ぜん息などの情報館

3-1 気管支喘息患者の年齢階層毎の長期経過・予後に関する研究

代表者:秋山一男

研究の概要・目的

これまで小児、成人とも気管支喘息患者に関する長期経過を見据えた予後の調査研究は少ない。最近のように日常診療において(1)治療・管理のガイドラインの整備、(2)以前に比べると格段に高い効果が得られる新薬の上市、等により今後の予後の改善が期待される中で、ソフト3事業等機構関連事業の成果の検証を含め、長期展望にたった予後調査は重要である。本研究では、小児喘息においては、発症時から思春期、成人期を見据えた経過追跡システムを構築し、また成人喘息においては、社会人としての特性を考慮したレセプトベースでの経過追跡システムを検討した。小児・成人喘息とも長期的展望を持って予後調査システムを確立することにより、ソフト3事業等の参加者と非参加者との経過、予後の比較等により事業効果を評価するシステムを構築した。

年度ごとの研究目標(計画)

平成15年度

初年度である平成15年度は、今後の長期的展望をもった調査実施のためのシステム構築を第1の目的として、気管支喘息患者の長期経過を追跡するための定点施設のネットワーク及び、経時的追跡調査のためのシステム構築並びにこれらのシステムを活用した喘息患者の追跡調査や寛解例・治癒例の集積を開始する。また、長期的フォローアップの一手段として保険加入事務所の協力のもと外来レセプトベースでの喘息患者の経時的追跡調査システムの構築と実施を図ることで医療費ベースでの長期経過の把握システムを開発する。

平成16年度

[小児喘息ワーキンググループ]では、初年度作成した予後調査システムを使用して 1.コンピューターシステムによる予後調査システムの運用開始、2.喘鳴群患者の登録、3.喘息群患者の登録、4.調査システムの調整等、調査の本格開始を行う。 [成人喘息ワーキンググループ]では、1.外来レセプトを用いた喘息患者の実態把握(予後改善と医療費減少に寄与する因子の解析)と経年的変動の調査として、某健康保険組合の保険加入者(家族加入も含む)における診療報酬明細書の解析による喘息治療実態を平成11年と平成15年で比較検討する。2.成人喘息患者の長期経過追跡システムの確立とその実施として、国立病院機構気管支喘息ネットワークにおける患者コアデータ入力システムの最終的構築とデータ出力、解析システムの段階的構築を図り、一部新規受診患者の登録を開始する。

平成17年度

小児グループでは、発症早期の喘息患者および喘鳴を経験した乳幼児の2群を医療機関で抽出し、その後健康調査係からの郵便、インターネット通信等の手段により定期的に長期間にわたりフォローアップしていくシステムを構築し、運用・分析を行い、まずは登録6ヶ月での分析を行なう。成人グループでは、比較的標準的な保険加入者の集団と考えられる2万人以上加入者のある健康保険組合を選択し、その全加入者においてより厳密に喘息医療をうけた喘息患者を抽出し、その診療内容(外来レセプト)から正確に調査し、日本における成人喘息の医療内容の実態と、予後因子、医療経済に影響する要素などを明らかにする。小児・成人グループともソフト3事業等の機構関連事業の成果の検証を可能とするシステムの確立を図ることを本年度の目標とした。

3年間の研究成果

平成15年度

気管支喘息発症時からの長期経過追跡システムの構築のために、小児喘息分野においては、全国の特定の医療機関において一定の診断基準に基づいて診断された気管支喘息及び喘鳴を伴う乳幼児に任意の同意の下に、発症要因の調査、治療内容、治療経過について長期間にわたり一定の間隔で調査し、登録患者の事務手続きを行うための事務センターを国立成育医療センター内に設置し、健康調査係を配置した。一方、成人喘息分野では、全国規模の長期予後、疫学調査を可能とするネットワークシステムを国病国療喘息研究ネットワークを中心に構築し、新規受診喘息患者の経時的追跡を行うためのコアデータシートの作成を行った。また、保険加入事業所に保存中の外来レセプトから喘息患者を抽出して、その予後、経過、直接医療費に影響する因子等の獲得目標の設定と解析を行うための調査項目の策定、調査対象の選定を行った。

平成16年度

[小児喘息ワーキンググループ]における今年度の研究は、初年度作成した予後調査システムを使用して調査を本格的に開始した。1.コンピュータシステムによる予後調査システムの運用開始。2.患者登録は、分担研究者および国立病院機構のアレルギーネットワークおよび成育医療ネットワーク参加医療機関を中心に依頼し、喘鳴群、喘息群あわせて約300名の登録を済ませた。また、日本小児アレルギー学会員約2,500名へも協力を依頼し研究計画書を発送した。3.登録患者数が増えることでのシステム上の問題点を検討、調整した。4.初期登録患者の基本情報の解析をおこなった。

[成人喘息ワーキンググループ]における今年度の研究は、外来レセプトを用いた喘息患者の実態把握(予後改善と医療費減少に寄与する因子の解析)と経年的変動の調査として某健康保険組合の6歳から69歳までの保険加入者(家族加入も含む)における診療報酬明細書2年分(H11とH15)から 1.気管支喘息/喘息様気管支炎患者数、2.吸入ステロイド薬処方実態、3.抗LT薬処方実態、4. 吸入ステロイド薬剤別処方量、等々を抽出調査し、5年間での変動を比較検討した。また、成人喘息患者の長期経過追跡を目的として、新規受診の喘息患者の経時的追跡システムの入力用コアデータシートの最終作成とデータ出力及び解析システムの作成及び本システムを用いての新規患者登録を開始した。

平成17年度

小児グループでは、H17年度末での登録患者数は、喘息群787名、喘鳴群335名で、H17年度末までに回収できた調査用紙は、喘息群が1回目 564名、3回目253名、5回目92名、喘鳴群が1回目207名、3回目71名、5回目24名であった。発症年齢はこれまでの報告とは変わりなく、吸入ステロイド薬の使用率が低く、ロイコトリエン受容体拮抗薬の使用頻度が高かった。また、医師の患者指導によって短期間での環境整備、喫煙対策に一定程度の効果が得られた。学校での喘息・アレルギー教育により、患者の受診状況の改善が認められた。成人グループのレセプト調査では、喘息受療患者は、H11年度 471名1.91%、H15年度510名2.50%と上昇していた。発作受診、発作入院は減少、吸入ステロイド薬処方量は増加していた。国立病院機構施設における気管支喘息ネットワークにおいて構築しているデータベースシステムを活用して、成人喘息患者の長期経過追跡のための全国規模の予後調査を計画し、新規受診の喘息患者の経時的追跡を開始した。また、異なった状況下の患者の長期経過・予後の研究により、今後の成人患者指導法確立への参考資料が得られた。

評価結果

平成15年度

吸入ステロイドによる早期介入がアウトグローを増加することができるか否かは非常に興味ある大事なテーマである。もし、信頼性のあるデータが得られれば、一つのデータでも大変重要な研究である。また、成人ぜん息のnatural historyは重要なテーマであり、個々の症例についてできるだけ多くの情報を集め、あらゆる面から検討解析することが望まれるなどの意見があった。一方、長期間の観察のため、成功させるためには綿密な計画等が必要と思われる。また、小児長期的フォローアップ事業について、調査事項として幹線道路近くに生活しているか等の大気汚染曝露状況に関するデータも組み入れられないか等の指摘もあった。

平成16年度

本研究は極めて意義深い研究であり、成果に期待したい。また、長期の継続が必要であると認識したい。極めて重要な研究テーマであるが、ポイントは如何にプロジェクトを継続できるかである。今後の成績に注目しておきたい。
対象選択には時間がかかると考えられるが今後の患者登録数が向上することを期待したい。また、現在までの登録者からの情報では、ガイドラインの普及が今ひとつとの感じがあることが判明してきている。これらの成果は十分に評価に値する。

吸入ステロイド薬が小児ぜん息のアウトグローにどのような影響を及ぼすかという問題も非常に重要で興味あるテーマである。また、アウトグローをきたした患者について、アウトグローを来たす要因として何が重要と考えられるか、十分に比較し検討して欲しい。小児喘息登録例の長期予後は、この研究期間では明らかにできないであろう。今回の研究の意義づけを明確に。

平成17年度

小児ぜん息の長期経過追跡システムは治療内容、環境整備のガイドラインに対する適合度と喘息治癒療率を検討しており、独自性がある。また学校へのアプローチは難しいが、患者教育や指導による行動の変容をいかに継続させるかの工夫を今後も検討してほしい。その他、校医の重要性や、調査する母集団の大きさについての検討も必要になるだろう。 成人ぜん息の長期経過追跡システムについても、我が国で初めての試みとして、レセプト調査による喘息治療の実態が明らかになり、喘息ガイドライン普及の効果と思われる治療状況の改善・向上が検証されたことは評価出来る。しかし、対象の変動も多く追跡が難しいと予測されるため、保健手帳にかわる自己管理のためのデータを記入する等の、仕組みについての工夫を検討してほしい。

3-1 気管支喘息患者の年齢階層毎の長期経過・予後に関する研究

このページの先頭へ