ぜん息などの情報館

3-1 生活環境中の汚染物質の存在状況の把握に関する研究

代表者:松下 秀鶴(富士常葉大学教授)

研究の目的

現在、生活環境空気中の微小粒子の健康に及ぼす影響に強い社会的関心が寄せられており、すでに米国では粒径2.5μm以下の微小粒子に対する環境基準を追加設定している。

しかしながら、環境空気中の浮遊粒子には人為起源、自然起源、生物起源のものがあり、それらの実態や健康に及ぼす影響に関して不明な点が多い。

また実態解明のための計測法も十分に開発されているとはいい難い。

そこで、本研究においては、汚染実態解明のために2つの小課題研究班により以下の研究を行うことを目的とした。

すなわち、第1小課題研究班では、一般環境大気、道路沿道大気及び室内空気から浮遊粒子を粒径別に分別採取し、各粒子に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)、ニトロアレーン、有機リン化合物、重金属類の含量や変異原性を測定し、これら有害成分の粒径分布や粒径別組成などの解明に関する研究を行うことを目的とする。

このため、室内空気中の浮遊粒子の分級採取法、PAH等の有害成分等の計測法の開発、得られた方法による共通大気浮遊粒子試料中の有害成分の組成、分布に関する研究、室内・室外の粒子状汚染状況の相異とその原因、過去に慢性閉塞性肺疾患に関する疫学調査が行われた4地域におけるPM2.5濃度の年間連続調査、PM2.5とSPMとの関係、PM2.5中の重金属類の濃度等の研究を行った。

また、第2小課題研究班においては、室内及び室外空気中の浮遊アレルゲンの計測、動態、発生要因の解明を目的とし、次の研究を行う。

すなわち、アレルギー疾患の主要アレルゲンと目されているヒョウヒダニ、ネコ、スギ花粉に関して、ELISAによる主要アレルゲンの高感度定量法を開発し、この方法と適切な試料採取法とを組合せて気中濃度、粒径分布等を測定し、各アレルゲンへの曝露実態、曝露メカニズムを明らかにする。また、主要なアレルゲンの一つである真菌に関しては生活環境中の主要な真菌アレルゲンを特定し、その検査、測定手法を開発する。

3年間の研究成果

本中課題研究班の研究は、下記の4項目に大別される。以下、各項目に対する両研究班の主要な研究成果を述べる。

  1. 測定法の検討・開発
    第1小課題研究班では、室内空気中の浮遊粒子を3段階の粒径に分級採取しうる2種類の低騒音分級サンプラー(3L/min、25L/min)を開発し、その有効性を確認した。
    また、室内浮遊粒子等に含まれる有害成分分析法として、20種のPAH、4種のニトロアレーン、10種の有機リン化合物、39種の重金属元素等及び変異原性試験の高感度化に成功した。
    一方、第2小課題研究班ではアレルギー疾患の主要な原因アレルゲンの高感度測定法の検討を行い、新たにダニ主要アレルゲン(Der p 1/Der f 1)を1pg/ml、ネコ主要アレルゲン(Fel d 1)を10pg/ml、スギ花粉主要アレルゲン(Cry j 1)を1pg/mlまで検出できる高感度蛍光ELISAを開発した。
  2. 共通試料による環境大気浮遊粒子のキャラクタリゼーション
    札幌、川崎、東京の環境大気と札幌の沿道大気から浮遊粒子をハイボリューム・アンダーセンサンプラーで5段階に分級捕集し、これらを共通試料として、初年度は両研究班全員、2、3年度は第1小課題研究班員に配布し、それらに含まれる各種有害成分やアレルゲンの測定を行い、浮遊粒子のキャラクタリゼーションに努めた。
    その結果、PAH、ニトロアレーン、有機リン化合物、変異原の70~90%は肺深部への沈着率の高い粒径2.0μm以下の微粒子中に存在すること、重金属類はその種類によって粒径分布が異なることを見出した。
    また、環境大気中からDer p 1、Fel d 1を検出したが、その濃度は室内よりかなり低いこと、真菌は試料の捕集中に死細胞が増えるため培養法による検出に本サンプリングは適さないことが判った。
    このため、当該サンプラーによるアレルゲンの検討は初年度で打ち切った。このように大気浮遊粒子に含まれる有害成分を同一試料を用いて多面的に調査研究した事例は過去に例がない。
  3. 一般家庭の室内・室外調査
    本研究で開発した低騒音サンプラーを両小課題研究班の全員に配布し、各自、一般家庭の室内と室外の浮遊粒子を分級採取し、分担課題の計測を行った。
    その結果、第1小課題研究班ではPM2.5とPM10との割合は地域によりそれ程大きな差はなく、室内の方が室外より微小粒子が含まれる割合が高い傾向にあること、PAH、ニトロアレーン、変異原性及び重金属等の粒径分布は、上記 2.の結果と同一傾向を示したが、有機リン化合物は室内空気中では粒子状態よりガス状態で存在する割合が高いことを見出した。
    また、PAHや重金属の室内平均濃度は室外平均濃度と同一か若干低いことが一般に認められた。
    一方、第2小課題研究班では、室内空気中のダニ、ネコアレルゲンの濃度、生活行動様式とこれらアレルゲン濃度との関係に関する調査を種々行い、貴重な知見を得た。
    また、本調査で開発した分級サンプラーは真菌細胞の捕集に有用であることを長期に亘る調査より確認した。しかし、スギ花粉アレルゲンのサンプリングには適していないことを認めた。現在、この原因を検討中である。
  4. 疫学調査地域におけるPM2.5の連続測定
    かつて慢性閉塞性肺疾患に関する疫学調査が行われた4地域にPM2.5連続自動測定装置を設置し、1年間PM2.5濃度を測定しつづけると共に、同時に測定されたSPM濃度との対比や、PM2.5試料中の約30の金属元素、陽・陰両イオン成分、炭素成分の測定を行い、PM2.5とSPMとの間には比較的良好な相関があることから、過去のSPM濃度から当時のPM2.5の大まかな推定が可能であることやPM2.5の化学組成などを明らかにした。

以上、本研究で得られた諸知見は生活環境中の浮遊粒子の健康影響評価やリスク低減対策の基礎資料として有用である。

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