WEB版すこやかライフ ぜん息&COPD(慢性閉塞性肺疾患)のための生活情報誌

小児ぜん息すこやかライフNo.49 2017年3月発行

ぜん息児へのエール

ぜん息のつらさと闘うことで精神面が鍛えられ強くなることができました

新体操選手/ロンドンオリンピック代表 深瀬菜月選手

ロンドンオリンピック出場経験をもつ、新体操選手の深瀬さんは、中学生のころまでぜん息に悩まされていたそうです。

リボンやボールなどの手具を自由自在に操りながら、全身を使って優雅に踊り続けなければならない新体操競技は、見た目以上にハード。

深瀬さんは、「どんなことがあっても、フロアに立ったら女優になりなさい」という、幼いころにコーチに言われた言葉で気を引き締めながら、つらい状況でもベストを尽くし続けてきました。

ぜん息で苦しくても厳しい練習にたえる日々

「生まれてすぐにぜん息を発症したようです。当時の記憶はありませんが、1歳か2歳のときに肺炎でぜん息が悪化し、入院したと聞いています」

深瀬さんがぜん息を自覚したのは、幼稚園のころ。生まれ育った秋田の冬の冷たい空気が発作を起こしやすくし、季節の変わり目にも症状がひどくなった。

実は深瀬さんのお母さんもぜん息があり、ほこりや乾燥対策を講じたり、治療の大切さを教えてくれたりした。

「吸入薬を処方してもらい、毎日、就寝前と起床時に吸入していました。胸に貼るタイプの薬を使ったこともあります」

新体操を始めたのは6歳のとき。秋田新体操クラブに入って毎日、猛練習した。コーチの指導はとても厳しく、深瀬さんはよく泣いていたという。

「練習中に発作が出ることもありましたが、ずっと休んでいるわけにもいかず、『ぜん息に負けない!』と気持ちを奮い立たせていました。そのお陰で、メンタル面が強くなったと思います」

努力と涙は実を結び、中学3年生のとき全日本ジュニア選手権で個人総合3位、全日本選手権で個人総合18位に入賞。さらに日本代表“フェアリージャパン”に入る。

上京して新体操に打ち込みながら高校生活を送っていた深瀬さんは、ある日、ぜん息の症状が出なくなっていることに気づいた。その後も症状は出ていないが、今でもマスクをつけたりあめをなめたりするなど乾燥には注意を払い、念のため吸入薬を携帯している。

オリンピック出場後2年のリハビリを経験

オリンピック出場を目指してがんばってきた深瀬さんは、高校3年生だった2012年、ロンドンオリンピック代表に選出。

「強化合宿を行いながらヨーロッパ各国を転々として試合をする中で、世界トップクラスの選手の練習を見ることができ、毎日が刺激的でした」

結果、団体7位入賞という成績をおさめることができた。

しかしオリンピック後、左脚のけがが悪化し手術することになる。東京女子体育大学入学を目前にした13年3月のことだ。

「術後は立ったり歩いたりすることができず、“赤ちゃんになった”気持ちで一から体をつくり直しました」

車いすの練習、松葉杖での歩行訓練を経て普通に歩けるようになると、水中ジョギング、体幹トレーニングなどを行った。焦りや孤独を感じながらリハビリに取り組んでいた深瀬さんは、仲間がかけてくれる「待っているからね」という言葉に支えられ、つらい時期を乗り越えられたそうだ。

手術の2年後に大学の新体操競技部に復帰すると、部員84人の中から団体代表6人に選出され、全日本新体操選手権の団体総合で優勝した。

「リオデジャネイロオリンピックには出場できませんでしたが、大学やチームに貢献したいという思いでがんばってきたので、優勝できてほっとしました」

これからも新体操の魅力を伝えていきたい

最近では、大学の後輩や子どもたちのコーチもしている。

「教えるのは難しいです。上達する速さや感覚はそれぞれ違うので、どのように教えたらよいかいつも考えています。言い方も大事だと思うので、一言一言に気をつけています。ぜん息やけがを経験したからこそ、苦しんでいる人の気持ちになって、声をかけられるようになったと思います」

この春に大学を卒業する深瀬さんに、今後の展望を聞いてみた。

「新体操の魅力を多くの人に伝えていきたいです。まだどのような形になるかわかりませんが、新体操競技にはずっと携わっていきたいです」

深瀬菜月選手

深瀬菜月(ふかせなつき)

プロフィール
1994年4月10日生まれ。秋田県出身。6歳で新体操を始める。2009年、全日本ジュニア選手権の個人総合3位、全日本選手権の個人総合18位に。同年、日本代表“フェアリージャパン”入り。10年、世界選手権で団体総合6位、種目別フープ6位。12年、ロンドンオリンピックに出場し、団体7位入賞。同年のロシアW杯で団体総合2位、種目別ボール2位。13年に脚の手術を受け、15年に復帰。同年、東京女子体育大学新体操競技部の団体選手に選ばれ、全日本新体操選手権に出場、団体総合優勝。

ぜんそくのみんなへ!

私も中学生のころまでぜん息に悩まされていましたが、オリンピックに出場するという幼いころからの夢に向かって、ぜん息と闘ってきました。そして2012年、その夢をかなえることができました。つらくても自分を信じてがんばれば、きっと夢はかなうはずです。前向きに、どんなことにもチャレンジしてください。

下記は、お子様が読めるようにひらがなのみの文章になっています。

わたしもちゅうがくせいのころまでぜんそくになやまされていましたが、オリンピックにしゅつじょうするというおさないころからのゆめにむかって、ぜんそくとたたかってきました。そして2012ねん、そのゆめをかなえることができました。つらくてもじぶんをしんじてがんばれば、きっとゆめはかなうはずです。まえむきに、どんなことにもチャレンジしてください。

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