ぜん息などの情報館

2-2 軽症・中等症の患者の日常生活、保健指導のあり方に関する研究

代表者:牧野荘(東京アレルギー疾患研究所)

研究の目的

気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患は、社会的、家庭的に活動性の高い壮年期に罹患、発病し、その頻度は増加の傾向にある。

喘息はその呼吸困難発作によって日常生活、学業、就業が障害されるばかりでなく、不完全な治療は継続的な気道閉塞によって運動時の労作性の息切れを起こすようになる。

喘息患者の大部分は軽症・中等症に属している。また、年間6千人におよぶ喘息による死亡の大部分は中高年者のもので、近年軽症・中等症喘息でも起こることが知られている。

肺気腫、慢性気管支炎は持続性の気道閉塞による労作性呼吸困難は加齢とともに進行し、喫煙はその病態の進行を促進する。

これらの患者のQOLの向上を目指して、日常生活のあり方、勤務、社会生活の中での治療のあり方、呼吸訓練、禁煙方法などの確立と効果を検討し、疾患の悪化防止、喘息死と健康回復を目指すものである。

このためにQOLの評価方法の基準を作成し、これらの疾患による社会の負担、治療手段の周知度と効果を調査し、また、これら疾患の管理のための新しいモニターシステムの開発を検討する。これによって軽症・中等症の喘息を含む慢性閉塞性肺疾患患者の日常生活を改善し、これらの患者の働く環境を整備し結果として社会全体の福祉並びに生産性の向上に寄与しようとするものである。

3年間の研究成果

1.軽症・中等症の慢性閉塞性肺疾患患者の自己管理法の試行に関する研究

初年度およびそれ以前から作成した喘息患者およびCOPD患者を対象とした自己管理マニュアル案を基礎として、第2年度において、これら疾患全体の病因、予防、治療、日常生活を示したカラー印刷のマニュアルを作成した。

『ぜん息ハンドブック』と『慢性気管支炎・肺気腫療養ハンドブック』である。新マニュアルは環境庁企画調整局環境保健部保健企画課の編集協力をえて公害健康被害補償予防協会から発行されたものである。

新しく作られ編集を改善した2つの新マニュアルは多くの患者が以前のものに比べて分かりよいと感じ当初の目的を達した。

一方COPD自己管理マニュアルでは内容の豊富さと読み易さとは相反する場合もあり特に高齢患者ではそうであった。

最終年度ではこれらのマニュアルは指導者、看護スタッフにも用いうることが示された。読み通すのが難しい患者には必要なページの拡大コピーを渡すなどの工夫が有用であった。

作成されたマニュアルは喘息及びCOPD患者の日常の療養の改善に有用であったがなおその使用にはきめ細かい注意を要しよう。

2.軽症・中等症の慢性閉塞性肺疾患患者のQOL向上、健康回復のための指導法の実施と職場での試行に関する研究

職場における喫煙状況と禁煙指導:初年度においては“職場における禁煙”に関する意識調査を行い、喫煙による悪影響についての知識の普及は十分でないが、一方禁煙の可能性のある人々も多いことを明らかにした。

次年度では分煙を実施した職場を対象に調査し、分煙に同意ないし分煙を容認する職員が多くを占めた。しかし、多くの職場での禁煙指導に関する調査では、なお、喫煙による害が十分理解されていない現状が明らかとなった。

第3年度の調査でも職場での禁煙に関する広報活動と理解に基づいた禁煙、分煙の必要性が示された。また、『保健師による慢性閉塞性肺疾患患者への禁煙指導マニュアル』が作成され、地域での禁煙の推進に役立つことが期待される。

呼吸コンディショニング法の自治体での集団指導

初年度には都内の呼吸体操教室での呼吸筋ストレッチ体操の集団指導の有用性を検討し、QOLの向上、呼吸感の改善を認めた。

次年度に各自治体での指導効果を調査したが、指導者である保健師の指導現場のための実技指導の必要性を認めた。

そのために第3年度において「呼吸筋ストレッチ体操指導要領(案)」が作成され、より具体的な指導に有用なことが示された。

3年間にわたる体操教室の継続で患者の自己管理が確認できた。呼吸筋ストレッチ体操は呼吸コンディショニング法の一つとして有用性が明らかになった。

QOL調査票の作成

評価能の高いQOL調査票による、よりQOLの客観的な評価は喘息、COPDの治療法、日常生活指導法の選択、改善に不可欠である。喘息特異的QOLと一般的QOLとを評価する新しいVersionを用いてその信頼性と妥当性を検討した。

初年度と次年度はQOL調査票の原案を作成し少人数の喘息患者を対象に検討し、3年度においては多施設の参加により有用性を検討した。

その確立にはなお多くの症例につき、また目的に応じたQOL調査票の必要性が考えられる。

3.慢性閉塞性肺疾患患者の自己管理法及び保健指導法の評価指標の開発等に関する研究

喘息治療・管理ガイドラインの効果と周知度の検討

初年度の調査でガイドラインの導入は、専門医の診療を行う医療施設での喘息悪化による入院、救急受診を著しく減少させたことを認めた。

第3年度においては約5,000名の喘息患者を診療したことのある医師を対象にアンケート調査を行い、非専門医の70%がガイドラインを知っておりかつ利用していることが示された。

1997年の周知率が50%であったことから、喘息治療のさらなる改善が期待される。

公的医療統計による喘息の病態と治療の実態調査

喘息患者の推定総数は増加の一途をたどり、喘息治療に要する医療費も増加傾向にある。しかし、医療費における入院と入院外の割合の年次推移は入院が減少した。

喘息による死亡は男性で減少傾向が見られた。喘息に関する新聞での掲載は経年的に増加傾向が見られた。

学童、生徒の喘息罹患率は1979年より1999年までの何れの年齢層でも増加が見られた。

東京消防庁での喘息患者の救急搬送の記録では呼吸器疾患患者中の喘息患者の比率の低下を見た。

本研究は喘息の社会的負担と対応する医療の実態を示し、効果的な対策に貢献するものである。

家庭および職場でのパルスオキシメーターによる血液酸素飽和度測定の有用性の検討

研究期間を通じて喘息とCOPD患者について検討が行われた。初期の研究で、喘息発作の強度は症状とピークフロー値によることが一般であるが、ピークフロー値と血液酸素飽和度が必ずしも平行しない場合があり、在来のアプローチでは高度気道閉塞を見逃す可能性が示された。

後期の研究では、血液酸素飽和度通信測定装置(ケアーメートs)によりインターネットを通じて患者の緊急の訴えに応じて医師が即座に指導・指示を行うことが技術的に可能であることが示された。

その実用化は喘息死の抑制に有用であろう。慢性閉塞性肺疾患患者の勤労者につきパルスオキシメーターを用いて作業と血液酸素飽和度、脈拍を測定し、作業環境、作業様態が酸素化態に悪影響を与える場合があることを示した。

後期研究では喘息患者およびCOPD患者で血液酸素飽和度が日常生活中に非発作時でも低酸素の存在を認めた。

ピークフローメーターとパルスオキシメーターの併用は職場および日常生活での呼吸器疾患患者の管理に有用であることが示された。

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