ぜん息などの情報館

1-1 生活環境中の粒子状物質等による個人暴露量測定手法の開発に関する研究

代表者:松下秀鶴

研究の目的

近年、生活環境中の粒子状物質、特に粒径2.5μm以下の微小粒子(PM2.5)の呼吸・循環器系への影響に対する関心が、国内的にも国際的にも高まりつつある。しかし、PM2.5ならびにそれに含まれる各種有害成分の定量的存在実態には不明な点が多く、健康リスク評価に必要な暴露アセスメントを精度よく行う際の障害となっている。また、空気中のアレルゲン粒子の実態解明は、アレルギー対策策定の基礎資料として極めて重要である。
そこで本研究では、信頼性の高い個人暴露推定評価手法の確立を最終目標とし、次の研究を行うことを目的とする。

  1. 携帯型PM2.5個人サンプラーの開発と、これに捕集された微小粒子中の各種有害成分の高感度分析法の開発とその手法の信頼性の検討
  2. 空気中のアレルゲンのサンプリング、高感度計測法の開発と信頼性の検討
  3. 環境大気や一般家庭の室内外空気中の粒子状・ガス状有害成分の存在実態の調査

3年間の研究成果

12年度研究成果

  • ・携帯用個人サンプラーとして、まず、分級捕集型小型軽量サンプラーを試作し、性能評価した結果、PM2.5のみを捕集するサンプラーが適切であることが判った。
  • ・空気中のフタル酸エステルをガス状と粒子状に分けて定量する方法を開発し、室内環境調査に適用した結果、9種類のフタル酸エステルを検出し、定量した。
  • ・真菌の高感度計測法として真菌細胞外多糖体(EPS)に対する比色ELISA法を開発した。また、浮遊真菌の捕集にPCIサンプラーの有効性を見出した。
  • ・PCIサンプラーを含む種々の分級型サンプラーを用いて札幌市・室蘭市・東京都・清水市の環境大気や室内空気中の微小粒子濃度とその全浮遊粒子に対する割合、PAHやニトロアレーン、変異原性の粒径分布、室内と室外の存在状態などの調査を行い、微小粒子や粒子状大気有害物質の暴露評価に係る基礎資料を得た。

13年度研究成果

  • ・PM2.5個人サンプラーのサンプリングヘッド、低騒音小型ポンプの試作・改良を行うとともに、長時間稼働に耐える二次電池システムの導入を行った。
  • ・フタル酸エステルの分析法に関してブランクの低減法の作成のほか、汚染の経時変化を追跡できるフィルター捕集・加熱脱着GC/MS法を開発した。
  • ・5属の真菌EPSの高感度計測法として蛍光ELISA法を開発。クラドスポリウム、アルテルナリア及びカンジダのEPSは属特異性を有すること、PCIサンプラーは浮遊真菌のサンプリングに有効であることを通年調査で明らかにした。
  • ・東京、静岡の調査から、PM2.5/PM10は室内外とも良好に一致し、PAHと変異原性のほとんどは微小粒子に含まれ、ナノ粒子中の含量も無視し得ないこと、札幌市大気中のBaPとニトロアレーン濃度の26年間の変動とその要因を明らかにした。

14年度研究成果

  • ・PM2.5個人サンプラーとして超低騒音小型サンプラーの試作に成功した。
  • ・パッシブサンプラーによるアルデヒド多成分分析法の開発にメドがついた。
  • ・寝具類や皮膚に付着したダニ・ネコアレルゲンを簡易かつ高感度に測定するテガダーム捕集・蛍光ELISA法の有効性・実用性を環境調査に基づいて明らかにした。この方法は浮遊アレルゲン量と極めて良好な相関を示した。
  • ・浮遊真菌のEPSの高感度計測法を作成し、室内外の気中真菌濃度等の経月変動を調べた。また、真菌の活性度評価法として、蛍光2重染色法の有効性を示した。
  • 静岡と東京で個人暴露、室内外汚染に関する調査を行い、粒径分布、個人暴露実態、個人暴露推定値と実測値との関係など、暴露評価に必要ないろいろな知見を得た。

3年間のまとめ

  • ・PM2.5個人サンプラーとして世界で初めて35dB以下の低騒音小型サンプラーの開発に成功した。今後、本サンプラーの有効性、実用性を検証する予定。
  • ・ガス状有害汚染物質としてフタル酸エステルやアルデヒド類の高感度簡易分析法の開発に成功、または成功しつつある。
  • ・ダニ、ネコアレルゲンの新しい簡易サンプリング法としてテガダームを用いる方法を開発、本法による寝具等のアレルゲン値と、気中アレルゲン値とは有意に相関した。
  • ・真菌の新計測法としてEPSを蛍光ELISA法で計測する方法を見出した。また、浮遊真菌はPCIサンプラーにより適切に粒径別サンプリングできること、真菌の活性度は蛍光2重染色法により適切に評価しうることを認めた。
  • ・札幌・室蘭市・東京都・清水市・静岡市で環境大気、室内外空気中の浮遊粒子やそれらに含まれるPAH、ニトロアレーン、変異原性等の調査を行い、リスク評価に資する種々のデータを得た。特に、札幌市における大気中のBaPやニトロアレーン濃度の26年間にわたる測定値や、静岡、東京における個人暴露実測値とその推定方法に関する知見はリスク評価の一環として重要である。

評価結果

PM2.5が健康に影響を与える可能性が指摘されており、わが国において個々人がどの程度PM2.5に曝露されているか、その実態をかなり解明できたことは社会的にも貢献できる意義のある研究である。PM2.5個人サンプラーの低騒音化・小型化への改善によりサンプラーの開発は一段と前進した。また、テガダームによるアレルゲン収集と簡易測定法の有用性が検証されつつあり、今後用いられる可能性が大きい、等の評価を受けた。
一方、今後は、PM2.5個人サンプラーが一般にも普及しうるよう、さらなる軽量化、コスト低減、有用性や実用性について現場での確認作業を重ねる必要があるとの指摘を受けた。

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