ぜん息などの情報館

4-1 気管支ぜん息等の動向と変動要因に関する研究

西間 三馨(国立療養所南福岡病院院長)

研究の目的

近年、アレルギー疾患は世界的に増加している。特に気管支ぜん息(BA)は死亡することがあり、発作により日常生活の制限が大きいという点で社会的にも多くの問題を発生する。

さらに、小児期において充分にコントロールされなかった場合には、成人した後の社会生活を心理的・社会的・経済的に種々の側面で制限する。

この疾患を疫学的に把握し、変動因子を解明し、治療や社会的対策立案の検討の基とすることを目的とする。

このことは、将来のBAの病態解明や治療の向上に向けて、さらには社会経済的にも必要なことである。

他方、小児BAと病態、病因の近似する学童のスギ花粉症(P)罹患率の変動に影響を与える因子に関する調査を通じてI型アレルギー疾患の変動要因を解析し、また合併頻度の高いアトピー性皮膚炎(AD)に対する同様の調査を行うことで、これら素因を同じくするアレルギー疾患に影響を与える要因について抽出を試みる。

また、気道過敏性の同異を知る目的で閉塞性肺疾患を対照として解析する。加えて小児BAに関わる背景因子の変化を同一医療機関での最近の30年間について比較検討する。

以上の検討によりBAの罹患率の動向と変動要因について総合的に捉えることを目的とした。

3年間の研究成果

小児BAの動向は、ATS-DLD方式の調査では増加の傾向にあり、小学校1年生で明らかである。アレルギー学的検討に関してはIgE値を250U/mlを境として高値群と正常群に分けて頻度、新規発症、寛解等の検討を行うことが有用である。

変動要因に関しては、(1)アレルギー疾患の既往(湿疹、AD、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)。(2)アレルギー疾患の家族歴。(3)2歳までの呼吸器疾患の既往。(4)2歳までの気管支炎・肺炎の既往、が増加要因として認められた。

また、大気汚染物質の影響や季節性をみるためには年齢を考慮した検討が必要である。環境とアレルギーについての検討の際は患者側の改善努力などから、予測とは逆の結果が出る可能性の考慮も必要である。

小児BAの臨床からみた推移については発症の低年齢化と陽性抗原の複数化、重症度の変化、アレルギー家族歴の増加、離乳食開始の低年齢化が明らかになった。

小児BAの病院統計では低年齢化が顕著で、生後1年以内の環境管理が極めて重要である。

花粉症については耳鼻咽喉科検診、血清アレルギー検査、自記式問診票にて、T市学童の罹患率を推定した。対照とする京都府w町学童に比し15-20%、感作率・罹患率が高く、都市型でアレルゲン量が少なく大気汚染など他の修飾因子の関与が考えられた。

花粉症については、ATS-DLD問診票によるBA合併例がT市における大気汚染の中高濃度汚染地域で有意に多いこと、アレルギー性結膜炎(AC)がイネ科花粉症に相関することが分かった。

Pと小児BAはIgE抗体の関与ではアレルギーI型反応として同じ病態によると考えられるが、都市部においてBAの発症のほうがより大気汚染の影響を受けることが分かった。

ADについてはISAAC問診票を導入し、愛知県下の異なる規模の自治体で2264名の小児・中学生に皮膚科検診を行い、罹患率の差は住居環境によることが推測された。 COPDはBAと異なる病態(男性、高齢者、喫煙者に高く、気道過敏性はあるが好酸球性炎症はない)を持つが、最近増加傾向にあることは同じであり、今後はBA合併例の病態解析が必要である。

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