
すこやかライフNo.51 2018年3月発行
現場レポート:楽しく歌って心身ともに健康に成人ぜん息・COPDに対する「音楽療法」の可能性
呼吸器の専門病院として全国的に有名な霧ヶ丘つだ病院では、外来呼吸リハビリテーションに通う、主にCOPD患者さんを対象に音楽療法を実施しています。
「COPDの患者さんの中には、うつ傾向になる方が少なくありません。そうした患者さんに、楽しく魅力あるメニューを提供することでストレスを軽減し、呼吸リハビリを継続していただきたいと思い、音楽療法を十数年前に導入しました」と語るのは、理事長・院長の津田徹先生です。
音楽療法のほか、ヨガ、アロマテラピーなどのプログラムが「外来呼吸リハビリテーション教室」として用意され、患者さんは希望に応じて選ぶことができます。同院で外来呼吸リハビリを受けているCOPD患者さん60人程度のうち、10人ほどが音楽療法のプログラムに参加しているそうです。
講師を務めるのは、医療相談室長の末松利加さん。音楽療法は独学で勉強したとのこと。アロマテラピーの講師も担当しています。
音楽療法では、フレーズの最後までひたすら息を伸ばして歌う「のばし歌」や、息継ぎを入れずひと息で歌い続ける「ひと息歌」などによる発声練習(呼吸訓練)で、腹式呼吸を楽しく学びます。そのほか「歌いながらの手遊び」など、全身を使い心身の活性化を図るメニューが用意されています(フォトルポ・霧ヶ丘つだ病院 音楽療法参照)。
末松さんによると、参加者の皆さんにとっては、こうしたメニューを楽しむことに加え、同じ病気の仲間と交流することが、大きな励みになっているとのこと。
たとえば以前、音楽療法の参加者が合唱団を結成し練習を積み重ね、院内のクリスマスコンサートに出演したこともあったそうです。教室終了後に参加者が連れ立ってカラオケに行くことも、よくあったとのこと。最近は参加者の高齢化に伴い、こうしたことは少なくなってきましたが、それでも週に1回、大きな声で歌い、仲間と語らう時間は、かけがえのない時間となっているようです。また、男性でもおしゃれに気を使うようになるなど、気持ちの張りも出てきます。
このように音楽療法や、そこでできた仲間と交流することの効果について津田先生は、「患者さんの心身が活性化され、身体活動性も明らかに高まっているはずです」と語ります。
身体活動性とは、「日常生活において、どのくらい活動しているか」を示す指標です。近年の研究から、COPD 患者さんの身体活動性が向上すると、症状の悪化が抑えられ、再入院率や死亡率も低下するなど、予後が改善することが明らかになっています。音楽療法は、身体活動性の向上を通じて、COPDの治療にも良い効果を及ぼしているといえそうです。
音楽療法の参加者でも、ひとり暮らしが増えたり、家族と暮らしていても孤立するケースが多くなってきたそうです。そんな患者さんにとって音楽療法プログラムは、「単なるストレス解消ではなく、人生の楽しみ、生きがいになっています」と末松さんはいいます。音楽療法は、QOL(生活の質)向上にも、大きく寄与しているといえそうです。
また津田先生によると、こうしたプログラムに参加してきた患者さんは、「周囲に支えられている」という気持ちを持ち続けることができ、終末期を迎えても比較的不安が少なく、穏やかに過ごせるそうです。
このように、呼吸器疾患での音楽療法は、数々のメリットを患者さんにもたらします。自治体においても医療機関においても、今以上に取り組みが広まってほしいものです。
音楽療法は、毎週金曜日に開催される、ワンクール3か月の外来呼吸リハ教室のプログラムの一つです。
初めに末松さんが季節の話題や音楽療法の歴史などの説明をし、発声練習、歌いながらの手遊びといったメニューが続き、1時間程度で終了します。皆さんの笑顔が印象的です。
歌いながら、隣の人と手を合わせる・手をたたくといった決まった動作をします。
皆さんの動作が合わなくとも、それはそれで盛り上がります。体を動かす運動効果だけでなく、脳の活性化にも役立ちます
「手をたたこう」の部分の動作を、参加者一人ひとりの提案でアレンジして歌います。
写真は、「手をつなごう」をやっているところ