WEB版すこやかライフ ぜん息&COPD(慢性閉塞性肺疾患)のための生活情報誌

小児ぜん息すこやかライフNo.40 2012年10月発行

ぜん息児へのエール

目標や夢をかなえるためには毎日の吸入と体調管理が大切!

ロンドンオリンピック競泳女子日本代表/セントラルスポーツ 伊藤 華英さん

スラリとした長身と長い手足を活かした伸びのある大きなストロークが持ち味の競泳選手、伊藤華英さん。
北京では背泳ぎ、そして今夏のロンドンでは自由型と、異なる2つの種目で2度のオリンピック出場を果たしました。その伊藤選手も、じつはぜん息の持ち主です。
ぜん息治療の一つとしてはじめた水泳とぜん息とのつき合い方について話してくれました。

ぜん息、アレルギー克服のため生後6か月で水泳を開始

オリンピック日本代表の伊藤選手が水泳を始めたのは、生後間もない6か月のこと。そしてそれは、ぜん息とのつき合いの始まりでもあった。

「子どもの頃は、ほとんど毎日吸入をするため、病院に行っていたのを覚えています。いちばんいやだったのは、夜にぜん息発作が出ると眠れなくなることでした。横になると苦しいから楽な姿勢をとって……背中をさすってもらうと楽になったのを覚えてますね」

そのぜん息治療の一環として、物心つく前から水泳と出会っていたのである。

水泳をやっている間の方がぜん息の状態はよかった!

体を強くするために習いごととして始めた水泳だったが、小学校に入学する頃には選手育成コースに入り、小学3年生のときにはジュニアオリンピックに出場するほど、才能が開花しはじめていた。一方で、発作が出て練習を休まなければいけないこともしばしばあったようだ。

「じつは、小学校のときには塾にも通っていて、その頃は勉強も好きだったので、5年生になって受験のために一度水泳をやめたんです。でもその間、ヒューヒューすることが多くなったと思います」

伊藤選手の実感からすると、いったん水泳からはなれた期間よりも、水泳をしていたときの方が、ぜん息の状態はよかったようである。

「やっぱり動いていた方がぜん息にはいいのかな、動かないとダメなのかな、と思いましたね」

高校生になってぜん息が再発自己管理の大切さを学ぶ

幼少時代、ぜん息に苦しんだ伊藤選手だったが、成長とともにぜん息は影をひそめていき、中学に入る頃には発作はほとんど出なくなっていた。そして、いったんやめていた水泳を再開。中学を卒業する頃には頭角を現し、高校進学後は幼い頃から通うスイミングクラブ「セントラルスポーツ」の寮に入り、競技選手として本格的な練習に励むようになる。

ところが、環境が変わったこともあってか、治ったと思っていたぜん息の発作が再び出るようになってしまう。高校生で寮に入り、頼れる保護者はいないため、ぜん息のこともぜんぶ自分で管理する必要があった。

「できるだけ苦しくならないように、薬をきちんと吸入したり、自分で自分のこと、ぜん息のことを見ていこうという、自分と向き合えた瞬間でしたね」

環境の変化とぜん息の再発をきっかけに、身を持って自己管理の大切さについて知った伊藤選手。それしたり、掃除などの環境整備もしっかりやるようになったそうだ。

「ヒューヒューして苦しくなりたくないと思ったら、毎日の薬の吸入が、遠回りのようでいちばんの近道なんですよね。朝晩“シュッ”って吸うだけで、一日元気でいろいろなことができるんだから。今でも毎日吸ってますよ」

万全の体調管理で夢のオリンピックに到達

このぜん息の自己管理をしっかり続けたことが、ぜん息がありながら目標としていたオリンピックにたどりついた一つの要因と言ってもいいだろう。有力視されていたアテネオリンピックの代表の座を惜しくもつかむことができなかった伊藤選手は、オリンピックに出たいという気持ちが誰よりも強くなり、一層大きな目標となった。そして、

「そこからの4年間は一度も練習を休みませんでした。発作が出たりかぜをひいたりしないよう、体調管理は徹底していたと思います」

というように、強い気持ちと努力、徹底したぜん息の自己管理によって、アテネ後の北京、そして今回のロンドンと2大会連続でオリンピック出場を果たしたのである。

「ある程度の苦しさはあたり前だと思ってるけど、ぜん息を持ってない人よりは苦しいわけだから、そうじゃない人には負けたくないという思いはあります」

ぜん息であるからこそ思う気持ちがプラスに働き、強くなった部分もあるという。そして、夢や目標をかなえるため、ぜん息に対してどのような心構えでいるか教えてくれた。

「目標や夢を持てば、やるべきことが見えてきて、それをやるためには、毎日の吸入を基本とした体調管理をしっかりやろうと思っています。ちょっと体調が悪い、からだが弱い、これ以上できないとか、ぜん息を言い訳にしたくないから。いきいきした自分でいたいし、強くありたいと思っています」

伊藤 華英(いとう はなえ)

伊藤 華英(いとう はなえ)

プロフィール
1985年1月18日生まれ。埼玉県出身。生後6か月からぜん息治療の一環として、セントラルスポーツスイミングクラブにて水泳を始める。東京成徳大学中学校から東京成徳大学高等学校に進学後、高校総体、国体に出場。2008年の日本選手権女子100m背泳ぎで日本新記録をマークして優勝し、北京オリンピック代表の座をつかむ。ロンドンオリンピックでは、自由形で2大会連続出場を果たす。
<ツイッター>
https://twitter.com/hanaesty
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取材の様子 その1
練習中の伊藤華英選手
練習中の伊藤華英選手
取材の様子 その2

ぜん息のみんなへ!

ぜん息(そく)でくるしくなることって、「なりたい自分(じぶん)になる」ためには、じゃまなものですよね。だったら、「くるしくない自分(じぶん)をつくる」ために、毎日(まいにち)しっかりと薬(くすり)を吸(す)ったりのんだりしてほしいと思(おも)います。くるしくなければ、友(とも)だちとあそんだり、動(うご)いたり、ほかの人(ひと)とかわらないことができるはずだから。それができれば、どんどん自分(じぶん)に自信(じしん)がつくと思(おも)いますよ。

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