ぜん息などの情報館

2-2 成人喘息の有症率とその動向に関する調査研究

代表者:谷口 正実

研究課題の概要・目的

公害健康被害予防事業助成金交付要綱に掲げる区域(以下、「助成対象地域」とする。)における成人喘息の有病率有症率を、その他の地域と比較して正確かつ大規模に検討した成績はほとんどない。また、助成対象地域に居住することが、喘息有病率、寛解、喘息コントロール状況などに影響するか否かは不明である。
そこで本研究では、全国の助成対象地域(川崎市、富士市、東海市、四日市、倉敷市、尼崎市、北九州市など全ての助成対象地域)に居住している20歳以上の成人に対し、すでに確立した正確で精度の高いインターネット調査方法を用いて、喘息有症率を調査する。また、調査対象に現在の喘息コントロール状況はどうなのか、有症率に影響する因子を調査する。

年度ごとの研究目標(計画)

平成23年度

すでに確立した正確で回収率の高いインターネット調査方法(福冨、谷口ら)を用いて以下の通り実施する。

  1. マクロミルリサーチモニターとしてあらかじめ登録されているインターネット上の20-44歳のモニター会員を調査の対象とする。リサーチモニターはあらかじめその居住地区に関する情報を有しており、助成対象地域に在住するモニターにおける喘息有症率と、その対照として、助成対象地域ではないその他の地域に在住するモニターにおける喘息有症率を比較した
  2. 調査対象サンプル数は各地区2000人を上限とし可能な限り大きいサンプル数とする。e-mailにより、登録モニターに対して調査参加への呼びかけを行い、同意が得られたモニターに対してwebページ上で気管支喘息の有症率と喘息発症危険因子に関する質問を含む調査票に対して回答を得る。

平成24年度

Study 1 昨年度の研究により、助成対象地域での正確な喘息有病率・有症率が明らかになった。大気汚染指標は助成対象地域においても環境基準範囲内に入っていたためか、大気汚染指標と喘息有病率の正の関係は認めなかった。さらに、助成対象地域においては、その他地域に比べ喘息の有病率は有意に低い結果を示した。
今年度は、大気汚染指標以外の因子のうち、どの因子が地域の有病率を規定しているのかについて検討する。

Study 2 助成対象地域の喘息患者の治療状況、悪化因子、コントロール状況、アドヒアランスなどについて検討する。

2年間の研究成果

平成23年度

今回初めて助成対象地域での正確な喘息有症率が明らかになった。大気汚染指標は助成対象地域においても環境基準範囲内に入っていたためか、大気汚染指標と喘息有症率の正の関係は認めず、現状のSPM、NO2, SO2汚染の程度では、喘息有症率に与える疫学的なインパクトは大きくないものと考えられた。さらに、助成対象地域においては、その他地域に比べ喘息の有症率は有意に低い結果となった。この理由は不明であるが、現状の大気汚染は影響がなく、国内では別の因子(たとえば喫煙その他)が喘息有症率に影響していると推定される。
また今回の結果は、インターネット調査の長所(短期間で比較的安価に回収率の高い広範囲疫学調査が可能)が生かせた研究となったが、高齢者や過疎地域での調査ができない点やインターネット使用者でのバイアスが生じる可能性は本調査の欠点であり、今後の課題であった。

平成24年度

Study 1 前年度の検討で、我々の予想に反して、助成対象地域がその他の地域に比べて、喘息の有病率が有意に低いという結果になり、大気汚染指標と喘息有病率の関係も認められなかった。今年度の検討で、喘息有病率の地域差の主な規定因子は地域の喫煙者の割合であることが明らかになり、その影響を調整すると、助成対象地域と助成対象外地域のwheezeの有症率、喘息の有病率との有意な関係は認められなかった。

Study 2 助成対象地域の喘息患者の実態が明らかになった。喘息患者全体を対象にして調査すると軽症者が多く、多くの患者で症状はコントロールされている状態であったが、入院を要するような重症例に限ってみても、半数近くが適切な喘息治療を受けていない実態が明らかになり、今後の治療に関する普及啓発活動の強化の重要性が示唆された。

評価結果

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