暑さとぜん息 ①入院リスクが4倍以上に 東京科学大学などの研究でわかったこと

猛暑の日が続くと、気になるのは熱中症ですよね。でも実は、暑さが影響するのは熱中症だけではないようです。

東京科学大学と米国ジョンズホプキンス大学の研究グループは、暑さによってぜん息で入院するリスクが高まる可能性があることを明らかにしました。

ぜん息は寒い時期に悪化しやすいことで知られていますが、暑さとの関係はこれまであまり調べられてきませんでした。研究グループは、このまま気候変動が進めば、暑さが原因となるぜん息の入院患者数が21世紀末までに2010年代の4倍以上になる可能性があるとしています。

暑さはなぜぜん息に影響するのでしょうか。私たちはどんなことに気をつければいいのでしょうか。研究に取り組んだ東京科学大学の西村久明助教に話を聞きました。

研究者も驚きの結果に

――なぜ、この研究に取り組んだのですか。

ぜん息をはじめとする内科的な疾患と暑さとの関係については、海外での研究例はいくつかありましたが、日本ではありませんでした。

暑い日が多いということはメディアで報道されますが、そのことが必ずしも気候変動への関心につながってはいません。気候変動と疾患との関係について、具体的な数字が出てくると、気候変動の影響をイメージする材料になると思いました。

研究の結果、暑さがぜん息で入院するリスクを高めることが明確に示され、私自身も驚きました。

――研究の内容と結果を具体的に教えてください。

気候変動と人口動態の将来予測を使って、暑さとぜん息の入院患者数の関連性をシミュレーションしました。気候変動予測は国立環境研究所のSSP(共通社会経済経路)という温室効果ガス排出量の異なる五つのシナリオを使いました。SSPには、排出量が少なく平均気温が1.0℃〜1.8℃上昇するSSP1から、排出量が多く平均気温が3.3℃〜5.7℃上昇するSSP5まで五つあります。今回はSSP1、SSP2、SSP5の3種類で比較しました。温暖化が最も進んだSSP5の場合、入院数比は人口減少を考慮すると4倍、考慮しないと7倍になると予測されました。

図1 将来の温暖化を想定した五つのシナリオ

温室効果ガスの排出量や社会の変化をもとに、将来の温暖化を五つのケースで予測したもの。SSP1は温暖化を比較的抑えられた場合、SSP5は温暖化が最も進んだ場合を想定しています。

図2 温暖化が進んだ場合の入院数比予測

温暖化が最も進んだ場合、暑さに関連するぜん息の入院数は21世紀末に2010年代の最大4.19倍になる可能性があります。人口が減っても、暑さによる影響がそれを上回ると予測されました。

暑い日には入院数1.22倍に

図3は日平均気温とぜん息による入院リスクの関連について、年代別に示したグラフです。

日本全国の2011~2019年までの9年間のデータを対象としました。気象庁の区分に従い、全国を北海道、東北、関東など11地域に分け、6~9月の4カ月間に、「それぞれの地域で、1日の平均気温が上位1%に入る暑い日」を「極端に暑い日」と定義しました。

ぜん息による入院データはDPCデータベースから抽出しました。暑さの影響はその日だけではないと考え、当日と3日後までに入院した人数にしました。

解析の結果、極端な暑さにさらされた場合、入院リスクが最も低い気温の日と比べて、ぜん息で入院するリスクが1.22倍に増加することが明らかになりました。14歳以下の子どもでは、そのリスクは1.33倍になり、特に影響が大きいことが示されました。

診断群分類別包括評価データを蓄積したもの。どんな疾患でいつ入院したかが分かる

図3 子どもや高齢者では気温が高いほどぜん息入院が増える傾向に

気温の高さ(1日の平均気温が6~9月のうちどの程度の高さに位置しているか。比較的涼しい日を1%、特に暑い日を99%としている)。気温が高くなるほどぜん息による入院リスクは上昇しました。特に地域ごとの上位1%に入るような暑い日では、全年齢で入院リスクが1.22倍、子ども(0~14歳)では1.33倍に高まりました。大気汚染の影響を除いても同様の傾向がみられました。

暑さがぜん息のリスクとなる理由は

――暑いとなぜ入院数が増えるかについて、どのように考えられますか。

まず、暑さが直接、気道(気管支)に影響することが考えられます。気管支の周りにある筋肉の細胞には、カルシウムイオンなどを通すイオンチャンネルが存在します。

イオンチャンネルの中には、暑いと働きが活性化するものがあり、その働きで細胞内に気管支平滑筋の収縮を調節するカルシウムイオンが流入し、気管支が収縮してぜん息症状を引き起こすと考えられます。

暑さで体の炎症反応が強まり、気管支が収縮することもあると思います。

さらに気温の高い日には、大気中の化学反応が進みやすいため、PM2.5(大気中にある直径2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質)やNO2(二酸化窒素)、オゾンなどの大気汚染物質が増え、ぜん息症状が悪化することも考えられますが、今回の研究では、大気温泉の影響を除いても、気温が高くなるほどぜん息による入院リスクが上昇する傾向がみられたので、暑さによる人体の生理的な反応が入院リスクを高めていると言えます。

細胞膜に存在するたんぱく質。特定のイオンを通す孔の役割を果たす。

――子どものリスクが大人よりも高い理由をどう考えますか。

子どもは体重当たりの体表面積(熱放散するところ)が大人よりも大きいので、外気温の影響を受けやすいという特徴があります。また発汗能力が十分に備わっていないため、夏季の炎天下では、体内に蓄積した熱を汗によって効率的に放散することが難しくなります。

そのため暑さに対する脆弱性が高く、大人よりも影響が強く出たのだと考えます。

夏も治療を継続 暑い日はできるだけ涼しい場所に

――この研究結果を踏まえ、ぜん息患者はどのようなことに気をつけるべきだと考えますか。医療機関にはどんな課題がありますか。

ぜん息症状の悪化要因として、冷気や寒暖差が言われていますが、暑さについては考慮されていませんでした。暑さもリスクだということを知っていただくことが必要です。

夏は大丈夫だと考えるのではなく、ふだんの治療を夏もしっかり続けていただきたいです。特に暑い日には、暑い環境を避けることが求められます。

また、環境省の熱中症警戒アラートの情報を活用することも大事です。アラートが出ている日には、できるだけ涼しい場所にいるようにしてください。

医療従事者の多くは、暑さをぜん息のリスクと認識していないと思います。まず、そこを変える必要があると思います。

今後、暑さが原因の入院数は増えることが予測されます。

平時に比べて、暑い日とその後には患者がたくさん来るというように変動が大きくなるでしょう。その変動にどう対応するかが課題です。近隣の医療機関が連携するなどの対応をお願いしたいと考えます。

――最後に、研究結果を踏まえた読者へのメッセージをお願いします。

ぜん息では暑さの影響があまり言われてきませんでしたが、今回のデータで示したように、暑さはぜん息を悪化させる要因だと考えられます。

ぜん息の方は、特に暑い日には暑い環境を避ける行動をして、症状の悪化を防いでほしいと思います。

この研究は東京科学大学大学院医歯学総合研究科公衆衛生分野の西村久明助教、藤原武男教授、医療政策情報学分野の伏見清秀教授、ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院のブライアン・S・シュワルツ教授らのグループが取り組み、研究結果が2024年11月30日、国際科学誌Environmental Researchオンライン版に発表されました。

熱中症警戒アラートとは

熱中症警戒アラートとは、危険な暑さが予想され、熱中症の危険性が極めて高くなる日に、環境省と気象庁が共同で発表する注意喚起情報です。アラートは都道府県ごとに、気温だけではなく湿度や日差しなどを考慮した指標である暑さ指数(WBGT)が「33」以上と予測される場合、前日17時ごろ、または当日の朝5時ごろに発表されます。アラートが出ている日は、不要不急の外出を控える、エアコンの適切な使用、水分・塩分の補給、激しい運動の中止などの対応が推奨されます。

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西村久明(にしむら・ひさあき)先生

2023年、東京医科歯科大学医歯学総合研究科博士課程修了。博士(医学)。同年より同研究科助教。2024年10月の大学名称変更に伴い、東京科学大学医歯学総合研究科助教。専門は公衆衛生学、環境保健学。熱波や台風など、極端な気象現象による健康影響を研究している。