ぜん息などの情報館

3-1. 気管支喘息患者の予後と変動要因に関する調査研究

代表者: 谷口 正実(国立病院機構相模原病院)

研究の概要・目的

ガイドラインの普及とともに吸入ステロイド薬を中心とした抗炎症療法による長期管理の進歩により、気管支喘息における喘息死、発作受診、発作入院、長期入院はここ数年で激減している。しかしながら、気管支喘息は治癒可能な疾患か否かについては、未だ明確な解答はなく、吸入ステロイド薬が普及してからの長期予後を検討した研究は国内外にほとんど見られない。
したがって、本研究では、小児部門と成人部門に分かれ、気管支喘息の年齢階層毎の長期経過、予後調査を行い検討することで、ソフト3事業の効果の検証を行うとともに、効果的なソフト3事業展開のための戦略策定や資料作成に資することを目的とする。
小児喘息部門では、抗炎症治療を受けた小児喘息患者の長期的予後を思春期、成人期まで前方視的に調査していくことで、これら治療の実施状況と症状の推移を把握する。
成人喘息部門では、日本人成人喘息の発症、予後を主要評価項目とした前向き研究を、電子レセプト内容とメタボ検診結果を併せて調査し、メタボ各因子が成人後喘息発症や非寛解に関与するかを検討する。また喘息医療実態、およびそれとメタボ因子との関連も明らかにする。

年度ごとの研究目標(計画)

平成24年度

小児部門では、
小児期発症の気管支喘息の長期経過、長期予後について40年後までを見据えた前方視的観察研究を行う。平成24年度は、2004年から2006年までに登録された喘息群852名と喘鳴を伴う乳幼児群382名(合計1,234名)を対象とした6年目の調査データの収集、分析を行うとともに、喘鳴群に関しての中途からの喘息移行について詳細な調査を行う。
成人部門では、
①喘息医療実態(有病率、喘息医療費、処方内容、受療率など)を電子レセプトからまず明らかにし、喘息医療内容とメタボ関連疾患病名や治療、メタボ検診成績との関連を横断的に明らかにする。
②検診を受けていた組合員全例に対し、今後レセプト内容(受療していない場合も含めて)とメタボ検診結果を、今後5年間以上追跡調査を前向き開始し、新規喘息発症や発症抑制の因子(検診結果や各種治療内容、生活習慣病名など)を明らかにする。
③喘息患者における高血圧や糖尿病、高脂血症などの合併率(横断的研究)や発症率(前向き研究)を非喘息集団のそれと比較する。

平成25年度

小児部門では、
平成25年度は、2004年から2006年までに登録された喘息群852名と喘鳴を伴う乳幼児群382名(合計1,234名)を対象とした7年目の調査データの収集、分析を行うとともに、喘鳴群に関しての中途からの喘息移行について詳細な調査を行う。
成人部門では、
①電子レセプトから喘息医療実態(有病率、喘息医療費、処方内容、受療率など)を解析し、公表する。
②喘息医療内容とメタボ関連疾患病名や治療、メタボ検診成績との関連を横断的に調査、解析する。
③検診を受けていた組合員全例を、今後レセプト内容とメタボ検診結果の毎年追跡調査を前向き調査し、新規喘息発症や発症抑制の因子(検診結果や各種治療内容、生活習慣病名など)を明らかにする。

2年間の研究成果

平成24年度

小児喘息部門について、調査開始から6年間経過した喘息患者で5年後に資料がある486名について解析をおこなった。6年間で92.2%がコントロールされ、年に数回程度の発作頻度になり、重症度も間欠型が51%まで増加していた。しかし環境に関しては、ペット飼育率の増加、掃除回数が不十分などの問題点も明らかとなった。
成人喘息部門については、メタボ関連因子のうち、男性では脂質代謝異常(OR, 1.5)、女性では糖代謝異常(OR, 4.7)が有意に喘息と関連しており、成人喘息にメタボと共通した代謝・免疫病態が関与している可能性が初めて示された。BMIや腹囲と喘息の関係は認められなかった。以上は国際的な新知見であり、さらなる検証が必要である。

平成25年度

小児喘息部門について、喘息群においては、調査開始から6年目までのデータの揃っている486名について解析を行った。①登録時は中等症持続型が8.2%、重症持続型が5.6%であったが、6年後にそれぞれ1.0%、0.2%と著しく改善した。②登録時の発作型と比べ、発作頻度は登録時より大きく改善していた。③治療を加味した重症度の割合が、6年後には間欠型が8.8%から51.0%に増加、軽症持続型が45.7%から36.2%へ、中等症持続型が29.0%から7.6%へ減少、重症持続型が30.7%から1.6%に減少した。④吸入ステロイド薬の使用者数は高用量が減少し、非使用者が増加した。⑤ペットの飼育状況は、登録時11%が6年後に22%に増加していた。⑦家族の喫煙状況は、登録時49.0%、6年後も依然として36.0%が喫煙していた。
喘鳴群の解析においては、3歳以下で喘鳴を発症した患者191名について解析を行った。喘鳴群から、6年間で医師により喘息と診断された者が42.9% ,症状と薬剤により喘息と判断した者が27.2%であった。喘鳴群から喘息発症の危険因子、多変量解析から医師の喘息診断に基づいた有意因子は見つからなかった。症状と薬剤による喘息の判断の場合は、母の喘息既往が有意因子となっていた。
成人喘息部門について、約10万人の大規模なレセプト調査で数々の新知見が得られた。レセプト喘息病名のリスク因子解析で、今回初めて検討したメタボリックシンドローム関連因子のうち、喘息の危険因子として有意であった指標は、男性では(BMIそのものは影響しないものの)、腹囲高値やその身長比高値が(OR, 1.39,1.37)で有意であった。また女性ではBMI25以上で(OR, 1.5)、腹囲やその身長比はORが1.8と有意な強い因子と判明した。この結果は、喘息リスクとしての肥満関連指標はBMIよりも腹囲や腹囲身長比のほうが優れていることを示し、喘息リスクとして重要なのは内臓肥満そのものであると推察された。

評価結果

平成24年度

平成24年度評価結果(PDF:90KB)

平成25年度

平成25年度評価結果(PDF:86KB)

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