ドクターの小話WEB版2 ③似て非なるぜん息とCOPD~原因、治療の違いは?

ぜん息とCOPDは、どちらも空気の通り道である「気道」が狭くなり、息苦しさ、咳、たん、ゼーゼー・ヒューヒューする呼吸音などを起こす病気です。そのため、症状だけでは似て見えることがあります。

しかし、なぜ気道が狭くなるのか、そしてどの治療を中心に考えるかは大きく異なります。

原因の違い

ぜん息:アレルギー性の炎症が中心

ぜん息では、気道にアレルギー性の炎症が起こりやすくなっています。ダニや花粉、ペット、カビ、ウイルス感染、運動、冷たい空気、気圧の変化などをきっかけに、気道がむくんだり、過敏に反応したりして狭くなります。

特徴的なのは、良い時と悪い時の差があることです。ある日はほとんど症状がないのに、別の日には咳や息苦しさが強くなる、夜間や早朝に悪化する、といった「変動」がよくみられます。

COPD:喫煙などによる肺の構造変化

COPDは、主に長年の喫煙などによって肺が傷んで起こる病気です。タバコの煙などの刺激により、気管支に慢性的な炎症が起こるだけでなく、肺の奥にある「肺胞」(はいほう)という小さな袋が壊れてしまいます。

肺胞は、酸素を取り込む大切な場所であると同時に、気道を外側から支える役割も持っています。肺胞が壊れると、気道を外側から引っ張って開いておく力が弱くなり、息を吐く時に気道がつぶれやすくなります。

なお、COPDは喫煙だけでなく、幼少期の肺の発育不良や子どもの頃の重い肺疾患、母体喫煙、大気汚染、職業性の粉じん曝露(ばくろ)などが背景になることもあります。

病態の違い

ぜん息:炎症を抑えれば、気道はかなり元に戻りやすい

ぜん息では、気道の炎症により粘膜がむくみ、ただれ、敏感になります。その結果、気道の筋肉が縮みやすくなり、たんも増え、空気が通りにくくなります。

ただし、ぜん息の重要な点は、適切に治療すれば気道の状態がかなり改善しやすいことです。特に吸入ステロイドで気道の炎症をきちんと抑えると、気道のむくみや過敏性が改善し、ほぼ正常に近い状態を保てることも少なくありません。

そのため、ぜん息では「症状がある時だけ気管支を広げる」のではなく、普段から炎症を抑える治療が大切です。

COPD:肺胞が壊れると、完全には元に戻りにくい

COPDでは、気管支の炎症に加えて、肺胞の破壊、すなわち肺気腫の変化が問題になります。肺胞が壊れてしまうと、気道を外側から支える力が弱くなります。

この状態では、気管支拡張薬で気道を広げても、肺の構造そのものが変化しているため、完全に正常な気道の広がりには戻りにくいことがあります。

つまり、ぜん息では「炎症によって一時的に狭くなっている」要素が大きいのに対し、COPDでは「肺の構造が傷んで、持続的に狭くなっている」要素が大きいと考えると理解しやすくなります。

肺胞が壊れ、拡張することで呼吸機能が低下する病気

治療の違い

ぜん息:吸入ステロイドが治療の中心

ぜん息治療の中心は、気道の炎症を抑えることです。そのため、基本となる薬は吸入ステロイドです。

吸入ステロイドは、気道の炎症を抑え、発作(増悪)を起こしにくくし、症状の変動を少なくする薬です。症状が軽くなったからといって自己判断で中止すると、気道の炎症が再び悪化し、発作につながることがあります。

必要に応じて、長時間作用性の気管支拡張薬などを組み合わせますが、ぜん息ではあくまで「炎症を抑える治療」が土台になります。

COPD:気管支拡張薬が治療の中心

COPDでは、気道が持続的に狭くなっているため、治療の中心は気管支拡張薬です。気管支を広げることで、息切れを軽くし、日常生活を動きやすくすることを目指します。

治療では長時間作用性の気管支拡張薬を継続して使うことが多く、症状や増悪の頻度に応じて薬を調整します。

一方で、COPDに対する吸入ステロイドは、ぜん息のように全員に使う薬ではありません。COPDでも、好酸球というアレルギー性炎症に関わる細胞が多い人や、増悪を繰り返す人などでは、吸入ステロイドを併用することがあります。

しかし、肺炎などの副作用にも注意が必要なため、必要な人に限定して使うことが大切です。

ぜん息とCOPDが合併することもある

実際の診療では、ぜん息とCOPDの両方の特徴を持つ方もいます。たとえば、若い頃からぜん息があり、さらに長年の喫煙歴によってCOPDの要素が加わる場合です。

このような場合は、単純に「ぜん息だけ」「COPDだけ」と分けられないことがあります。ただし、ぜん息の要素がある場合には、吸入ステロイドを含むぜん息治療を軽視しないことが重要です。ぜん息を合併しているのに吸入ステロイドを使わないと、発作や増悪のリスクが高くなることがあるためです。

まとめ

ぜん息 COPD
主な原因 アレルギー性の気道炎症が中心 喫煙などによる気管支・肺胞の傷みが中心
気道が狭くなる理由 炎症で気道がむくみ、過敏に反応して狭くなる 肺胞が壊れ、気道を外側から支える力が弱くなって狭くなる
症状の出方 良い時と悪い時の差があり、夜間・早朝に悪化しやすい 息切れや咳・たんが持続し、徐々に進みやすい
治療の中心 吸入ステロイドで気道の炎症を抑える 気管支拡張薬で空気の通りをよくする
改善のしやすさ 適切な治療で気道の状態がかなり改善しやすい 肺の構造変化があるため、完全には元に戻りにくい

ぜん息とCOPDは、どちらも気道が狭くなる病気ですが、狭くなる理由が異なります。

ぜん息は、主にアレルギー性の気道炎症によって、気道がむくみ、過敏になり、変動しながら狭くなる病気です。そのため、治療の中心は吸入ステロイドによる炎症のコントロールです。

COPDは、主に喫煙などによって気管支や肺胞が傷み、肺の構造変化によって気道が持続的に狭くなる病気です。そのため、治療の中心は気管支拡張薬です。吸入ステロイドは、好酸球が多い場合など、必要な方に限定して使います。

症状は似ていても、病気の成り立ちと治療方針は異なります。息切れや咳、たん、ゼーゼーする症状が続く場合は、呼吸機能検査などで確認し、自分に合った治療を受けることが大切です。

長瀬 洋之先生

1994年東京大学医学部医学科卒業。96年東京大学物療内科勤務、2002年に医学博士取得。03年帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学、16年6月から現職。日本アレルギー学会 気管支喘息ガイドライン専門部会作成委員。