大気環境の情報館

公害健康被害補償法の制定(1973年)

大気汚染による被害はその原因が人為的なものであるため、一般の民事紛争と同様に、訴訟を通じて被害者が大気汚染の原因者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償を求める方途が開かれています。しかし、大気汚染に限らず公害訴訟においては、環境汚染行為と被害の因果関係の科学的究明に困難が伴うことなどから、裁判の結論を得るまでに長期間を要するなどの問題点がありました。
このため、公害については、原因者に故意・過失が無い場合であっても、環境汚染行為によって受忍限度を超える損害が発生したときは、原因者が損害賠償責任(無過失損害賠償責任)を負うこととし、1972年に大気汚染防止法及び水質汚濁法の一部を改正し、法的に措置されました。しかし、無過失責任損害賠償責任制度が導入されても、被害者は訴訟という手段をとらなければならないし、同制度は制度導入以前に生じた公害健康被害には適用されませんでした。
そこで、民法上の損害賠償制度を補い、被害者補償制度を抜本的に整えるための法律として「公害健康被害補償法」が1973年6月に成立し、1974年9月1日に同法が施行されました。
この法律では、被害者の認定については、大気汚染が著しくその影響による疾病が多発している地域を指定し(指定地域)、一定期間以上居住・通勤して大気汚染に暴露されている者が(暴露要件)、慢性気管支炎、気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎及び肺気しゅ並びにその続発症(指定疾病)に罹っているときは、その者の疾病と大気汚染との間に因果関係があるとする制度的な取り決めを行っています。指定地域の要件は、中央公害対策審議会(当時)の答申において、地域指定については、「著しい大気汚染」があり、「その影響による疾病の多発」していることが要件とされ、例えば、大気の汚染の程度が二酸化硫黄年平均値0.05ppm以上で、疾病の有症率の程度が自然有症率の概ね2~3倍以上のような場合が典型的な例であるとされています。
法律に基づき知事の認定を受けた健康被害者は、医療費等のほか、疾病に罹ったことによって失った利益を補填する補償の給付を受けられます。また、指定疾病により失われた健康を回復させ、保持し、増進するといった認定患者の福祉増進に必要な公害保健福祉事業を行うこととされています。補償給付等に伴う費用の負担については、大気汚染による健康被害の補償制度の実施に必要な費用は大気汚染物質の排出の寄与率によることとされ、工場・事業場の固定発生源と自動車等の移動発生源との間の費用負担割合は、大気汚染物質のうち全国の硫黄酸化物窒素酸化物とを考慮して8対2とされました。全体の8割を負担する固定発生源の負担は、一定規模以上の全国の工場・事業場が負担することとされ、個々の工場・事業場については、硫黄酸化物を指標とし、その排出量に応じて負担することとされました。
本制度の指定地域は、当初の12地域から次第に拡大され1978年には41地域となり、認定患者数も1988年には10万人以上に達しました。これに伴い、補償給付の総額は一時期には年間1千億円を超えました。

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