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知っておきましょう、「職業性ぜん息」のこと
⑤「職業性ぜん息」の診断・治療とコントロール〜アレルゲン(原因物質)をできるだけ回避することが大切です~

「職業性ぜん息」は、職場で発生するさまざまな原因物質によって発症するぜん息です。あらゆる職場で起こりうる職業性ぜん息について、「職業性アレルギー疾患ガイドライン2016」の編集に携わった、群馬大学名誉教授で上武呼吸科器科内科病院病院長の土橋邦生先生にいろいろ伺いました。第5回目の今回は、職業性ぜん息の治療とコントロールの方法をご紹介します。

ポイント!

問診では自分の職業や作業内容などについて医師にきちんと伝えましょう

土橋 邦生 先生 上武呼吸器科内科病院病院長
群馬大学名誉教授
土橋 邦生 先生

そのぜん息が本当に職業性のものかどうか、問診と検査で突き止めます

職業性ぜん息の診断では、最初に、当然ですが、ぜん息であるかどうかをさまざまな検査や問診によって確かめます。

環境再生保全機構『ぜん息を知る〜検査と診断』(別ウィンドウで開きます)

ぜん息であることが分かった段階で、そのぜん息が「職業性ぜん息」である可能性を考えるべきでしょう。ぜん息の症状が、仕事をしていると悪化し、休日、とくに長期休暇の際に軽減するようなら、職業性ぜん息かもしれません。家庭環境だけでなく、ご自分の職業や現在従事している作業内容、扱っている物質など、職場環境についても、医師に伝えるようにしましょう。仕事の詳細を医師に話すことにはためらいもあるでしょうが、正しい診断のために必要です。

続いて、気道の炎症状態を客観的に数値化できるピークフロー(思い切り息を吐いた時の最大呼気流量)測定を自宅と職場で行うなど、ぜん息と職業との関連性を調べる検査などを行います。こうして詳しい問診やさまざまな検査によって、職業性ぜん息と診断されたあとは、職場にあるぜん息の原因物質を特定し、適切な治療と対策を行います。

薬物治療だけでなく、原因物質を回避する工夫が大切です

職業性ぜん息の治療法は、ぜん息の診療ガイドラインに則って行われます。基本となるのは、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬の使用です。

環境再生保全機構『ぜん息を知る〜治療』(別ウィンドウで開きます)

現在、ぜん息治療は長足の進歩を遂げ、吸入ステロイド薬は副作用も少なく、長期的かつ安全に用いることができます。きちんと定められた吸入を続ければ、多くの場合で症状が落ち着いてきますが、職業性ぜん息の場合、薬物療法を続けて、病状は治まっていても、原因物質に職場で曝され続けていることに変わりはありません。ピークフロー測定を行うと、やはり仕事をしている日は、そうでない日に比べて肺機能が低下していることが少なくありません。職業性ぜん息と分かって以降、原因物質の吸引がさらに5年、10年と長く続くと、ぜん息が難治化する可能性を否定することはできないのです。そこで、職業性ぜん息のコントロールでは、薬物治療と並んで、原因物質をいかに回避するか、その工夫が大切になります。

どうすれば原因物質を回避できるか、医師、職場に相談を

『職業性アレルギー疾患診療ガイドライン』では、特定された原因物質を、職場から完全に除去することが、最も優先すべき対応であると推奨されています。たとえば小麦粉ぜん息であるなら、小麦粉に全く触れない、決して吸引しないようにします。方法としては職場の配置転換、あるいは転職などがあげられます。もう一つが、素材の代替です。ラテックス手袋による医療者の職業性ぜん息は、ラテックスではない別の素材の手袋に変更したことで、新しい発症例はほぼなくなりました。

とはいえ、完全回避や素材の代替は、簡単にできることではありません。次善の策として、原因物質にできる限り曝されないように、工夫することが求められます。防毒マスクや防塵マスク、保護服の装着などは比較的有効です。換気装置の設置もある程度有効だと考えられています。いずれも職場の理解が必要です。

職場環境は千差万別です。一人ひとりに適した防御策を講じて、できる限り発作を抑えることができるよう、医師や職場によく相談することが大事です。

次回の最終回は、本コラムのまとめとして、患者さん・ご家族、職場の人々へのアドバイスをお伝えします。

土橋 邦生(どばし・くにお)先生

1978年群馬大学医学部卒業。博士(医学)。2005年同大学院保健学研究科教授を経て、2018年より上武呼吸器科内科病院病院長。群馬大学名誉教授。日本職業・環境アレルギー学会理事長を務める。「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン」の編集・発行(2013年)および改訂(2016年)に取り組む。日本呼吸器学会指導医、日本アレルギー学会指導医など。第66回日本アレルギー学会学術大会大会長。第41回日本職業・環境アレルギー学会学術大会大会長。