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第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座
「知りたいこどものアレルギー」レポート(全10回)
⑨小児気管支ぜん息の呼吸機能と極長期管理~こどもたちの未来を守るために~

2023年7月15日(土)~16日(日)、福岡国際会議場にて第39回日本小児臨床アレルギー学会共催学術大会が行われ、その中で、16日に環境再生保全機構(ERCA)主催による市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」(座長:昭和大学小児科学講座 今井孝成教授)が開催されました。

この連載コラムでは、各プログラムの講演の概要と、事前に寄せられた質問に対する専門医の回答を、全10回にわたり紹介しています。

連載第9回の今回は、前回に引き続き東海大学医学部付属八王子病院小児科医長、講師の平井康太先生による講演内容をご紹介します。

小児ぜん息患者の30年後を見据える

ぜん息の急性期の症状をご紹介してきましたが、このような苦しい状況は、今のところガイドラインの普及や薬剤・吸入ステロイドの進歩でだいぶ良くなってきています。ただ、今日の講演ではもうちょっと先の未来を見てみるとどうなのかを考えてみたいと思います。小児期ぜん息は、成人ぜん息へつながっていくのか、COPD(慢性閉塞性肺疾患)につながっていくのかということが現在注目されています。

そもそもこどものぜん息は、成長につれて良くなってくると言われていて、これを「アウトグロー」と呼んでいます。我々小児科医は、アウトグローをするために小児期の治療を頑張ればいいと思っていたのですが、必ずしもそうではないということが最近わかってきました。

小児ぜん息のこどもたちの30年後を見てみると、完全に寛解している人たちは22パーセント。29.7パーセントの人は、少し呼吸機能が低かったり、気道過敏性があるけれども症状は何もないという人たち。この2つの群を合わせると、ちょうど半分くらいの人たちは寛解を保っていますが、残りの半分の人たちはまだ症状があったり、吸入ステロイドを使っている状態であることがわかってきました。

このように、30年後もぜん息の症状がある人とない人がいるというのは、何がポイントなのかを見ていきますと、「呼吸機能」が1つのキーワードになりそうです。もともとの呼吸機能が100パーセントだとして、煙草を吸うと落ちていくのはご存じの通りですが、実はこどもの時に重症ぜん息だった人は、呼吸機能がそのまま下がってしまってなかなか良くならないということがわかってきました。

もともとCOPDは煙草が原因だというふうにずっと言われていたのですが、実は小児期の重症ぜん息も大きく関係しているという論文がたくさん出てきました。メルボルンスタディという40年以上続く長期的なコホート研究があるのですが、53歳までにCOPDを発症した人のうち4分の3の人たちは、小児期のぜん息や気管支炎、肺炎、アレルギー性鼻炎、湿疹、親のぜん息とか受動喫煙、本人の喫煙というのが関係しているという報告がされています。

小児ぜん息からCOPDへ?

成人になってもぜん息が続いている人とCOPDの人の呼吸機能を見ると、呼吸機能が悪い状態がずっと続いていると言われています。CAMP studyというデータによると、中等症以上の小児ぜん息患者のうち、①正常に肺が育つ人は25パーセント、つまり4分の1の人たちです。それ以外では、②正常に育つもののわりと早い段階から呼吸機能が少しずつ悪くなる人と、③肺がちゃんと育たず、呼吸機能が良くならないまま成長してしまう人と、④肺の育ちも悪くてその後呼吸機能がどんどん下がってしまう人、この4つの群に分けられます。このうちの③と④の呼吸機能が良くならなかった人たちを合わせると、50パーセントがCOPDになっていることがわかっています。

ただ、この呼吸機能が悪かった人たちがCOPDになるというのは、まだ吸入ステロイドなどがない時代の治療を受けていた人たちの話です。ですので、今の我々の一番の使命は、この小児期の呼吸機能を保つということなのかなと思っています。

呼吸機能が小児期より低下している場合は特に注意が必要です。客観的な評価を用いて極長期的な管理を心がける必要があるのではないかと思います。

アウトグローの評価

事例①:13歳男児

3歳の時に気管支ぜん息と診断されました。8歳から吸入ステロイドを始めたところ症状が良くなって、その後は急性増悪もなく経過していました。近隣の病院から「薬をやめていきたいのだが、どういうふうにやめたら良いか」ということと、3年間、無症状だったことから「アウトグローした(成長してぜん息が良くなった)のではないか」ということで、評価のために紹介されました。来院時はフルタイドを朝晩に吸っていて、ロイコトリエン受容体拮抗薬を飲んでいるような状況でした。ダニとハウスダストのアレルギー検査結果がクラス6と高いものの、普段からコントロールは良いようで、呼気NO値は12と正常値を示していました。

まずは気管支拡張薬の反応検査を行いました。来院の直後と、気管支拡張剤を吸った15分後にそれぞれ検査をしたところ、改善率は12.3パーセント、改善量が270mlありました。改善率が12%以上でかつ改善量が200ml以上の場合に、気道の可逆性があると(気管支拡張薬の使用により気管支が広がって元の太さに戻ること)と判定されますので、この患者さんは「可逆性あり」ということがわかりました。

私の所属施設では気道過敏性検査も行っています。なかなかこの検査を実施ができる施設は少ないのですが、どのような検査かと言うと、気管支を収縮させる薬を非常に薄い濃度の状態から始めて、次第に濃度を高めていって、どの程度気管支の収縮が起こるかという検査です。ぜん息の重症度が高い人や罹病期間が長い人ほど薄い濃度にも反応し、気道の過敏性が高いと判断されます。この患者さんの場合、2段階目の薄さの濃度でも気管支が収縮し始めましたので、重度の気道過敏性をお持ちだということがわかりました。

ぜん息の方が吸入ステロイドによる治療を始めると、はじめに①呼気NO値が下がり、②だんだん症状も良くなって急性増悪も起こさなくなります。その後、③気流制限も改善していって正常の呼吸機能に戻っていって、最後に、④気道過敏性が良くなるというふうに言われています。今の症例で見てみると、呼気NO値は正常で症状もなし、でも1秒率(FEV1%)が72%で気流制限があり、気道過敏性もあるということは、この②と③の間の状態なのではないかなと考えられます。

長期予防の観点から考えるとやはり治療を続けた方が良いと考えるべきではあるのですが、その一方でこの方はぜん息の症状が3年間全くない状態です。今のところ日本のガイドラインでは、5年間無投薬・無症状で、呼吸機能が正常というのが寛解の定義になります。これを踏まえるとまだ寛解とは言えないので治療を続けた方が良いと思うのですが、なかなか難しいんですね。

ステロイドを吸入していれば気流制限が良くなるのか、ロイコトリエン受容体拮抗薬を飲んでいれば良くなるのか、はたまた何か他の治療をしなければいけないのか……。僕はぜん息の委員をやっていますけれど、こういったところはガイドラインを作る上でもいつも議論になるところで、まだ結論が出ていないのが実情だと思っています。個人的には吸入ステロイドとロイコトリエン受容体拮抗薬の使用は気道の可逆性がある限りはやるべきだなと考えています。

【参考】小児ぜん息の検査(別ウィンドウで開きます)

重症ぜん息と生物学的製剤の使用

事例②:8歳男児

非常に重症のぜん息患者です。3歳の時からぜん息と診断されて治療をしていました。8歳になってコントロールが非常に悪くなり、かなりの量のアドエアを吸っているものの、ほぼ毎週、必ず発作が起きているというようなお子さんです。

血液検査での特異的IgEが非常に高く、アレルギー検査でもダニやハウスダストは非常に高くて検査値が振り切れてしまうほどでした。呼気NO値も102と非常に高値で、気道過敏性検査でも非常に重度の過敏性を持っていることがわかりました。くわえて呼吸機能も非常に悪く、80%以下だと悪いと言われているところ、68.7%でした。気道過敏性もひどく、一晩で600回もの咳をしていました。

まずは環境整備の見直しを行い、また、呼吸機能検査を改めて実施し、吸入をDPIからpMDIに変えて、スペーサーを使った吸入指導を始めました。ところがこれでも特に良くならず、もう1剤、吸入のステロイドを足しました。少しは良くなったのですが、それでも週に1回以上発作を起こしているような状況だったので、ここで生物学的製剤のゾレア®を使い始めました。

すると呼気NO値がどんどん下がってきて、呼吸機能検査の結果も80%以上をキープできるようになって、急性増悪もほとんど起きなくなりました。生物学的製剤は呼吸機能を良くする可能性のあるお薬だということがわかります。

【参考】生物学的製剤について(別ウィンドウで開きます)

全体のまとめ

ぜん息児と保護者のQOLというのはガイドラインの普及や環境整備、治療の進歩で良くなっています。ただ、重症ぜん息は将来COPDのリスクが高くなることがわかってきました。そのため、呼吸機能を保持する、もしくは良くしていって急性増悪を起こさせない治療をし、呼吸機能が改善するまで治療を続行するという極長期的な管理が我々に求められているかなと思っています。

次回は、平井先生のもとに寄せられた質問と、その回答をご紹介します。