ぜん息などの情報館

1-3 気管支ぜん息発症に関わる因子の検索と検査手法の開発に関する研究

眞弓光文(福井医科大学教授)

研究の目的

気管支ぜん息の発症を効率的に予防するためには、気管支ぜん息の発症に関わる因子を明らかにして、発症の危険性の高い児を同定することが重要である。

気管支ぜん息の発症は複数の免疫遺伝因子に規定され、その遺伝的に規定された体質は複数の環境因子の影響を受けて変化すると考えられる。

気管支ぜん息の発症に関与すると考えられる遺伝子多型はこれまでにも世界各国の研究者よりいくつか報告されているが、日本人集団におけるその意義は必ずしも明らかではなく、むしろ気管支ぜん息の予知因子としてはその精度が不十分であるという結果が多い。

本研究は、遺伝子工学的手法を用いた基礎的研究とフィールド調査による疫学的手法を組み合わせて、日本人集団における気管支ぜん息の発症に関わる免疫遺伝因子、環境因子を同定し、あわせて、その因子の検査法を確立することにより、気管支ぜん息の発症を制御する機構を明らかにして、気管支ぜん息発症の危険性の高い小児の予測を可能とし、発症の危険性の高い児に対して適切な治療や保健指導を行って、気管支ぜん息の発症を予防し、気管支ぜん息患者の減少をはかることを目的とする。

3年間の研究成果

小課題1の調査研究により、乳児アトピー性皮膚炎患者の36%がその後4年間に気管支ぜん息を発症し、このぜん息発症には、早期は遺伝要因(男性、ぜん息家族歴陽性、ダニアレルギーに対する高感受性)が強く関与し、経過と共にその関与が相対的に低くなることが明らかになり、これらのリスクファクターを持つ児では早期からのダニ対策が重要であることを示した。

アレルギーに関与する複数の遺伝子(FcεRIβ、IL-4受容体、PAF acetylhydrolase)の多型性の存在、各種臍帯血マーカーのアレルギー疾患発症予測因子としての意義が示されたが、これらはいずれも単独では気管支ぜん息発症予測精度が未だ十分ではなく、今後これらの因子の組み合わせとぜん息患者の層別解析による予測精度の向上が必要であることも明らかになった。

また、HLA多型がぜん息発症に関与する分子機序、ヘルパーT細胞分化とIgE産生調節機構、肥満細胞活性化機構、ADF/チオレドキシンによる炎症の制御、ウイルス感染が気管支ぜん息発症におよぼす機序、アレルギー発症とその制御におけるCD23の役割、機能性食品とその成分について解析し、それぞれの因子はぜん息の発症や病態形成に関係し、ぜん息発症予測・予防にとって重要であることを示した。

さらに、小児用気道過敏性測定装置を改良して、小児での気道過敏性の意義を明らかにするための手段を開発した。

小課題2は、1989-1990年の1年間に大阪府下3病院で出生した約2,300人を6歳までフォローし、両親のアレルギー歴、IgE(臍帯血、6歳時、母親)、ダニRAST値、食生活の違い(対象小児および母親)、血清脂肪酸組成、血清IL-4値、IL-18値、血清マンナン結合蛋白(MBP)値、旧公害指定地区の関連から見た居住歴を、気管支ぜん息発症との関連性の有無の観点から検討した。

両親のアレルギー歴が児の気管支ぜん息発症の危険因子であったが、臍帯血IgE値は単独では6歳時点での気管支ぜん息発症予測マーカーにはなり得なかった。

また、ぜん息児の家族に対して、ダニ駆除のための寝具の掃除機掛けや受動喫煙の排除などの家庭環境の改善、ぜん息発症のリスク要因である肉類やインスタント食品が多く魚介類が少ない食生活の改善を早期から指導することが、ぜん息発症予防にとって重要であることが示された。

今後の課題として、これらの予防対策を乳幼児期から地域ベースで取り組む介入実験を行い、予防対策の効果を判定することが重要である。

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