本文へ移動

食物アレルギー今むかし④(全4回)
学校等での食物アレルギー対策も変わってきました!

独立行政法人環境再生保全機構では、「ぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2021改訂版」など、ぜん息を合併していることも多い食物アレルギーに関する冊子、パンフレットを数多くお届けしています。「食物アレルギー今むかし」の連載の最終回となる第4回では、「食物アレルギー診療ガイドライン2021」の作成委員長で、学校や保育所におけるアレルギー対応に関する国のとりまとめにも携わっていた海老澤元宏先生に、学校や保育所などでの食物アレルギー対応についてご紹介いただきます。

ポイント!

医療者、学校・保育所、そして保護者が連携して安心・安全な環境づくりを!

海老澤 元宏 先生 国立病院機構相模原病院臨床研究センター長
アレルギー性疾患研究部部長
海老澤 元宏 先生

重篤な事故を起こさない! 学校等でもきめ細やかな対応を実践

日本の食物アレルギーの社会的対応や診療面での進歩は、2000年頃を境に、急激な変化、進歩を遂げたと、連載第1回目の本コラムで申し上げましたが、学校や保育所でのアレルギー対応は、それより少し遅れてから、徐々に形作られてきました。

2004年、文部科学省が初めて全国の小中高生約1,200万人を対象に各種アレルギー疾患の有病率について調査をしたところ、食物アレルギーが2.6%、アナフィラキシー0.14%との結果が出ました。経緯を少し紹介すると、当初は調査対象をぜん息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎に絞り、同じ質問票で調査しようとしていました。しかしながら、既に学校給食における食物アレルギーの対応や2005年のエピペン®(アナフィラキシーに対する緊急補助治療薬であるアドレナリン自己注射薬)の国内への導入により、学校での食物アレルギー/アナフィラキシーヘの対応が喫緊の課題でしたので、食物アレルギー/アナフィラキシーの調査票を作成し調査に含めるように提案しました。調査から3年後の2007年に調査結果が公表され、2008年に全国の教育機関向けに「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が作られることになりました。

1年間かけてガイドラインを日本学校保健会で作成する作業が始まり、「学校生活管理指導表」というコンセプトを有識者委員会に提案し、原案を作成しました。更にエピペン®について、現場の教師が自ら注射できない状況にある児童・生徒に代わって注射できるように法的解釈(緊急避難行為)が国で検討されガイドラインに明記されました。

2008年にガイドラインが完成し全国行脚を行い普及啓発活動をしましたが、多くの教育委員会や医師会の学校保健部会からは“時期尚早”という評価を頂きました。しかし、2012年に調布市で起きた小学校5年生の女児の給食でのアナフィラキシーによる死亡事故がガイドライン準拠を進める原動力となり、2014年には文部科学省からガイドラインと管理指導表に基づいて学校が組織として対応すべきという強いメッセージが出され、更に2015年には「学校給食における食物アレルギー対応指針」が公表されました。

かつて、食物アレルギーを持つ児童・生徒には給食を提供しない、宿泊や外食を伴う学校行事や修学旅行に参加させないなど、食物アレルギーへの理解が乏しかった時代を経験した昔の保護者の方からすると隔世の感があると思います。今では学校の教職員がエピペン®の使用法も習得し、食物アレルギーの児童・生徒がエピペン®を学校に携帯して、教職員が緊急対応することも当たり前の時代になりました。

保育所でも2011年、同様に「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」及び「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」を導入することができましたが、その過程では学校向けのガイドラインにある管理指導表を基本とした対応と一致させるために、日本保育園保健協議会(現在の日本保育保健協議会)の有識者委員会と調整を重ねました。

学校・保育所での食物アレルギーを含むアレルギー疾患の取り組みについては、以下のホームページからガイドラインをダウンロードできます。

日本学校保健会「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(別ウィンドウを開きます)

厚生労働省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」(別ウィンドウを開きます)

生活管理指導表は医師、保護者、学校・保育所を結ぶ信頼のツール

給食での原因食物の除去などをはじめ、安全・安心に学校・保育所生活を送るために大切なのが、主治医が記して、学校・保育所に保護者が提出する「生活管理指導表」です。学校・保育所を対象にした前述の2つのガイドラインでも、医師の診断に基づく生活管理指導表の運用が勧められており、そこでは食物アレルギーを持つ児童・生徒であっても、できるだけ給食を提供するよう求められています。

ほかにも、学校・保育所と専門の医療機関を結ぶアレルギー対応ホットラインなどのサポートも一部の自治体などでは進んできています。

いざアナフィラキシーに直面し、エピペン®を打とうとしても、「本当に注射してもいいのか」と、現場の先生に迷いが生じることは少なくないでしょう。講習などを受けていて十分な知識を持っていても、いざというときパニックのようになることもあるかもしれません。そんなときにアレルギー対応ホットラインで、医師から「エピペン®を今すぐ打ってください。注射する場所はここです」と指示されることで、すごく安心できるはずです。

学校生活管理指導表(別ウィンドウを開きます)

保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表(別ウィンドウを開きます)

1980年代まで、ほとんど注目を集めることのなかった食物アレルギー。患者数の増加に伴い、国内外で様々な研究が進み管理方法や予防法も格段に進化してきました。“まだまだ対応がなっていない”と受け止める方もおられるかもしれませんが、海外と比較すると食物経口負荷試験を基本とした日本の食物アレルギー診療は世界最高のレベルになっています。管理方法では、原因食物の完全除去から必要最小限の除去へ、予防法も「食物アレルゲンとなる食物の摂取を遅らせる」という考え方から「いいタイミングで適切に摂らせる」へと様変わりしています。学校・保育所でも、様々な取り組みが行われるようになりました。これからもより良い診療、対応が生まれてくるはずです。患者さん、ご家族、医療者が協力しながら、QOL(生活の質)を高める努力を、これからも続けていきましょう。

海老澤 元宏(えびさわ・もとひろ)先生

1985年東京慈恵医科大学医学部卒業。国立小児病院医療研究センターレジデント、ジョンズ・ホプキンス大学臨床免疫学教室留学を経て、2000年より国立相模原病院小児科医長。現在、国立病院機構相模原病院臨床研究センター長、アレルギー性疾患研究部部長。食物アレルギー研究会世話人代表、日本アレルギー学会/アジア小児アレルギー学会/世界アレルギー機構の3つの理事長も務める。「食物アレルギー診療ガイドライン2021」作成委員長。医学博士。