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知っているようで知らない「セルフマネジメント」~その最新情報~
②実践しましょう! ぜん息・COPD患者さんのセルフマネジメント

セルフマネジメントとは、患者さん本人が自分の病気のことを理解し、病気と上手に付き合いながら、すこやかに生きる力を身につけること。セルフマネジメントを続けることで、ぜん息やCOPDによる増悪ぞうあく(発作や悪化)を防いだり、生活の質(QOL)の維持・向上につながることが分かっています。今回は、実際にセルフマネジメントに取り組む上で心がけたいことを、順天堂大学医療看護学部の若林律子教授にご紹介いただきます。

ポイント!

セルフマネジメントで大切なのは自信をつけること!

若林 律子 先生 順天堂大学医療看護学部
同大学院医療看護学研究科教授
若林 律子 先生

実現可能な目標(ゴール)を設定しましょう

ぜん息・COPDの患者さんだけでなく、人はそれぞれ異なる環境で生活をしています。

仕事、学校、家庭環境、それにともない一人ひとり日常生活の中で求めているものは異なります。

そのため、セルフマネジメントの目標も人それぞれです。まず私たち医療者が患者さんと一緒に確認するのは、よりよい生活をしていくためのゴールをどの辺りに設定するのかという点です。

例えば、息切れが激しくて家の外に出ることも容易でないCOPD患者さんが、「電車やバスなど公共交通機関を使って、一人で遠方へ買い物に行く」といったゴールをいきなりかかげてもすぐに実践するのは難しいでしょう。

ですので、「もう少し自由に動けるようになりたい」「自分の足で病院に通いたい」といった、身近な目標から始めてみます。患者さん本人が、「こうしたい」「こうなりたい」という思いを持って、実現可能な目標を相談しながら設定するのが肝心です。

医療者は、そのゴールテープを切るためにどうしたらいいのか、患者さんやご家族と考えていきます。手の届くゴールを決め、それをクリアできたら、また別のゴールを決めて実行に移す。こうした小さな成功体験の積み重ねにより自信がつくことでセルフマネジメントの継続につながり、よりすこやかな日常生活を送るきっかけとなります。

セルフマネジメントについて、「よく分からない」「どうすればいいのか見当もつかない」という方は、関連する情報をご覧になるとよいでしょう。

【参考】セルフマネジメント関連情報(別ウィンドウで開きます)

患者さんのご家族は、軽く手を添えるイメージでサポートしましょう

お子さんやご高齢の患者さんが、セルフマネジメントを実践する上で、医療者はもちろん、ご家族など周りの方のサポートも重要です。

ご家族など周りの方は、患者さん本人の意思に反して、「もっと運動をがんばりましょう」「決めたことだからやりましょう」などと強く背中を押すのではなく、本人が主体的に行っていることを見守るよう心がけるとよいでしょう。

一方で、重篤な患者さんをもつご家族は、必要以上に気を遣ってしまい「何も言えない」「何もできない」と、医療者へ窮状を訴える方が少なくありません。

しかし、例えばCOPD患者さんでは、息切れがするからと言って体を動かさずにいると、さらに筋肉が弱って、もっと苦しくなるという悪循環に陥ります。ほんの少しでも身体を動かすことが大事だということをご家族が知っていれば、「ちょっと散歩に一緒に行ってみる?」と声をかけることができると思います。

ご家族の方もぜん息やCOPDのことを正しく知り、そっと手を添えてあげるイメージで患者さんをサポートしていただけると無理なく一歩前に進めると思います。

【参考】COPDの息切れの悪循環と運動の効果(別ウィンドウで開きます)

「自信」をつけるための4つのポイント

セルフマネジメントにおいて重要なのが、自信をつけることです。

「自分ならできる」「きっとうまくいく」という認識が高い人ほど、セルフマネジメントをきちんと実行し、長期間継続する傾向があると、さまざまな研究によって分かっています。

自信をつけるための基本は4つです。

1.小さな「できる」体験を増やしていくこと。
このためゴール設定は、実現可能な目標から設定する必要があります。

2.他の患者さんがどんな工夫をしているか観察すること。
これを、心理学の言葉で「モデリング」といいます。たとえばぜん息・COPDのイベントや、患者会に参加したり、同じ病気をもっている個人のブログを見たりするといったことで他の患者さんとつながったり、モデリングをすることで、「これなら自分もできそう」と思うきっかけになります。

【参考】ぜん息・COPD関連団体(別ウィンドウで開きます)

3.周囲の人が患者さんの努力をきちんと認めること。
患者さんが、それまでできなかったことを自然にできるようになっていて、ご本人がそのことに気づかないこともあります。そんなとき、周囲の人が「階段の上り下りがずいぶんスムーズになったね。効果が出ているね。」という具合に伝えると、患者さんのモチベーションは高まります。

4.周囲の人だけでなく、患者さん本人が、自分で自分をほめること。
ご自分のことを否定することなく、「今日は完全にはできなかったけど、できることはしっかりやった」と、肯定的に自分自身を見つめましょう。

以上の4点を意識することで、自信がつき、結果としてセルフマネジメントの継続、QOL(生活の質)向上につながる可能性が高まります。

自分の「好き」をセルフマネジメントに取り込みましょう

セルフマネジメントを継続させるためには,自信をつけることに加え、自分の「好きなこと」を取り入れることが有効です。

私の知るCOPD患者さんに、音楽が好きで、運動は嫌いな方がいました。固定式自転車(エルゴメーター)をおすすめしたところ、当初はあまり乗り気ではなかったのですが、ある日、楽しそうに運動のことを話すようになりました。理由を聞くと、ペダルをこぐときに、好きな音楽をかけて、一曲分をストップウォッチ代わりにしているといいます。

何分間という時間で運動をおこなうのではなく、楽曲一曲分を楽しむついでに運動をする。さらにこの方は、少しずつ長い曲を選んでいき、徐々に運動量を増やしていきました。曲選びも楽しみとなりました。このように、好きなことと紐付けすることで、セルフマネジメントのモチベーションが高まります。

たとえば、本が好きな方なら、図書館まで歩いて行って、休憩がてら雑誌や新聞に目を通してから、読みたい本を一冊借りて帰る、そんな目標をかかげてもよいのではないでしょうか。

次回は、セルフマネジメントを継続する上で重要な医療者との信頼関係などについてご説明します。

若林 律子(わかばやし・りつこ)先生

1995年東京医科歯科大学医学部保健衛生学科看護専攻卒業。2011年日本医科大学大学院呼吸器感染腫瘍内科学博士後期課程修了。博士(医学)。2021年度より現職。セルフマネジメントプログラムとCOPD治療に関する知見を深めるため、カナダ・マギル大学ヘルスセンター・チェストインスティテュートに留学。欧州呼吸器学会、米国胸部疾患学会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本看護学会に所属。『呼吸器疾患のセルフマネジメント支援マニュアル(呼吸リハビリテーションマニュアル——患者教育の考え方と実践——改訂第2版)』(2022年)の主任編集ワーキンググループメンバー、事務局を務めた。