国立病院機構相模原病院 臨床研究センター
アレルギー性疾患研究部長
佐藤さくら先生
猛暑日の続いた夏が終わり、秋になりました。季節の変わり目は体調が揺らぎやすいことが知られています。秋には急に冷え込むことが多く、空気も乾燥してくるので、ぜん息やアトピー性皮膚炎の症状悪化が不安な方も多いのではないでしょうか。秋にはどんな注意が必要なのか、家庭でできる悪化要因の対策などを、相模原病院アレルギー性疾患研究部長で、すこやかライフ編集委員の佐藤さくら先生に聞きました。
秋は、日々の気温・湿度の変動、朝晩の寒暖差、台風などによる気圧の変化があり、それらはぜん息の悪化要因と言われています。ぜん息の方は、気管支の気道が過敏になっているので、乾燥した、冷たい空気を吸い込むと、それが刺激となり、ぜん息症状が出るのです。対策として、直接冷たい空気が気道に入らないようにマスクをする、加湿器で室内の湿度を調整する、エアコンで温度調整するのもよいでしょう。
また、秋から冬には、風邪やインフルエンザなどの感染症の患者が増えます。これらの感染症にかかると、ぜん息の悪化につながることがあります。これらの感染症にかからないために、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動を心掛け、生活のリズムを整えるとよいでしょう。また外出先から帰ったときには手洗い・うがいをするなど、基本的な感染予防対策も大切です。
さらに、小児ぜん息の患者さんの場合は、秋の行事へ参加する際に症状が悪化する場合があります。運動会や遠足など、屋外での活動時には注意が必要です。校庭で砂ぼこりを吸って、ぜん息症状が出てしまったり、遠足などの出先でぜん息症状が出てしまったりすることがあるためです。学校生活の状況に応じて出る症状にも対応できるように医師と相談し、学校関係者などと情報を共有しておくことも重要です。
いずれにしても、日頃からぜん息症状のコントロールを良好に保つことで、ぜん息の悪化を防ぐことができます。
ぜん息の症状が出やすい時期に大切なことは、自分の体調を的確に把握しておくことです。そこで活用して欲しいのが「ぜん息日記」です。ぜん息日記はその日の症状のほか、気道が狭くなっている度合いを示すピークフロー値、使った薬、一日の生活などを記録します。医師の診察時に、その記録を医師に共有することで、医師もぜん息の状態がわかり、治療の参考になります。
お子さんも、できれば自分自身でぜん息日記を書いてほしいです。なぜ、自分が治療しなければならないのか、薬はなぜ飲まないといけないのか、症状が悪化したときはどんな時だったかという疑問に対する回答が得られます。例えば、「この時は、薬をしばらく飲んでいなかったから、症状が出てしまった。」などということを日記で振り返ることにより、今後自分でもどうすれば調子がよくなるか分かるようになります。自身の病気、今の状態について知り、自分事としてとらえてもらうことが大事です。
実際、診察室で症状を話してもらう際は、保護者だけではなく、お子さん自身にも話してもらうようにしています。
ぜん息日記を毎日継続してつけるには、楽しく取り組む工夫をするとよいでしょう。丸をつけたり、シールを貼ったりして、ゲーム感覚でぜん息日記をつけているお子さんもいます。また、モチベーションをあげるために、この時期まで何もなかったら、薬を半分に減らせるといった、近い目標を持って記録するとよいでしょう。
「まいにちげんきノート」は、ERCAが発行している子ども向けのぜん息日記です。オリジナルキャラクター、ぜん太とソックと一緒に、子どもが自分自身で毎日の体の様子を記録することができます。楽しく記録できるように、「ごほうびシール」や「まいにちシール」が付いています。
秋は夏に比べて空気が乾燥しているため、皮膚の乾燥からアトピー性皮膚炎が悪化することがあります。皮膚が乾燥している場合には、毎日きちんと保湿することがまず大事です。皮膚の状態悪化が見られたら、早めに治療を開始する方がよいです。悪化した時に使うように医師から処方された薬が手元にあれば、その指示に従ってください。薬がなければ、病院を受診しましょう。また、スキンケアのやり方も見直してください。例えば、お風呂に入った時に正しい洗い方ができているか、お風呂を出た後にきちんと塗り薬を塗っているかを確認しましょう。
ぜん息やアトピー性皮膚炎の患者さんにとって、ダニやホコリは大敵です。夏に繁殖したダニの死骸やフンを吸い込むと、症状が悪化する恐れがあります。クーラーから暖房に変わる時期には、その前に一度、フィルターや内部の掃除をしてください。自分でするのが難しいようでしたら、業者に頼むとよいでしょう。床の掃除はこまめに行い、少し時間をかけてしっかり吸引することが大切です。椅子やソファーなどの家具の上にもホコリはたまっています。置きっぱなしの家具の裏側はホコリやカビの温床になるので、そういったところもきれいに掃除しましょう。ふとん専用ノズルの付いた掃除機もありますので、活用してください。
布団対策では、次の方法で掃除をすることでダニを減らすことができます。
①布団はできるだけ天日干しや布団乾燥機で乾燥させます。
②干した後は必ず掃除機をかけて表面のダニや死骸を取り除きます。ゆっくりと丁寧に、掃除機をかけると効果的です。
*高密度繊維の防ダニカバーを使用する場合は、こまめに洗濯し、ふだんは粘着クリーナーで表面のフケやごみを取り去ってください。
*ただし、スギ花粉がアトピー性皮膚炎の悪化要因になっている場合は、布団や洗濯物を外で干すことは逆効果になりますので注意しましょう。
掃除機は丁寧にかけましょう。
ぜん息症状の悪化を防ぐ室内環境の整備については、下記ページも参考にしてください。
季節の変わり目と言われる「夏から秋」は、症状が悪化しやすいですか?
気温、湿度の変化や、夏に繁殖したダニの影響があるため、「夏から秋」は症状が悪化しやすいです。
ぜん息の子がぬいぐるみをどうしても欲しがる場合に、注意することは何ですか?
ぬいぐるみはダニが繁殖しやすいため、たくさんの数のぬいぐるみを持つことはお勧めできません。お子さんがどうしても欲しいという時には、ときどき洗濯し、できるだけ清潔になるよう心掛ける、ぬいぐるみと一緒に寝ないなどの配慮をするとよいでしょう。重症で症状のコントロールがうまくできていない場合は、その改善を優先したほうがよいでしょう。
空気清浄機を設置した方がよいのでしょうか。設置する場合の注意点を教えてください。
ホコリ以外にもPM2.5(微小粒子状物質)や花粉を除去するという空気清浄機が販売されていますが、ぜん息の治療としては推奨されていません。空気清浄機を使う場合には、定期的に掃除してフィルターの汚れがないように注意し、掃除などの基本的な環境整備は継続してください。
佐藤(さとう)さくら先生
1999年宮崎医科大学医学部卒業。同年宮崎医科大学小児科勤務。2005年国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー疾患研究部 流動研究員。13年同病院 臨床研究センター 病態総合研究部 病因病態研究室長。21年食物アレルギー研究室室長。23年アレルギー性疾患研究部長。