
すこやかライフNo.51 2018年3月発行
現場レポート:楽しく歌って心身ともに健康に成人ぜん息・COPDに対する「音楽療法」の可能性
左から、荒川区保健所健康部生活衛生課公害保健係の堀部加代子さん(看護師)、丸山康平さん、係長の石井保子さん
荒川区が、成人向けの「ぜん息教室」を始めたのは2005年度のこと。「ぜん息」と銘打ってはいますが、COPDなど呼吸器疾患全般の患者さんと、そのご家族が対象です。
「当初は20人以下だった参加者が、今では60人前後にまでなっています」と語るのは、保健所健康部生活衛生課公害保健係の丸山康平さんです。しかも、これまで参加したことがなかった患者さんが評判を聞きつけ、新規に申し込む例もいまだに多いとのこと。参加希望者の増加に対応するため、13年度からは年度内1回の開催を2回に増やしています。
音楽教室の講師を務める声楽家・作曲家で清泉女学院短期大学教授の山﨑浩先生は、この人気の理由の一つとして、腹式呼吸を「体で覚えられること」を挙げます。
座学やパンフレットなどでも腹式呼吸は学べますが、実践を伴わない知識はなかなか定着しません。しかし、歌うことで呼吸の仕組みや横隔膜の動きを実感しながら得た知識は、しっかりと定着します。「それでこそ、知識は生活の中で生かせるのです」と、山﨑先生は「体で覚えること」の大切さを強調します。さらに、「トレーニングやリハビリは、リラックスして行うことで初めて効果が出るものですが、その状態を意図してつくるのは難しい。でも、歌うことで緊張がほぐれ、自然にリラックス状態になれるのです」と、音楽のリラックス効果も指摘します。
音楽教室の印象について、「歌いながら、知識が参加者の方々の体に吸収されていく感じが伝わってきて、いつも素敵だなと思うんです」と語るのは、公害保健係看護師の堀部加代子さんです。日ごろの保健指導で、対象者の方に知識が正しく伝わっているか、常に悩んでいるという堀部さんには、「体で覚える」という音楽教室のメリットは、特に際立って見えるようです。
昨年9月に開催された、2017年度2回目の音楽教室の様子。コンサートホールである「日暮里サニーホール」で開催、グランドピアノの生演奏で歌うという、普段はできない経験ができて、好評を博した
また患者さんのストレス解消という面でも、音楽教室は大きく役立っています。
昨年4月に着任した公害保健係長の石井保子さんは、初めて音楽教室を目にした時の印象について、こう語ってくれました。「百聞は一見にしかずでした。参加者の皆さんが、本当に楽しい時間を過ごされていることが、ひしひしと伝わってきました」
ご存じのとおり、ストレスはぜん息の悪化要因の一つ。楽しく歌うことは、発作の予防にもつながっていきます。
読者の皆さんも、「百聞は一見にしかず」です。お住まいの自治体で音楽教室が開催されていたら、ぜひ一度、参加してみてはいかがでしょうか。