ぜん息などの情報館

3-3 高齢者の気管支ぜん息、慢性気管支炎、肺気腫の保健指導等に関する研究

研究リーダー:木田 厚瑞

研究の目的

気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫は高齢者において頻度が高い疾患である。気管支喘息では頻発する発作があり、また慢性気管支炎、肺気腫では病態の増悪により慢性の呼吸不全にいたる。これらの疾病では罹患により患者の日常生活は大幅に制限され、また、急性増悪により生命の危険にさらされることもまれではない。これらに加え、合併症、睡眠呼吸障害など高齢者の慢性呼吸不全患者が抱える問題点は多岐にわたっている。

一般に高齢者では成人と異なり、病態は複雑であるが、このような高齢者では高齢化とともに増悪傾向を呈することが多く、それによりQOLは低下し、医療費が高額となり、しかも対費用効果が悪いのが特徴である。こうした問題を解決し、患者の健康回復を図るためには、患者を取りまく環境も含めた総合的な検討を実施することが必要である。

本研究では、高齢者の気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎等の適切な管理方法のあり方とその環境づくりについて検討し、健康回復及び日常生活の向上に資することを目的とした。

3年間の研究成果

12年度研究成果

平成12年度の研究では、1)高齢者の連続剖検例、約4,500例における肺気腫の頻度と実態を明らかにし、2)高齢者のCOPDの栄養学的な問題点を検討した。3)高齢COPDではQOLの把握が必要であるがそのための客観評価方法としてのVAS-QOL(QOL Scale)を開発し、これが臨床応用可能であることを示した。4)本研究班が提唱する包括的呼吸リハビリテーションを実施し、その効果を実証した。

13年度研究成果

平成13年度の研究では、1)生前に臨床症状、肺機能検査を実施し、剖検により肺気腫が判明した症例(131例)について、肺気腫の重症度別の生前の臨床成績との対比成績を明らかにした。2)肺気腫で軽度の気管支拡張病変を伴う症例では、しからざる症例に比較して病態がより増悪方向にあることを明らかにした。3)COPDでは急性増悪とQOL低下が密接に関係することを明らかにした。4)気管支拡張薬の効果を判定するには気道閉塞の可逆性を知ることが治療上、必須であるが、気道閉塞可逆性テストとCOPDの重症度の関連性を明らかにした。5)COPDで歩行により下肢筋の疲労がどのように生ずるかについて、定量的な評価方法を開発した。

14年度研究成果

平成14年度の研究では、1)COPDの急性増悪により入院した症例(147エピソード)について検討した。また、急性増悪の入院治療に要する医療費についての問題点を明らかにした。2)COPDにおいて上肢、下肢の筋力低下がADL、QOLにどのように影響するかを明らかにした。3)COPDで低体重がQOLに与える影響を明らかにした。4)女性のCOPDのほうが男性に比べて呼吸困難感が強く、QOLが低下しやすいことを明らかにした。
これらの研究成果は、日常臨床により疑問とされた点、解決が求められている課題、臨床内容を向上させるに資する情報である点が特徴である。

3年間のまとめ

平成9年から11年度にかけての研究プロジェクトでは、包括的呼吸リハビリテーションの概念を提唱し、これの啓蒙を進めた。その結果、COPDに対する包括的呼吸リハビリテーションは、標準的な治療法として学界でも認知されるにいたった。平成12年度から14年度では、これら包括的呼吸リハビリテーションを具体的なサイエンスとして充実させる基礎的データの収集を行った。

平成12年より14年度の研究によって、高齢者の比較的重症度の高いCOPDの特有な病態と対策をかなり明確にすることが可能となった。高齢患者では、治療にもかかわらずQOLが低下し、これが病態の悪化をきたし、さらに医療費が飛躍的に増加するという悪循環を形成してきた。本研究では、QOLを客観評価することにより、従来は困難であった患者の対応策がより合理的に実施できるようになった。また、ADLの低下、低栄養が与える問題点を明らかにした。以上の研究項目は日常臨床に直結する情報がほとんどであり、今後、高齢者のCOPDでわが国に特有な問題点を解決していく方策を明らかにすることができた。

評価結果

高齢者に急増するCOPDについて臨床的問題を抽出し、系統的に自験例で評価したことは意義が大きい。COPDの増悪例の実態分析、医療費影響等についての考察は対策・施策上意義がある。包括的呼吸リハビリテーションのわが国への導入・普及に貢献している等の評価を受けた。
一方、今後はこれらのデータを生かして、予防の観点に重点を置いた研究を重ねるべきであるとの指摘を受けた。

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