチンが普及しているため、小児病棟では感染症でベッドが埋まることは減っていました。しかし、コロナ禍後にRSウイルス感染症が爆発的に流行した時期には、夏にも病棟が満床になるほどの患者が発生しました。

定点医療機関当たり患者報告数

「RSウイルス感染症の流行状況」
(東京都感染症情報センター)
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/rs-virus/rs-virus/)を加工して作成

RSウイルスは風邪の原因となるウイルスの一つで、症状だけで風邪と区別するのは難しいことがあります。乳児では重症化の可能性があるため、特に生後3〜4カ月の赤ちゃんに発熱や咳がみられる場合は注意が必要です。診断には、鼻咽頭ぬぐい液を用いた迅速抗原検査が行われ、短時間で結果がわかります。特効薬はなく、治療は主に対症療法(症状を和らげる治療)です。感染経路は飛沫感染と接触感染で、保育園などで集団感染が起こることもあります。

重症化リスクにはワクチンや抗体製剤で対応

ウイルスや細菌が体に入ったときに排除しようとするタンパク質を「抗体」といいます。ワクチンとは、病気の原因となるウイルスや細菌を弱毒化したもので、接種するとそれらの病気に対応できる抗体が作られます。病気にかかったときはその抗体がウイルスや細菌を追い出します。一方で「抗体製剤」という薬があります。こちらは抗体を人工的に作り体内に入れることで、病気の原因物質を撃退します。どちらも人間の免疫機能を利用した医薬品です。

日本で承認されているワクチンは2種類あります。適応が限定されていて、一つはアレックスビー®で、60歳以上の成人と、重症化のリスクの高い50~59歳の方が接種対象です。もう一つはアブリスボ®で60歳以上の成人と、妊婦が対象です。いずれも任意接種のため、費用は自己負担となりますが、一部自治体では助成制度があります。

重症化を予防する目的で、乳幼児には抗体製剤が使えます。抗体製剤にはシナジス®やベイフォータス®などがあります。いずれも非常に高価な薬で、早産児や基礎疾患がある場合は保険適用となりますが、多くの場合は適用外となります。

流行期には手洗い、うがい、マスク着用を

RSウイルスは下気道まで入っていくウイルスで、ぜん息やCOPDで呼吸機能が落ちている方は増悪を引き起こしやすいです。そのため、成人の方でもワクチン接種を考えてもよいのではないかと思います。肺炎球菌のワクチンは高齢者の方に接種が勧められていますが、RSウイルスもかかりやすい感染症なので、接種してもよいと思います。かかりつけ医に相談してみてください。

感染しないよう、流行期には標準予防策である手洗い、うがい、マスク着用をしてください。どの感染症に対しても言えることですが、基礎疾患のコントロールをよくしておくことが何よりも大事です。

3つの感染症の特徴まとめ

百日咳 マイコプラズマ肺炎 RSウイルス感染症
咳の様子 息が止まったような咳で、息を吸うときに喉が鳴る 乾いたひどい咳で長引く ゼイゼイという音を伴う場合もある
原因 百日咳菌(細菌) マイコプラズマ・ニューモニエ(細菌) RSウイルス
治療 マクロライド系 マクロライド系 効かない
予防 5種混合ワクチン なし アレックスビー®
(成人向け)
アブリスボ®
(主に妊婦向け)※

※アレックスビー®は60歳以上の成人と、重症化リスクの高い50~59歳の方が接種対象、アブリズボ®は妊娠24〜36週の妊婦と60歳以上の成人が対象

佐藤さくら先生からひと言

3回の連載で紹介した感染症のほか、肺炎球菌、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどさまざまな感染症があり、その多くはぜん息やCOPDの症状を悪化させる恐れがあります。周りの方で症状がある方がいたら距離を置くようにする、家族がかかったときは隔離するという対応をしてください。早く治療したほうが増悪を防げるので、疑わしいと思ったら早めに受診してください。

佐藤(さとう)さくら先生

1999年宮崎医科大学医学部卒業。同年宮崎医科大学小児科勤務。2005年国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー疾患研究部 流動研究員。13年同病院 臨床研究センター 病態総合研究部 病因病態研究室長。21年食物アレルギー研究室室長。23年アレルギー性疾患研究部長。