ぜん息などの情報館

2-3 小児気管支ぜん息の発症・変動因子に関する研究

研究リーダー:眞弓 光文

研究の目的

近年、世界各国で有症率が増加している気管支ぜん息に対しては、その発症予防による患者数の減少が強く求められている。気管支ぜん息の発症には、環境要因とともに遺伝因子が関与し、これまでに多くのぜん息関連遺伝子多型が世界各国の研究者から報告されているが、いずれも単独ではぜん息発症を高い精度で予知するという点からは未だ不十分である。また、外国で報告された遺伝子多型を人種の異なる日本人に適応できるかも不明である。

このような認識の下に、本研究は、日本における小児気管支ぜん息の発症・変動に関わる因子を解明して、効果的な発症予防法の開発につながる発症予知法の解明とその精度を明らかにすることを目的とする。

3年間の研究成果

12年度研究成果

気管支ぜん息患者500名、対照者100名を対照として、IL-4Rα鎖、γ-インターフェロンR2、γ-インターフェロンR1、β2アドレナリンR、IL-4、IL-18、IgER1β鎖、CD14-159、PAFAH、MTHFRの、10遺伝子12部位の遺伝子多型を解析することとし、倫理委員会の承認を得た。12年度は気管支ぜん息患者および対照者あわせて220名から説明と同意に基づいてDNAの分離精製と個人情報が得られた。
これらのDNAおよび情報は個人の特定ができない形にして監督官の下に管理し、遺伝子多型分析を実施した。また、これまでに採取された気管支ぜん息発症の有無や各種の情報が6歳時点まで追跡できた児1,300名の臍帯血清を冷凍保管した。

13年度研究成果

2年度の調査研究を継続し、合計で気管支ぜん息患者487名と対照者83名からDNAを採取した。集められたDNAの約80%について、上記対象10遺伝子12部位の遺伝子多型の解析を終了した。対象者の家族歴、個人歴、血清IgE値や抗原特異IgE値など血清生化学値も調査し、得られた結果はすべて個人が特定できない形で保存し、13年度に行う統計解析への準備をした。
各個研究として、ムスカリン受容体遺伝子とRANTES遺伝子の多型性の有無とぜん息との関係を明らかにした。また、提供者の許可が得られたDNAと情報をバンクとして管理した。さらに、昨年度までに収集した1,300の臍帯血清も、研究計画通り保管された。

14年度研究成果

最終的に、気管支ぜん息患者527名、対照者104名という予定を上回るサンプルが得られ、これらの解析により、ぜん息発症に関与する遺伝子多型としてβ2ADRGln27Glu、CD14-159 T/C、IL-18-105A/Cが、ぜん息の病型に関与する遺伝子的としてIL-4+33 C/T、IL-4Rα鎖Arg551Gln、MTHFR677 C/T、γ-IFNR2Arg64Glnが、気管支ぜん息の発症および病型の両者に関与する遺伝子多型としてγ-IFNR1イントロンの多型、IL-4Rα鎖Ile50Valが、それぞれ同定された。同時に、各遺伝子多型の気管支ぜん息発症への関与度、また、生下時に複数の遺伝子多型や家族歴に基づいて気管支ぜん息発症がどの程度の感度と特異性を持って予測可能であるかを示した。また、各個研究で気管支ぜん息に関係する新たな遺伝子多型も明らかにした。DNAバンクの構築と血清保存も計画通り実施できた。

3年間のまとめ

本調査研究は、3年間で当初予定した以上のサンプルと患者情報が収集でき、これらを用いて計画した遺伝子多型のすべてが調査された。その結果、これまでに報告されていない遺伝子多型を含めて、気管支ぜん息の発症や病型に関与する遺伝子が明らかにされた。これらの遺伝子のそれぞれの寄与度とともに、遺伝子多型と家族歴情報に基づくもっとも優れた気管支ぜん息発症予測法と、その感度および特異度が明らかにされたことにより、出生後早期のぜん息発症予測法とその現時点における精度の実態が解明された。さらに、DNAバンクの構築と血清保存も計画通り実施され、今後の当該研究の進歩に的確に対応して、日本人集団におけるより精度の高い気管支ぜん息発症予測法を迅速に確立するための態勢が準備できた。

評価結果

ぜん息の関連遺伝子の研究は重要であり、興味深い。複数の遺伝子多型情報と家族歴情報を用い、発症予測精度が向上する予測モデルを作成できたことは大きな成果である。多数の臍帯血清やDNA解析に用いた白血球の保存は、将来役立つ可能性が大きい等の評価を受けた。一方、この研究により近い将来、ぜん息の発症予防の予測が確立することは考えがたいことの指摘がある一方、小児対象者のDNA分析が安価にできるようになれば、発症・重症化防止に役立てることが期待されるとの指摘もあった。

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