ぜん息などの情報館

2-2 気管支ぜん息等の動向に関する詳細フィールド調査と関連要因の検討に関する研究

代表者:常俊 義三

研究の目的

近年、我が国だけでなく、世界各国で喘息の有症率の増加が明らかにされているが、その増加の要因については、生活環境・生活様式の変化を指摘する報告があるものの、具体的な要因を指摘した報告は皆無である。

我が国では1980年以降、大気汚染の質・量的変化を考慮し、過去の汚染の影響がない小児(学童)を対象に呼吸器症状(喘息等)を影響指標として、大規模な断面調査、継続調査(新規発症率)が行われ、また、大気汚染の影響を定常的に把握するために環境保健サーベイランス調査が行われている。これらの調査は当時、社会的にも注目されていたNO2を主とした大気汚染に着目して計画され、行われたものである。

先に述べた喘息の有症率の増加は、大気汚染濃度の変動だけでは説明ができず、また、一方、人為的に発生する粉塵の粒径は微細であり、PM2.5に代表されるように微細な粒子ほど人体に与える影響が大きいことが明らかにされている。

喘息の有症率と大気汚染との関連を明らかにするためには、大気汚染以外の要因の解明が不可欠である。

本研究は、大気汚染以外の要因を明らかにし、大気汚染と喘息発症との関連を明らかにすることを目的として行った。

3年間の研究成果

大気汚染濃度の異なる6地域(宮崎県日向市、千葉県君津市、市川市-山間部・臨海部、千葉市、船橋市)の13小学校の学童を対象に、ATS-DLDの標準質問票(環境庁改訂版)に新たに我が国の生活環境・生活様式の現状を考慮した項目を加えた質問票を用いた調査、非特異的IgE抗体、CRPの検査を行なった調査では、いずれの地域でも喘息症状の有症率を左右する主たる要因は個体のアレルギー素因と呼吸器疾患の既往であることを再確認した。また、乳児期の母乳栄養、兄弟が3名以上のもので有症率が高い地域がみられた。

大気汚染以外の生活環境、生活様式との関連もみられたが、関連する項目は地域ごとに異なり、喘息児のいる家庭では生活環境に配慮した結果であるとも考えられる項目もあった。
全地域を合わせた解析では、個体の素因、生活環境要因等を考慮しても、喘息と居住地域の二酸化窒素濃度との関連性が示唆されたが、浮遊粒子状物質濃度との関連は有意ではなかった。

中国の北京市及び太原市のそれぞれ大気汚染度の異なる3地区、計6地区を対象地域として、呼吸器症状調査は非暖房期に2回、呼吸機能検査は暖房期と非暖房期に計4回実施した。また、呼吸機能検査と同時期に一部対象者について、個人曝露、屋内、屋外のNO2とSO2濃度測定を行った。この調査では、第1回目と第2回目の呼吸器症状調査の結果はほぼ類似しており、地区間で有意な差がみられた。しかし、差がみられた症状は北京と太原で異なり、両地域の大気汚染の質的な差を反映している可能性が示唆された。児童の呼吸機能検査については地区間の差、検査時期による差、いずれも明確でなかった。

両地域の各地区では、暖房の方式等の室内空気汚染の状況、家屋構造の違いなど生活環境の違いがみられるところもある。それらの関連要因を含めて、大気汚染と喘息をはじめとする呼吸器症状との関連性を明かにした。

評価結果

ぜん息の発症率を左右する要因がアレルギー素因と呼吸器疾患の既往であることが、本調査で再認識された。大気汚染以外の要因の検討は、PM2.5などのより特異性が高い環境要因をコントロールした研究が必要であることを示唆した、等の評価を受けた。
一方、中国の北京、太原での調査結果を、いかにすればわが国で利用できるのか、今後の課題であるとの指摘を受けた。

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