3-1 COPD患者の病期分類等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究
代表者:木田 厚瑞
研究の概要・目的
調査研究の概説
高齢者人口の増加に伴いCOPD患者が急増しており長期の対策が求められている。以下がその問題点である。
1)COPDの病態に直接関係して生ずるもの、2)COPDに併存する合併症によるもの、3)COPDを発症・増悪させる社会的、あるいは生活環境の影響、4)高齢者に共通する病態、社会生活上の問題、5)高齢者のCOPD特有の病態、に分かれこれらが相互に関係する。対策としては、1)現存する軽症例から最重症例までに及ぶ患者に効果的、効率的治療のあり方の検討、2)未治療の軽症例の早期発見と早期治療、3)将来、新規患者となる可能性の予防策、がある。
他方、患者側における問題では、1)QOLを高める包括的呼吸ケアの整備および実践が課題であり、2)他方で増大する総医療費の節減、効率的使用は医療改革に結びつく社会的問題である。
なかでも高齢COPD患者ではCOPDの病態に高齢者特有の病態が重複しており問題点を複雑化させている。そこで現時点における問題点を調査し、これを改善するためには効率的な医療システムを新しく構築する必要がある。特に地域ごとに医療における背景は著しく異なっておりある程度、大別化したモデル医療を構築し問題点を調査し、検証していくことが必要である。本研究では、これらのことを念頭に大項目を設定し、研究を推進するために目的をさらに系統的に分類し実施する。
年度ごとの研究目標(計画)
平成18年度
研究の大項目
- COPDの診療で地域的格差が大きい現状を調査する。
- 地域的特性を認識しつつ診療レベルを向上させていくということを目指す。
- COPDの長期治療に必要とされる医療技術力のスキルアップと新しい評価方法の開発。
- 医療連携による啓蒙、啓発的な効果の検討。
研究の中項目
- 地域におけるチーム医療の調査と再構築。
- 医療・保健・福祉間の連携を推進する際の問題点、非専門医、専門医の協力関係、医療・保健・福祉との連携。
- マスメディアを通じて広く普及させる啓蒙活動。
平成19年度
本研究ではガイドラインに沿った治療を推進する際に医療体制の差異をどのように解決していくかについて調査研究を進めた。また患者側からの希望を入れることが重要であるので、これを盛り込んだ手引書を作成する準備を開始した。COPDの全身性疾患としての側面につき病態について検討を行い、呼吸器以外の合併症を含めた包括的医療の実施とこれによる健康関連QOLの改善を行うことを目標とした。本研究の背景は以下の3点に要約できる。
- 主として高齢者にみられる生活習慣病
- 経過中のADLの低下と増悪が問題でありQOL低下と医療費の高額化を来たす
- 全身性疾患と認識され特に並存症が問題
平成20年度
本年度は、以下の点について研究を進める。
- COPDとして未病といえる早期すなわちstage 0 COPDの罹患率、病態の特徴を明らかにする。
- 高齢者の進行したCOPDにおいてはself-managementが問題となっており、QOLを高め医療費を効率使用していくには患者教育を継続的で効果的なものとする必要がある。
- COPDの8割以上はプライマリケアで診療を受けているが、地域差は大きくしかも増悪の際は入院治療となるが相互の医療連携はきわめて不十分であるため、連携を円滑にするためのモデル地域の設定と連携の手段としてのCOPDノートの開発を行う。
3年間の研究成果
平成18年度
- 地域差を考慮したCOPD患者の長期ケアのあり方について
以下の4つのモデルを設定してCOPDの長期ケアにおける問題点について調査を実施した。
- 離島における検討 八丈島における調査研究を実施した。
- 専門医の少ない地域における検討 松浦市における調査研究を実施した。
- 中都市における検討 下関市における調査研究の開始準備を行った。
- 都心部における検討 東京都千代田区にあるCOPD専門クリニック、日本医大呼吸ケアクリニックでの調査研究を実施した。
またこれらの問題における地域差を明らかにする目的で医療従事者(主に医師)を対象にアンケート調査を実施した。
- COPDにおける包括的呼吸ケアに関する研究
包括的呼吸ケアとは「慢性の呼吸器疾患によって生じた障害を持つ患者が、日常診療を続ける過程で主体的に取り組め、増悪の危険を自分の判断で回避し、可能な限り機能を回復あるいは維持させるように医療者が継続的に支援していくための医療である」(木田、2004)と定義した。COPDにおける長期治療では医療連携の考え方の中に、1)医療連携、チーム医療としての考え方の一致性、2)技術的な一致性、両方が満たされていなければならない。医療連携、チーム医療としての考え方の一致性を重視するという点で英国で発展したclinical governanceを調査し研究した。また技術的な一致性という点ではLINQ(木田ら、2005)の活用と問題点を検討した。
- COPDの新しい診療評価方法の開発
COPDは合致する臨床経過とスパイロメトリーの測定値によって定義されている。しかし診断、治療上では生理的な指標だけではなく、生化学的指標の開発が望まれている。そこで呼気ガスの解析が日常診療で可能かどうかにつき検討した。本年は呼気ガス中のNO濃度について研究を進めた。
平成19年度
- COPD患者の医療連携と患者教育のあり方
- アンケート調査によるCOPDにおける呼吸ケアの現状と問題点
- モデル事業(離島、前橋市、下関市、北信)
- Lung Information Needs Questionnaire(LINQ)の活用
- 医療連携におけるITの応用
- 全身疾患としてのCOPDの病態における問題
COPDの画像解析、筋萎縮・欝症状の決定因子
- 啓蒙、啓発による効率的医療の展開
COPD患者を中心とした患者会の活動、患者からの質問内容と回答例、一般への啓蒙(山形、帯広)
平成20年度
COPDの対策について最も軽症かつ予備軍とみなされるstage 0を含めた検討をある特定の地域で行った結果、Stage 0には呼吸機能における閉塞性障害を認めないにも関わらず胸部HRCTにて肺気腫が1割以上に認められ、また拡散能の低下を認めるサブグループにおいてはFEV1の経年低下速度が有意に高くQOLの低下があることから、高リスク群である可能性が高いと考えられた。また、COPDにおいて必ずしも進んでいないわが国の医療連携における問題を検討する目的で患者中心のモデルとしてPCAPSによるパスを作成した。
評価結果
平成18年度
積極的な保健指導によりぜん息の発症が減少している事実は有意義であるが、分析、介入の方法をもっと明確にし、有効な方法を調査しつつ、過去の同様な研究と異なる新しい発見をし、保健指導のマニュアル化することを目標に取り組むことを期待する意見があった。
平成19年度
COPD の患者の管理に関して様々な面から検討を加えるという一つのコンセプトの下に、全体がよくまとまっており、研究結果が直ちに臨床に還元できるという点で有用な研究である。また、大気環境とCOPDの発症・増悪の関連の究明や、COPDの早期発見のために、ある条件の下「一秒率の検査」を取り入れることで早期発見につなげる方法などの検討を望む意見もあった。
平成20年度
ぜん息に比較し、社会的認知度の低いCOPDについて、研究を通して、実際に治療のための地域のネットワークを作ることなどにより、社会的にその認知度を高めたことや、GOLD Stage“0”をとりあげて(AA risk)その病態と疫学の意義を検討したのは有用性が高いとの評価などがあった。また、PCAPSは複雑なシステムにみえるが、今後の有用性の検証を望むとの意見もあった。
3-1 COPD患者の病期分類等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究