ドクターの小話WEB版③  咳がつらい夜~ぜん息以外の病気の可能性も?

ぜん息等にまつわる、知っておくとためになるお話を紹介するドクターの小話。第3回のテーマは「咳がつらい夜」です。「夜になると咳き込んで眠れない」「布団に入ると咳が出始める」――そんな経験はありませんか?今回は“咳”についてのお話です。

日中は問題なく過ごしていても、夜になると咳がひどくなるという声は、診療の現場でしばしば聞かれます。咳が長引いて眠れない夜が続くと、ご本人はもちろん、同居している家族の生活にも影響が出てしまいます。今回は、夜に咳が出やすくなる理由と、その対策、また考えられる病気についてご紹介します。

なぜ夜になると咳が出やすいの?

咳は異物や炎症を排除するための体の防御反応です。特に夜間に咳が出やすくなる理由として、次のようなものがあります。

リラックス時の気道の変化

夜は副交感神経が優位になるため、気道が少し狭くなりやすくなります。特に風邪やアレルギーなどで気道が刺激を受けやすくなっている場合、わずかな刺激でも咳が出てしまうことがあります。

寝る姿勢の影響

横になると、鼻水や痰が喉の方へ流れ込みやすくなり、咳を引き起こす原因になります。

乾燥やアレルゲンの刺激

冬場の乾燥やエアコンによる空気の乾燥は、のどを刺激しやすくします。また、寝具に潜むダニやホコリ、ペットの毛などのアレルゲンが咳を悪化させることもあります。

夜間の咳が続くときに考えられる病気

夜に咳が続く場合、次のような病気が関係していることがあります。

病名 病状
気管支喘息・咳喘息 夜間や明け方に咳がひどくなりやすいのが特徴で、風邪の後に咳だけが残るケースでも疑われることがあります。軽症でも放置せず、早期の治療が大切です。
副鼻腔炎(蓄膿症) 鼻水が喉に落ちる「後鼻漏」によって、夜間に咳き込むことがあります。昼間は目立たないのに、横になると咳が出たり、痰が絡んだりする場合はこの可能性があります。
アレルギー性鼻炎 寝具や部屋にあるダニ・ホコリなどに反応して咳が出ることがあります。鼻づまりやくしゃみが目立たない場合でも、アレルギーが咳の原因になっていることがあります。
胃食道逆流症(GERD) 胃食道逆流症は胃の内容物が食道に逆流することで、食道に炎症を起こす病気です。食道へ逆流した胃酸が喉を刺激して咳を引き起こすことがあります。朝の喉の違和感や胸やけがある場合は、この病気の可能性があります。

※その他、インフルエンザやRSウイルス(乳幼児の呼吸器感染症を引き起こすとされるウイルスの一つ)、新型コロナウイルスなどの呼吸器感染の後に、しばらく咳だけが続くことがあります。これは、感染によって傷ついた気道の粘膜が敏感になり、ちょっとした刺激でも咳が出やすくなっているためです。

参考:長引くせきにご用心!からだが発する「危険サイン」を見逃さない!(別ウインドウで開きます)

このように、夜間の咳にはさまざまな原因が考えられます。咳が長く続くなど眠れないほどつらい場合には、症状を詳しく医師に伝え、適切な診断と治療を受けることが大切です。

自宅でできる咳対策

医療機関での治療と併せて、家庭でもできる対策を行うことで、夜間の咳を軽減することができます。

上体を少し起こして寝る

枕を重ねる、またはベッドの背を少し高くすることで、呼吸がしやすくなり、咳が和らぐことがあります。

室内の加湿

乾燥は咳の悪化要因になります。加湿器の使用や濡れタオルを干すなどして、湿度40~60%を保ちましょう。

※湿度が上昇すると、カビやダニの発生を促してしまう可能性があります。ぜん息の原因がカビやダニとわかっている場合は、加湿器などの使用を控えた方がよいでしょう。

掃除と寝具の管理

布団やぬいぐるみなどにたまりやすいホコリやダニを減らすため、布団に掃除機をかけたり、もしくは防ダニカバーを使用したりするのも効果的です。

すまいの掃除のポイント(別ウインドウで開きます)

薬の継続使用

吸入薬や抗アレルギー薬など、医師の指示に従って薬を正しく使い続けましょう。抗生剤は必要な場合に限り処方されるものであり、自己判断で使用するのは避けましょう。

眠れる夜を取り戻すために

夜間の咳は、知らず知らずのうちに生活の質や仕事・学業のパフォーマンスに影響を与えます。「たかが咳」と軽く考えず、気になる症状があるときは早めに医療機関を受診しましょう。家庭での工夫と医療のサポートを組み合わせながら、安心して眠れる夜を取り戻していきましょう。

長尾みづほ先生

1997年岐阜大学医学部医学科卒業。同年岐阜大学医学部附属病院小児科研修医、2004年国立病院機構三重病院小児科。13年3月から国立病院機構三重病院臨床研究部長を務める。16年5月から三重大学大学院医学系研究科連携准教授を併任。日本小児科学会認定小児科指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医・代議員。