記録で見る大気汚染と裁判
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千葉川鉄公害訴訟

裁判

裁判では、多数の書面が裁判所に提出または記録されます。双方の主張であったり、証拠書類であったり、証言を書きとめた記録だったり、判決文だったりします。 これらの記録を見ることで、裁判の内容がわかりやすくなります。

訴状

訴状とは、裁判所に民事訴訟を起こす時に、訴える人である原告が裁判所に提出する、訴えの内容について述べた文書のことです。
公害裁判の訴状には、訴えられる対象となった大気汚染の原因をつくった工場と、被害を受けた原告が特定されています。なぜ原告が裁判を起こさなければならなかったのか、原告が求めるものが何かを簡潔に記しています。

千葉川鉄公害裁判は、他の大気汚染公害裁判と大きく違う点があります。大気汚染裁判の原告は公害健康被害補償法で認められた公害病の認定患者がなることが多いですが、千葉の裁判においては認定患者だけではなく、公害健康被害補償法の公害認定地域に居住または通勤している人も原告となっています。

請求は川崎製鉄株式会社千葉製鉄所に対するものです。
・千葉製鉄所の第6溶鉱炉および関連施設の建設の差し止め
・千葉製鉄所の操業に伴って発生する二酸化硫黄、二酸化窒素、浮遊粒子状物質の排出を下記表以下にすること

物質 数値
二酸化硫黄 1時間値の一日平均値が0.04ppm以下であり、かつ1時間値が0.1ppm以下であること
浮遊粒子状物質 1時間値の一日平均値が0.10mg/㎥以下であり、かつ1時間値が0.20 mg/㎥以下であること
二酸化窒素 1時間値の一日平均値が0.02ppm以下であること

・原告である公害健康被害補償法の認定患者に対しての損害賠償

戦後、千葉県の工場誘致によって、1950年に川崎製鉄株式会社が旧日立航空機株式会社工場跡地に建設されることが決定し、1956年に操業開始しました。その後、生産規模は拡大を続ける一方で、環境対策がおざなりとなり、1973年の環境省が発表した全国各地数千百か所の二酸化硫黄濃度測定結果によると、98%値の濃度番付上位10地域に千葉市内の5測定地点が入っており、そのうち4測定地点は川鉄周辺の公害指定区域内でした。
このような汚染状況の中、新しく第6溶鉱炉が建設されることとなりました。千葉県および千葉市と取り交わした「第6号高炉等建設に伴う環境整備計画書」通りに汚染物質を削減したとしても、国の環境基準が達成されないことから、その建設差し止めを求めて第1次訴訟が1975年5月26日に提訴されます。しかし、第6溶鉱炉建設は続行され、1977年6月17日に稼働されました。第2次訴訟は、第6溶鉱炉の建設後の1978年4月17日に提訴されています。


1次訴訟訴状

2次訴訟訴状

準備書面

日本の民事訴訟で、双方の当事者または訴訟代理人が公開法廷における裁判官 の面前で、被告と原告が意見や主張を述べることを口頭弁論といいます。この口頭弁論は、事前に書面で準備しなければなりません。それが準備書面です。 準備書面を読むと被害者の視点と汚染者の理屈がわかります。

原告

地裁

番号 内容
目次
原告最終準備書面の総目次
第1分冊
第1章 千葉市の公害と本裁判の意義、
第2章 侵害行為
〔内容〕大気汚染の状況を、汚染物質(二酸化イオウ)の観測結果や原告の証言から述べている。
第2分冊

〔内容〕「第2章 侵害行為」の続き。汚染物質(チッソ酸化物・粒子状物質)の観測結果から汚染の状況を述べたもの。
第3分冊(1)

〔内容〕「第2章 侵害行為」の続き。原告らが罹患した疾病(慢性気管支炎・肺気腫・気管支ぜん息・ぜん息性気管支炎)と、汚染物質との因果関係を疫学的見地から述べている
第3分冊(2)

〔内容〕「第2章 侵害行為」の続き。被告側の証言が誤りであることを述べ、あるいは批判している。千葉市における健康診断結果を示しながら、喘息患者が増加していることを述べている。
第4分冊

〔内容〕「第2章 侵害行為」の続き。汚染物質の測定方法とその結果を示している。
第5分冊
第3章 責任と違法性
第4章 差止請求
第6分冊
第5章 損害(一部未公開)
第6章 結語
(補充)その1
序章 本準備書面の性格
第1章 本件地域における大気汚染
第2章 本件疾病と大気汚染との因果関係
第3章 公害健康被害補償法による地域指定と因果関係について
第4章 昭和61年中公審の指定地域全面解除論の誤りと被告の主張
第5章 因果関係の立証程度と国道43号線公害訴訟判決について
第7章 排出差止請求の請求の趣旨の特定性
〔内容〕被告の右最終準備書面における被告の責任のがれの主張と、原告の主張と立証に対する「批判」につき、とくに重要と思われる論点について、反論を加え、かつ、原告の主張と立証につき、必要な補充を行おうとするもの
(補充)その2
第8章 被害総論
第9章 損害各論

高裁

番号 内容
目次
原告最終準備書面の総目次
第1分冊
第1編 総論
 序章 地球規模の環境問題のなかで
 第1章 千葉川鉄公害訴訟の今日的意義と控訴審の課題、第二章 控訴審の審理の特徴と争点
〔内容〕公害行政の後退のなかで、この裁判がどのような意味を持つのかを述べている。
第2分冊
第2編 各論
 第1章 被害総論
  第1 大気汚染公害における被害の特徴
  第2 公害病患者らの被害史―総体としての被害を理解するために
  第3 身体的被害
  第4 日常生活の破壊
  第5 家庭生活の破壊と家族ぐるみの苦痛
  第6 職業生活への深刻な打撃
  第7 経済的な負担の増大と生活の破壊
  第8 社会的・文化的生活からの疎外
  第9 子供の学業・生育への影響
  第10 環境破壊・物的損害
  第11 精神的被害と人生の破壊
  第12 川鉄への怒りと本訴訟にかけた思い―被害論の結びにかえて
第3分冊
 第2章 損害総論―一審原告らが求めている損害賠償とその正当性
  はじめに
  第1 包括請求の意義
  第2 一審患者原告らの包括請求と本裁判における請求額の妥当性
  第3 原判決の損害認定の問題点
 第3章 本件地域の大気汚染の実態
  第1 大気汚染の程度を測る指標
  第2 本件地域の大気汚染の状況
  第3 本件地域の大気汚染の状況に対する川鉄の批判について
  第4 測定体制の不備を補充する住民の体験にみられる汚染実態
第4分冊
 第4章 本件地域の大気汚染の原因―主要汚染源は川鉄千葉製鉄所である
  第1 一審原告らの主張・立証の要点
  第2 原判決の認定の正当性
  第3 川鉄の原判決批判の不当性
  第4 原判決の具体的な認定事実の正当性と川鉄の批判に対する再反論
 第5章 一審患者原告らの疾病と大気汚染との因果関係
  第1 法的因果関係の基本的考え方
  第2 川鉄の原判決の判決構造に対する批判とその不当性
  第3 原判決の正当性
  第4 原判決の具体的な認定事実の正当性と川鉄の批判に対する再反論
第5分冊
 第6章 動かぬ川鉄の公害責任
  第1 はじめに
  第2 原判決の判断とその意義
  第3 川鉄の公害責任否定の論理とその批判
 第7章 一審原告らの疾病罹患は明白である
  第1 はじめに
  第2 慢性閉塞性肺疾患と各疾病の概要
  第3 一審患者原告らの本件各疾病罹患の事実
第6分冊
 第8章 一審患者原告らの損害―損害各論(一部未公開)
  第1 はじめに
  第2 一審患者原告の損害
第7分冊
 第8章 一審患者原告らの損害―損害各論 の続き(一部未公開)
第8分冊
 第8章 一審患者原告らの損害―損害各論 の続き(一部未公開)
 第9章 差止請求について
 第10章 結語
補充その1

一審被告川崎製鉄の同日付最終準備書面につき、その論旨の特徴と問題点について総括的に批判し、一審原告らの主張と立証についての正しい理解を得るために作成。
被告

地裁

番号 内容
第1分冊
第1 序論、第2 行為論、第3 被害論
〔内容〕本訴訟における最大の争点を、川崎製鉄が排出した汚染物質と住民の疾患の因果関係の存否であるとし、主要な6争点をあげている。「行為論」においては、原告・被告の提出した汚染物質の観測結果を総合し、風向き等の問題から京葉工業地帯に林立する工場の影響も加味せねばならず、川崎製鉄1社に排出の責任があるとはいいがたいと述べられている。「被害論」においては、原告の病因を各証言にもとづきながら述べ、汚染物質により引き起こされたという根拠は乏しいと述べる。
第2分冊
第4 因果関係論
〔内容〕原告側が提出した汚染物質の測定方法、患者の診察についての妥当性から、原告らの主張には理由がないことを主張。
第3分冊
第5 故意・過失、第6 損害論、第7 個別論
〔内容〕「故意・過失」においては、川崎製鉄が煤煙にたいして対策を施しており、他の公害が起きた都市よりも汚染の度合いが低く、責められるべきではないことを主張。「損害論」では、持病の有無、治療歴、死亡時の年齢などから、原告らの請求が不当であることを述べている。「個別論」では、各原告の病状や生活習慣などを詳細に述べ、川崎製鉄に起因する公害ではないと主張(最終準備書面その4、7-311まで)。
第4分冊
第8 消滅時効、第9 差止論
〔内容〕「消滅時効」では、3年の時効により、訴えが無効になっているものを主張。「差止論」においては、原告らの訴える損害賠償・汚染物質排出差止ならびに、6号高炉操業停止は、被告(川崎製鉄)にとってその必要はなく、被告や地域社会に与える損害が起きいことを、汚染状況の低さや汚染対策のシステム導入を根拠に主張。
補充書

〔内容〕原告らの主張には、最終準備書面で初めて行われた主張も存在するので、これに対する反論を含め、以下に被告最終準備書面を補充するもの。
主に、汚染物質観察、個別論、病例検討の妥当性について、原告の主張に不備があることを述べている。(一部未公開)

判決

裁判所が判決を下した理由・事実・判決主文などが書かれています。 千葉川鉄公害訴訟の場合は、地裁判決があります。
判決では工場の公害責任が認められています。


第1章 証拠関係
第2章 当事者
第3章 侵害行為
第4章 健康被害
第5章 因果関係
第6章 責任原因
第7章 差止請求
第8章 損害賠償請求
第9章 結論

第2分冊(その1)
事実の部
第1章 申立て
第2章 主張
第3章 証拠関係
理由の部
第1章 証拠関係
第2章 当事者
第3章 侵害行為
第4章 大気汚染状況
第5章 主要汚染源性
第6章 健康被害
第7章 本件疾病と大気汚染
第8章 疫学調査、第9章 環境行政

第2分冊(その2)目録

和解調書

千葉川鉄公害訴訟では、裁判が続けられている最中に、原告と被告の両者が主張を譲歩して、権利関係に関する合意と訴訟終了について合意しました。裁判上で和解が成立した場合は、和解の内容が和解調書に書かれます。和解調書は判決と同一の効力を持っています。


和解調書
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