
石綿関連疾患の診断で重要な点は、石綿ばく露歴を確認することです。そのため、病気の既往歴や喫煙歴のほかに、学生時代のアルバイトも含めて従事した職業・職種を具体的に年代順に聴き取ること、幼少・子供時代の居住地などの生活環境も聴き取ることが重要です。また、父母や配偶者の石綿ばく露作業歴を聴き取ることも大切です。
しかしながら、石綿関連疾患は発症までの潜伏期間が長いことから、石綿ばく露歴が明らかでない場合もでてきます。そのため、胸膜プラークと石綿小体(アスベスト小体)が、医学的に客観的な石綿ばく露の所見として非常に重要です。
石綿を吸入することによって壁側胸膜に生じた限局的な線維性の肥厚を、石綿健康被害救済制度及び労災保険制度では「胸膜プラーク」と呼んでいます。通常は、びまん性胸膜肥厚と異なり、臓側胸膜との癒着はありません。
石綿小体とは、肺内に長期間滞留した石綿繊維の一部がフェリチンなどの鉄たんぱく質で覆われたものをいい、過去の石綿ばく露を推定する重要な指標となるものです。通常直径は2~ 5μmで鉄アレイ様など特徴的な形をしています。大量の石綿繊維を吸入した場合には、繊維の種類に関わりなく石綿小体が肺内に大量に見つかります。
ヒトの生体試料を用いた石綿ばく露量の評価には、手術や剖検時に得られた肺組織について、位相差光学顕微鏡を用いて石綿小体を計数する方法(労災病院のアスベスト疾患ブロックセンター(参照)で実施可能です)があり、乾燥肺重量1g当たりの本数で表します。職業性石綿ばく露の場合、2種類以上の石綿のばく露を受けていることが多いと言われています。比較的大量の短いクリソタイル(白石綿)だけのばく露を受けていると考えられるものの、石綿小体が一定量認められない場合には、石綿繊維そのものを電子顕微鏡で調べる専門的な分析が必要になる場合があります。また肺組織を得ることができない場合には、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の石綿小体を検出する方法もあります。※1
肺がんの発症のリスクが2倍以上になる累積石綿ばく露量に相当する石綿小体等の医学的指標は以下の通りです。
※1 気管支肺胞洗浄:気管支鏡を気管支に挿入して生理食塩水を注入し、回収した洗浄液の細胞成分や液性成分を分析し呼吸器疾患を診断する方法。
※2「肺組織切片中の石綿小体」の所見とは、肺組織の薄切り試料の中に石綿小体が光学顕微鏡で確認された場合をいい、複数の肺組織薄切標本において1標本当たり概ね1本以上の石綿小体が認められる必要があります。