WEB版すこやかライフ ぜん息&COPD(慢性閉塞性肺疾患)のための生活情報誌

小児ぜん息 成人ぜん息 COPDすこやかライフNo.51 2018年3月発行

ERCAレポート

ぜん息やCOPDの患者さんをサポートするメディカルスタッフのための研修

ぜん息治療では患者さんの自己管理の重要性が高まり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療では、呼吸リハビリテーションの普及が課題となっています。このような状況の下、いずれの疾患でも、地域において患者さんの教育・指導ができるメディカルスタッフの育成や体制づくりを担うキーパーソンが強く求められています。

環境再生保全機構が行っている「ぜん息患者教育指導者養成研修」「呼吸ケア・リハビリテーション指導者養成研修」は、こうした地域のキーパーソンとなるメディカルスタッフを養成するための研修です。今回は、ぜん息をはじめとするアレルギー疾患全般の地域でのケアに関して、行政との連携のあり方などを学ぶ「ぜん息患者教育指導者養成研修」の内容を中心にお伝えします。

写真1

写真2ぜん息患者教育指導者養成研修での環境整備に関する講習の様子。座学だけでなく、掃除機を使った実技も行われ、ダニ排除の方法について実践的に学ぶ

地域の患者教育プログラムを実際につくる研修も実施

ぜん息患者教育指導者養成研修のカリキュラムは、半年間で4回・計8日間、東京都内で行われる講習や、4日間の臨床実習などで構成されています。

ぜん息患者教育指導者養成研修のカリキュラムと期間
研修カリキュラム 期間
行政アレルギー事業の講師に求められる知識や患者教育の理論・技法などについて 8日
臨床実習 4日
機構が主催する専門職対象の研修会における実践指導 2日
地方公共団体が主催するアレルギー講習会等の見学 1日

このカリキュラムを通して学ぶのは、専門知識やスキルはもちろんのこと、患者教育の理論やカウンセリングのトレーニングに加え、地域医療の実態、地方公共団体の活動を理解します。そのうえで、地域に求められる患者教育プログラムを作成していきます。

受講者は4〜5人ずつのグループに分かれ、講習の場だけでなく、その合間にも連絡を取り合い、地域の患者教育プログラム案を作成していきます。

写真3昨年10月の講習で、患者教育プログラム案の途中経過を発表する受講生のグループ

昨年10月の講習では、グループごとに途中経過を発表。「小児ぜん息患者の自己管理支援」など、あらかじめ与えられた課題に沿って作成された案に対し、地方公共団体に勤務する保健師が、行政の立場から、その実現性や実効性について忌憚のない意見を述べました。各グループはその意見を踏まえ、プログラム案の改良を続け、今年2月、最後の講習で最終発表を行いました。

研修の運営責任者である益子育代先生(東京都立小児総合医療センター看護部/小児アレルギーエデュケーター・本誌編集委員)は、「受講生には、行政と医療、双方の立場を理解し連携の橋渡し役になってほしい。そして、地域のアレルギー患者さんにとって本当に役立つ事業を行政と一緒につくり、その講師もできるような人材になってほしいと思っています」と語ります。

全国の仲間との交流で得るものも大きい

渡木綾子さん神戸市立医療センター西市民病院小児科外来看護師の渡木綾子さん

地域で真に実効性のあるアレルギーケアを進めていくためには、医療機関、行政の保健衛生担当部署、学校・幼稚園、保育所・こども園や児童養護施設などが、密接に連携を図ることも欠かせません。そのため、こうした多種多様な連携の中心となるキーパーソンが、全国の各地域で求められています。

2017年度の受講生の一人、神戸市立医療センター西市民病院小児科外来看護師の渡木綾子さんも、そうした問題意識をもって、この研修に参加しました。

渡木さんは、地域のアレルギーケアの質向上のため、近隣の医療機関に勤める医療職を対象とした講習会をたちあげるなど、すでにさまざまな活動を行っています。また神戸市や他医療機関と、西市民病院の連携の窓口となる同院の医師に助言するほどに、地域連携の実質的な要となっています。

これほどの実績がある渡木さんにとっても、一連のカリキュラムは「とても参考になった」とのこと。加えて、全国の仲間との交流を通して得るものも大きいといいます。

「この研修の参加者同士が横のつながりをもち、知識や情報を交換・共有することで、目の前の患者さんだけでなく、全国各地の患者さん、子どもたちを、それぞれの地域全体でしっかり治療し、育てていく。そんな状況をつくっていきたいと思っています」と、渡木さんは意欲を見せます。

受講生は、地域において、ぜん息をはじめとするアレルギー疾患患者さんを支える体制の充実に向け、重要な役割を果たすことが期待されます。

地方公共団体のイベントにも協力「呼吸ケア・リハビリテーション指導者養成研修」修了生の活躍

稲垣武さん千葉大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士の稲垣武さん

COPD患者さんの呼吸リハビリテーションの指導について学ぶ「呼吸ケア・リハビリテーション指導者養成研修」では、呼吸リハビリテーション指導の基本理論、患者教育の理論を学び、呼吸器系の専門病院での臨床実習も行います。

2016年度、同研修を修了した千葉大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士の稲垣武さんは、昨年11月9日に行われた東京都北区の肺年齢測定にスタッフとして参加しました。

稲垣さんは、測定と指導を通してCOPDの認知度がまだまだ低いことを痛感。今後も地方公共団体の事業に積極的に協力することで、「少しずつでも啓発を進めたい」といいます。勤務先では、大学病院という特性から、かなり重症化したCOPD患者さんの呼吸リハに当たってきたため、早期の呼吸リハ実施と、それを実現する地域全体での体制づくりの必要性を強く感じているそうです。

稲垣さんのような人が一人でも増えることで、やがては呼吸リハも、広く普及していくことが望まれます。


写真4東京都北区の肺年齢測定の様子。中央で指導するのが、稲垣さん

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