ぜん息などの情報館

3-3 生活環境中の汚染物質の健康影響に関する研究

工藤 翔二(日本医科大学教授)

研究の目的

生活環境中の大気汚染物質には、様々なガス状物質及び粒子状物質が存在するが、1997年にアメリカ合衆国では環境基準の中に粒子状物質としてPM2.5が基準設定されたことなど、粒子状物質(SPM)、特に呼吸器系の深部に到達する微小粒子状物質の健康影響への関心が高まっている。

しかしながら、わが国ではこれら微小粒子状物質について科学的組成を含めた環境実態は十分把握されておらず、また、その生体、特に呼吸器系への影響も明らかでない。

そのため、本研究では、昨年度に引き続き疫学的方法と、実験的方法の二つの手法を用いて、生活環境中の汚染物質、特に微小粒子状物質の生体影響について検討を行った。

3年間の研究成果

疫学的研究(研究リーダー:牧野国義 都立衛生研究所主任研究員)においては、粒子状物質の性状、健康影響を及ぼす機序、現在の測定方法などについて文献的な知見を整理した上で実際の疫学調査を行った。一般測定局近傍にある小学校の学童の欠席率からSPMはNO2よりも寄与することから、粒子状物質の急性影響が示唆された。また、選定された地域での喘息認定患者率の解析を行ったが、健康影響指標としては適さなかった。

一般測定局近傍に限定した6地域での家庭婦人への呼吸器症状に関するアンケートではSPMは咳嗽、喀痰、喘鳴などと有意に相関し、NO2よりも有症率との関連が密接であることが示唆された。以上から、疫学的調査を行う上での指標や調査条件の重要性が確認され、その方法論を確立したが、粒子状物質の測定手法の確立が今後の課題であると考えられた。これらの成果は今後の環境政策において十分意味を持つものである。

実験的研究(研究リーダー:滝沢 始 東京大講師)においては、ディーゼル由来粒子状物質(DEP)の呼吸器系に及ぼす影響を明らかにする目的で、主にヒト気道上皮細胞の単層培養系において、気道炎症への実験的栄養を検討した。まずDEPがヒト気道上皮細胞の単層培養系において炎症性サイトカインの有意な産生を非毒性濃度で認めた。

またDEPにより気道における抗酸化機構であるチオレドキシンが誘導されることを確認した。より生体に近いモデルとして、ディーゼル排気(DE)を直接曝露するという実験系を確立し、IL-6、IL-8等の炎症性サイトカイン、気道のリモデリングに重要とされるTGF-βの発現増加を認めた。

さらにフィルターを用いてガス体のみの曝露とすると発現が減弱することから、これらの作用は粒子(DEP)によることを証明した。またDEPにより気道炎症に関与する接着因子であるICAM-1遺伝子発現増加を認めた。転写因子への影響として、DEPがヒト気道上皮細胞に作用してNFκBを活性化させることをreporter gene assayを用いて明らかにし、細胞内シグナル伝達系としてP38MAPキナーゼの活性化の重要性を明らかとした。

また、DE曝露による気道上皮細胞のアポトーシス誘導やDE曝露マウスでの結核菌感染の重症化というマウス感染防御機構の抑制効果など今後の環境政策の上で重要と思われる知見が得られた。

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