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「肥満」による「ぜん息の発症・悪化」の危険性を、
しっかり理解しておきましょう(全2回)②
~急激な体重増加をしない生活習慣を身につけましょう~

前回は、肥満の定義や内臓脂肪の測り方、そしてぜん息への影響について簡単に説明をしました。今回はもう少し掘り下げて、肥満とぜん息(特に女性の肥満とぜん息の関係)や、肥満の予防・解消方法について、湘南鎌倉総合病院 免疫・アレルギーセンター長の谷口正実先生にお話を伺いました。

ポイント!

食生活改善&運動習慣で肥満を解消!
肥満によるぜん息の発症・悪化リスクを食い止めましょう!

谷口正実 先生 湘南鎌倉総合病院
免疫・アレルギーセンター長兼
臨床研究センター客員研究部長
谷口正実 先生

男性より女性の方が肥満によるぜん息発症のリスクが高い!?

日本人において、肥満がぜん息の発症に影響するかを調べた研究があります。2011年から2014年の4年間にわたって、40~64歳の日本人男女約5万人の電子医療記録とメタボ健診データを環境再生保全機構の研究支援により、解析した研究です。

中年期の女性で内臓脂肪の簡易指標である腹囲が90cm以上ある場合、その後にぜん息を約1.7倍発症しやすいことが明らかになりました。この傾向は男性では明らかでありません。(参考文献3)

また、妊娠前や妊娠中の女性において、肥満や急激な体重増加があると、生まれてくる子どもがぜん息になる率が1.6~2倍程度高くなることが欧州の研究で判明しています。女性そのものが、小児と異なり思春期以降において、男性よりも2倍程度ぜん息になりやすいことが日本人だけでなく世界中で証明されています。こうしたデータを見ると、男性以上に成人女性は肥満に注意した方が良いと考えられるかもしれません。

と言っても、極端な食事制限などの過度なダイエットは健康を損なうので注意が必要です。特に妊娠中の女性は、専門医の指導のもと、適正な体重を維持することが、ご自身とお子さんのために重要です。男性も安心してはいられません。肥満を解消し、健やかな生活を維持するための手立てを考えていきましょう。

食生活の改善、適度な運動が肥満によるぜん息の発症・悪化予防につながります

ぜん息の方は、薬物治療を続けながらきちんと自己管理を行うことで、健康な人と同じ生活を送ることができます。その自己管理方法の一つには、肥満のリスクに直結する「食生活」があげられます。

年末年始は、特に食べ過ぎ飲み過ぎなどで食生活が乱れがち。お正月を過ごしたあと、体重が増えた経験がある人もいるのではないでしょうか。肥満に繫がる間食、過度の糖質や高脂肪食、甘いものの摂りすぎには十分気をつけましょう。睡眠3時間前には食事や間食をしないように心がけましょう。もちろん毎日の食事でも、栄養バランスが悪く高カロリーの食事をとり続けると、内臓脂肪を溜め込むことになります。バランスの良い食生活を心がけるようにしましょう。

筋力と内臓脂肪は天秤の関係。効率よく内臓脂肪を減らすには

ぜん息の発症や症状の悪化を食い止めるための自己管理として、もう一つの大切な方法は運動です。運動のメリットは2つあり、1つは内臓脂肪が減ること、もう一つは筋肉が増えることです。最近分かってきたのは、筋肉量が増えると内臓脂肪と逆に、ぜん息の炎症を抑える作用を持つ物質を出すことが分かりつつあります。内臓脂肪と筋肉とは天秤の関係にあり、筋肉が増えるとぜん息は良くなり、内臓脂肪は増えるとぜん息を悪化させるということです。ウォーキング、ランニング、水泳といった有酸素運動は、内臓脂肪を減らす直接的な効果があります。まずは可能な範囲で少し息切れする程度のウォーキングから始めてみてはいかがでしょうか。室内でできるスクワットもお勧めです。

ただし、ぜん息の方は、コントロールが悪い時(ゼイゼイしている時や風邪を引いた場合)に、運動中から直後にぜん息発作「運動誘発性ぜん息」を起こすことがあります。注意点は過去のコラムにまとめてありますので、ぜひご参考にしてください。

【運動をしましょう、続けましょう②~ぜん息の方が運動する際に注意すること~】

いかがでしたか?コロナ禍の今、ぜん息発作や悪化要因となる肥満や体重増加に注意し、内臓脂肪を溜め込まないよう、無理のない範囲で生活習慣の改善に努めましょう!

谷口正実(たにぐち・まさみ)先生

1981年、浜松医科大学卒業。88年、藤枝市立総合病院呼吸器内科医長。94年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)呼吸器アレルギー内科講師。97年、米国バンダービルト大学肺研究センター研究員。99年より、国立相模原病院に赴任。アレルギー科医長・気管支喘息研究室長、同内科系統合診療部長、同臨床研究センター長等を経て2020年より現職。

参考文献
1)今野 哲. 肥満と気管支喘息 アレルギー.2017;66:919
2)富田康裕, 福冨友馬, 谷口正実. 肥満とアレルギー アレルギー・免疫, 2017;24:1332
3)Tomita Y, Fukutomi Y, et al. Allergol Int. 2019;68(2):240-246.