記録で見る大気汚染と裁判
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四日市公害訴訟

裁判

裁判では、多数の書面が裁判所に提出または記録されます。双方の主張であったり、証拠書類であったり、証言を書きとめた記録だったり、判決文だったりします。 これらの記録を見ることで、裁判の内容がわかりやすくなります。
個人情報保護のため、被害者である原告の訴えなどは掲載していません。現物を見たい方は資料を所蔵している四日市市環境学習センターにお問い合わせください

訴状

訴状とは、裁判所に民事訴訟を起こす時に、訴える人である原告が裁判所に提出する、訴えの内容について述べた文書のことです。
公害裁判の訴状には、訴えられる対象となった大気汚染の原因をつくったコンビナートを形成する工場と、被害を受けた原告が特定されています。なぜ原告が裁判を起こさなければならなかったのか、原告が求めるものが何かを簡潔に記しています。

四日市公害訴訟では、原告が1965年から実施された四日市公害関係医療審議会による公害病患者の認定を受けていることを受けて、
・コンビナートを形成する企業の共同不法行為責任を追及
・原告の健康被害に対する損害賠償
を求めて、原告が企業6社を訴えています。

訴状
石油コンビナート関連工場等一覧表、表1
工場配置図
ばい煙発生状況
ばい煙発生施設の事業状況及び燃料使用状況
ばい煙排出状況
昭和37年4月~38年3月四日市市国保請求書による疾病発生率(100対、年間)

 

証人調書

証人とは裁判所に対し、自己の経験から知ることのできた事実を述べる第3者のことです。原告側と被告側の証人がいます。
倉敷公害訴訟では、原告側は学者や医者、被告側は企業の社員などが証言台にたちました。証人調書とは証言台で話した内容を裁判所が記録した筆記録です。
証人調書は論理だけでなく証人の人間味を伝える、読んでおもしろい資料です。

肩書は証言当時のものです。

立場 証人名 内容
原告 宮本憲一
大阪市立大学商学部助教授
四日市にはあらゆる公害が発生している。これは住民無視の拠点開発方式が引き起こしたもので、企業の責任はまぬがれない。
吉田克己
三重県立大学医学部教授
疫学の4原則に照らし、原告発病と被告排煙との間に因果関係が立証できる。
大島秀彦
三重県立大学医学部産業医学研究所助教授
二酸化硫黄の濃度が高くなると喘息の発作回数が多くなり、両者間に高い相関関係がある。
今井正之
三重県立大学医学部講師
動物実験からも二酸化硫黄によって慢性気管支炎などが起こることが判明。
柏木秀雄
三重県立大学付属塩浜病院医師
公害患者の主原因は大気汚染、汚染がなくなれば病状は軽くなるか進行が止まる。
伊東彊自
東海大学理学部教授
磯津への風向の特色は北西よりの季節風が多く、被告6社の排煙は明らかに磯津を汚染している。
吉村功
名古屋大学工学部助教授
二酸化硫黄と風向きの調査結果から被告会社と磯津との因果関係はぴったり当てはまる。
石田季樹
磯津南町自治会長
磯津の生活と、住民による公害反対運動の様子。磯津の汚染されていく経過や、身近な人たちの健康被害の状態、四日市市の公害病救済制度の発端となった自治会による救済制度の創設などを日記をもとに証言した。
被告 本間端雄
財団法人電力中央研究所火力機械部第二研究室長
風洞実験の結果、57メートルの低煙突でも煙は磯津上空を通過する。
広中明
中部電力株式会社火力部火力技術課長
脱硫装置の開発はまだ暗中模索である。
大矢久雄
中部電力前三重火力所長
C重油を使うように国から統制されていた。煙が磯津へ流れるのを見たことがない。
木戸岡文明
昭和石油株式会社製造管理部長
ロンドンスモッグ事件の集原因は二酸化硫黄ではなく粉塵である。
吉野量夫
昭和石油株式会社試験課長
理論計算の結果、昭和石油の排煙は磯津にほとんど影響はない。昭和石油以外に原因がある。
小西正廉
昭和四日市石油株式会社秘書課長
昭和石油が望んで四日市へ来たのではなく、政府の要望で進出した。
珠淵俊玆€
三菱油化株式会社製造第一部長
排煙は地区住民に害をあたえてはいない。
重岡政明
三菱油化株式会社製造第三部長
硫黄酸化物が排ガスとして大気へ放出される過程を説明した。
井上晃
三菱化成工業株式会社技術部副部長兼環境部長代理
排煙最大着地点は理論式で300メートル前後で当社内である。
小川孝男
三菱化成工業株式会社肥料課長
伊東彊自教授の教えを請うたが、当社の排煙は原告らには無関係である。
山崎勉
三菱モンサント化成株式会社管理部長
三菱モンサントの排煙は磯津とは無関係である。
山田務名
石原産業株式会社前四日市工場長
戦前の操業開始以来、公害防止に最大の努力を払ってきた。
中谷林平
石原産業株式会社四日市工場生産第三部長
四日市硫酸工場では酸を循環しており、硫黄分が吸収されている。
朝比英幸
石産工運株式会社取締役肥料部長(石原産業)
環境保全に力を入れている。排煙は規制値以下である。
山室利男
石原産業株式会社公害保全室長
排煙は磯津に流れず、海上へ流れている。
佐川弥之助
京都大学医学部教授
原告の労働能力を鑑定。

準備書面

日本の民事訴訟で、双方の当事者または訴訟代理人が公開法廷における裁判官 の面前で、被告と原告が意見や主張を述べることを口頭弁論といいます。この口 頭弁論は、事前に書面で準備しなければなり ません。それが準備書面です。 準備書面を読むと被害者の視点と汚染者の理屈がわかります。

被告

企業共通

  準備書面 内容
1 亜硫酸ガス暴露による動物実験
1、低濃度亜硫酸ガスの長期暴露による動物実験において有害な影響は認められない
2、今井正之講師らのラットの飼育実験と大島秀彦助教授らのマウスおよびラットの吸入実験は信頼できない
3、乙ほ号証等の援用
別紙一にカニクイザル実験の概要
別紙二にモルモット実験の概要
2 証人吉田克己の証言
1、疫学について
2、相関関係
3、疫学調査
4、国保請求書による罹患率の調査
5、昭和三十九年一月の集団検診
6、厚生省ばい煙等影響調査(昭和三十九年)
7、気管支喘息の発作回数とSO2濃度
8、慢性気管支炎有症率とSO2濃度との関係
9、疫学的相関関係と疫学的因果関係
10、硫黄酸化物の環境基準
11、SO2以外の要因の調査
12、SO2が原因として作用する機作(メカニズム)の説明
13、疫学的因果関係と臨床的因果関係(集団と個人)
14、いわゆる「公害病」認定について
3 亜硫酸ガスが人体に及ぼす影響
1、低濃度亜硫酸ガスの人体に与える影響について
2、硫酸ミスト及び他の物質の共存の下における亜硫酸ガスの人体に与える影響について
3、このように亜硫酸ガス及び硫酸ミスト等硫黄酸化物の人体に与える影響については、まだ未解明
4 原告の労働能力の喪失
1、本準備書の目的と範囲:原告らの疾病による労働能力の喪失が認められないこと、労働能力喪失による逸失利益などの損害はないことを解明する
2、労働能力評価の基準:原告らは労働能力完全喪失ことを前提として損害計算したが、原告らは生活維持のためでも、まだ労働に従事している、基準として具体的に諸要素を分析すべき
3、佐川鑑定書について
4、逸失利益
5、原告ら各人の労働能力喪失の有無、並びに逸失利益の有無について
6、弁護士費用、慰藉料
7、乙へ号証の援用
5 疫学的因果関係
1、吉田疫学とその概評(疫学的因果関係)
2、吉田理論
3、マックメーン理論:因果的関連性、副次的関連性、両関連性識別の基準、関連性の強さとその測定法
4、疾病頻度の算定法
5、累積罹患率
6、BMRC方式
7、厚生省方式
8、厚生省方式の評価
9、報告の要旨
10、報告の評価
11、閉塞性呼吸器疾患の原因
12、原因解明の方法
13、亜硫酸ガス原因説とその評価
14、浮遊粉塵と亜硫酸ミスト
15、大気汚染の多元性と吉田疫学
16、乙ろ号証の援用
6 閉塞性呼吸器疾患とその原因
1、閉塞性呼吸器疾患とその原因
2、原告等の閉塞性呼吸器疾患と亜硫酸ガスの関係
3、原告等9名の変則性呼吸器疾患の原因の個別的検討
4、動物実験について
5、書証の援用
6、準備書面の訂正

企業個別

  準備書面 内容
昭和四日市石油 第九準備書面
序論、本準備書面の目的と要旨

第1章、民法第七百九条の単独不法行為の不成立  
1、因果関係の不存在:原告主張の要約と立証責任の所在、気象学的因果関係の不存在、医学疫学的因果関係の不存在
2、違法性の不存在
3、故意過失の不存在

第2章、民法第717条の共同不法行為の不成立
1、被告昭和四日市石油の行為は独立して不法行為の用件を具備していないこと、
2、被告昭和四日市石油の行為は他の被告の行為と関連共同性を有しないこと、
3、因果関係、違法性並びに故意過失の不存在
三菱モンサント化成 第十五準備書面
序論:叙述の順序

第1章、三菱モンサントの重油使用量、亜硫酸ガス排出量および磯津到達濃度  
重油使用量とその検討  
亜硫酸ガス排出量とその検討  
磯津における到達濃度とその検討

第2章、気象学的因果関係について  
原告らの主張とそれに対する批判  
反証としての到達濃度計算結果

第3章:医学・疫学的原因関係について

第4章:民法第709条の不法行為の不成立

第5章:民法第719条の不法行為の不成立

第6章:原告らの損害の主張に対する反論  
原告らの損害額について  
賠償義務があると仮定した場合の賠償額について
中部電力 準備書面(第十五回)

第1、被告中部電力株式会社の事業の特殊性

第2、三重火力発電所の排煙について
 三重火力発電所設置の事情
 三重火力の施設と排煙の処理
 大気汚染防止に関する努力

第3、三重火力の排煙は原告ら居住地区に着地しない(気象的因果関係)
1、原告ら居住地区と三重火力の位置関係
2、気象条件と三重火力の排煙
3、排煙の拡散現象とその解明方法
4、三重火力の排煙の拡散現象
 一般流に対する地形・地物の影響
 塩浜地区の気流と鈴鹿山脈の関係
 三重火力の排煙とダウンドラフトおよびダウンウオッシュ現象など
石原産業 第十一準備書面
第1章、共同不法行為の不成立  
1、石原産業はコンビナートの構成員ではない
2、共同不法行為の成立要件の欠如

第2章、石原産業四日市工場の不法行為の不成立
1、因果関係
2、違法性の不存在、行為の社会的価値、場所の慣行性(地域適合性)、法規適合性(行為の態様)
3、先住関係(危険の引き受け)
4、故意・過失の不存在。
三菱油化 準備書面(その十一)
第1、因果関係について

第2、責任について  
1.被告三菱油化四日市工場の建設および操業継続に関する事実関係
2.故意について
3.過失について

第3、社会的相当性

第4、司法的救済の限界
三菱化成 第二十八準備書面(その一)
序、第二十八準備書面その一およびその二の要旨

第1章、被告三菱化成四日市工場の位置、施設、重油使用量等の概況

第2章、民法第709条の不法行為不成立の主張  
1.被告三菱化成の小規模排出施設、少量排出状況等の事由による因果関係不存在の主張
 2.原告らの主張する因果関係が成立しないことの主張
 3.違法性がないことの主張
 4.故意、過失がないことの主張
三菱化成 第二十八準備書面(その二)
第3章、民法第719条の共同不法行為不成立の主張
序、本章の要旨
 1.民法第719条第一項前段の共同不法行為が成立しないことの主張、
 2.民法第719条第一項後段の共同不法行為が成立しないことの主張。
第4章、原告ら主張の損害について 
 1.被告三菱化成は原告らに損害を与えていないことの主張
 2.損害額についての反論
第5章、分割責任論について
原告
番号 準備書面 内容
1 第十三準備書面
第1、四日市公害の歴史と被害者の叫び
 1、まとめ
 2、日本における公害の歴史
 3、四日市公害の歴史
 4、被害者の叫び
第2、主要な争点についての詳論
 1、因果関係
  総論
  各論
 2、共同不法行為
 3、故意、過失、違法性
 4、損害
第3、おわりに。
2 第十四準備書面
国連事務総長から「人間の環境に関する諸問題」という報告書で、強力で効果的な技術を環境改善に十分に利用しなかったことが明らかになっている。
環境復元と革新の対象は、単に自然のみならず、人間とそれを取囲む環境との間のあらゆる関係をと含むものであるべきである。
四日市第一コンビナートより亜硫酸ガスなどで健康被害などが発生され、この現状を救助し復元し、健康や生活を再建させるべきである。
企業の営利性だけで地域住民の生活無視と環境破壊ことを改めしむべきである。
3 第十五準備書面
1、日本の鉱山の歴史は鉱毒の歴史であった。明治以来の日本の資本主義がイタイイタイ病などのような悲惨な結果をもたらした。企業責任が厳しく追求し、公害の責任を明確にさせたい。
2、イタイイタイ病の患者が何人も苦しみで自殺した。公害裁判はこのような被害者の痛みと苦しみの中で続けてくれているのである。
3、被害のことを十分理され、人間としての気持を裁判所が持ってほしい。
4、科学と裁判。住民は科学をもって立証した。企業は無用な科学論争をやめてほしい。
4 第十六準備書面
1、四日市公害訴訟は、全国の国民の注視のうちに、結審されようとしている。各地の公害被害者のこの裁判に寄せる期待はきわめて大きい。これから「全国公害弁護団連絡会議」は、四日市公害訴訟の裁判に期待し、支援する。
2、住民が大気汚染により大きな被害を受けていることが明らかになり、大気汚染の元凶であるコンビナートの各独占企業に加害責任を断定してほしい。
3、人間としての生存そのものを回復し求めたいので、被害者の立場に立ち、被害者の損害賠償の要求に許されたい。
4、企業責任
5 第十七準備書面
第一、磯津地区におけるばい煙による大気汚染の影響についての被告らの主張立証に対する反論(原告第十三準備書面)の補充。
第二、原告らの罹患と大気汚染の関係についての被告らの主張、立証に対する反論(原告前記準備書面)の補充。
第三、共同不法行為の主張(原告前記準備書面)についての補充。
第四、違法性の主張(原告前記準備書面)についての補充。

判決

裁判所の判決主文・判決を下した理由・事実などが書かれています。 津地方裁判所四日市支部は、工場の共同不法行為を認め、被告企業に原告への損害賠償を命じました。

番号 準備書面 内容 データ
1 当事者の表示・主文・事実・証拠 主文
事実
  当事者の求めた裁判
  当事者の主張
  証拠
2 原告ら主張事実 その1 第13準備書面  
3 原告ら主張事実 その2 第13準備書面、第17準備書面  
4 被告ら共同主張事実 疫学的因果関係  
閉塞性呼吸器疾患とその原因  
原告の労働能力の喪失  
亜硫酸ガス暴露による動物実験  
証人吉田克己の証言  
亜硫酸ガスが人体に及ぼす影響  
5 被告昭和四日市石油株式・同三菱油化株式会社・同三菱化成工業株式会社 各主張事実 昭和四日市石油 第9準備書面  
昭和四日市石油 第10準備書面  
三菱油化 準備書面(その11)  
三菱油化 準備書面(その13)  
三菱油化 準備書面(その14)  
三菱化成 第28準備書面(その1)  
三菱化成 第28準備書面(その2)  
三菱化成 第32準備書面  
三菱化成 第32準備書面(続き)  
6 被告三菱モンサント化成株式会社・同中部電力株式会社・同石原産業株式会社 各主張事実 三菱モンサント化成 第15準備書面  
中部電力 準備書面(第15回)  
中部電力 準備書面(第19回)  
中部電力 準備書面(第20回)  
石原産業 第11準備書面  
7 理由 その一 当事者
不法行為(被告ら工場の設立の経過と稼動の状況)
8 理由 そのニ 被告らの責任
被告らの違法性の不存在等の主張について
損害
結論
9  添付「別紙」・「別表」・「別図」 別紙一、当事者目録。別紙二、請求認容額一覧表。

 

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