ぜん息児へのエール

ぜん息であることに慣れてしまっていた

「幼いころはぜん息の発作で、よく夜中の2時、3時に息苦しくなって目が覚めました。呼吸が楽になるまで、ぼんやり座っていましたね」

物心ついたときには、すでにぜん息だったという優木さん。発作で眠れないというつらい経験は小学校低学年のころがピークだったが、病院を受診するのは苦しくなったときだけで、継続的な治療は受けなかった。それでも中学、高校と進むにつれ、発作の回数は減り、程度も軽くなっていった。

ところが、大学進学を機に上京し数年たったある日、突然、大発作に襲われた。それまで経験したことのない苦しさで意識が朦朧（もうろう）となり、病院に搬送されてすぐに点滴を打たれた。処置が遅れたら、命の危険もあった。

「ぜん息発作で亡くなる方がいるとは聞いていましたが、まさか自分が、そんな発作に襲われるとは、思ってもみませんでした」

しかし、その後も継続的に治療を受けることはなかった。

「子どものころから息苦しさをがまんすることには慣れていたし、発作が出たときにだけ病院を受診し、薬を処方してもらえば大丈夫——。そんな考えで、ずっと過ごしてきました」

ぜん息がコントロールできるとは知らなかった

ぜん息に対する自分の考えが、間違いであることに気づかされたのは、実はつい最近のことだ。

仕事で呼吸器専門の先生と対談したときに聞いた「ぜん息の原因は気道の炎症。たとえ症状が出ていなくても、炎症は常にくすぶっている。だから、炎症を抑える吸入ステロイド薬を、症状の有無にかかわらず続けることで、急な発作を抑え、ぜん息をコントロールできる」という話の一つひとつが、優木さんには目から鱗だった。

対談後は、主治医の指示どおり、1日1回の吸入と定期的な受診を欠かさないようになったという。

「吸入は、朝の歯磨きのときと決めています。ほんの十数秒で済んでしまいます。毎朝、コンタクトレンズを付けるのと同じ感覚ですね」

発作が起きない安心感で新しいことにチャレンジ

「発作が出ると、7割ぐらいの力しか出せなくて、学校の記録会や部活の対外試合など、ここぞという時に何度もくやしい思いをしてきました」

と優木さんは語る。しかし、今は治療のおかげで発作はほとんど出ない状態にあり、その安心感は、仕事にも私生活にも良い影響を及ぼしている。

「いつ発作が出るかもしれないと、おびえることなく、新しいことに全力でチャレンジする自信がついてきました」

これまでは尻込みしていた演技の仕事もしてみたい、と意欲を見せる優木さんは、4歳と1歳の子どもの母親でもある。

「子どもたちにせがまれて浮き輪や風船を膨らませることも、以前は息苦しくてできなかったけれど、できるようになりました。治療を続けて本当に良かったと思う瞬間です」

『ぜん息である自分』と気長に付き合っていく

「私はぜん息を30年も放置してしまった結果、主治医からは『完治は難しいかもしれない』と言われています。同じことを子どもには、繰り返してほしくありません。子どもの様子をよく見て、いつもと違い元気がないなど心配なことがあれば、すぐに病院につれていくようにしています。もし、ぜん息と診断された場合には、迷わずきちんとした治療を受けさせたいですね。一方、ぜん息は生涯にわたりコントロールできる病気とも言われているので、私自身は『ぜん息である自分』を受け入れ、気長にぜん息と付き合っていきたいと思っています」