
すこやかライフNo.44 2014年10月発行
特集:ぜん息治療 薬だけに頼っていませんか?
薬をきちんと定期的に吸入し、アレルゲンに合わせた対策をしっかり取っていても、なかなかぜん息症状がおさまらない場合は、ぜん息を悪化させるほかの要因が隠れているのかもしれません。
喫煙がぜん息を悪化させることはよく知られていますが、そのほかにも、ぜん息以外の病気が原因になることもあります。ストレスや肥満、食生活もぜん息の悪化に関係することがわかっています。
たばこの煙や感染症などのほかにも、ぜん息発作を起こすさまざまな刺激があります。これらを吸い込まないよう、避ける工夫も心がけましょう。
喫煙そのものが呼吸機能を低下させ、ぜん息を悪化させる原因となることは多くの方がすでにご存じのことだと思います。しかしそれだけでなく、喫煙によって吸入ステロイド薬が効きにくくなることがわかっています。
また、妊婦の喫煙によって子どもがぜん息を発症する確率が高くなることや、母親が喫煙者であるぜん息児のほうが重症化しやすく、救急治療の頻度も高いことが知られています。
喫煙はもちろんのこと、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、自分が喫煙するのと同じくらい、ぜん息に悪影響を及ぼします。喫煙者の方はきっぱりと禁煙(最新の禁煙治療については、現場レポートをご参照ください)をしましょう。
かぜやインフルエンザ、肺炎といった、ウイルスや細菌が原因で起こる呼吸器の感染症も、ぜん息を悪化させてしまう原因になります。空気が乾燥しがちになる冬は、とくに注意が必要です。
外に出るときはマスクをする
外から帰ってきたらうがい、手洗いをする
流行前にインフルエンザの予防接種を受ける
高齢者(65歳以上の方)は、肺炎球菌ワクチンの接種も受ける
小児、成人ともにアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があるとぜん息が悪化しやすく、治りにくいとされています。ぜん息患者さんはアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎を合併している確率が高く、これらの合併がある場合は、ぜん息と同時に治療を進める必要があります。
◆とくに花粉によるアレルギー性鼻炎(花粉症)が小児、成人ともに増加しています。花粉は室外を飛ぶため、回避するのが難しいアレルゲンですが、家の外で花粉を吸入しない、家の中には花粉を持ち込まない工夫を心がけましょう。また、花粉の飛散時期はできるだけ外出を控えることも必要です。
最近では、ひとつの花粉がアレルゲンになると、続いてほかの花粉もアレルゲンになってしまい、一年中症状が続くということが増えています。また、自分はスギアレルギーだと思っていても、実は同じ季節に飛んでいるシラカンバやハンノキアレルギーだった、ということも多く見られます。自分のアレルゲンは何なのか、正しく知ることが治療への第一歩になります。
◆副鼻腔炎は小児と成人で治療法が異なることがあります。小児ではマクロライドという抗菌薬がよく効くタイプの副鼻腔炎が多いのに対し、成人では「好酸球性副鼻腔炎」と呼ばれるステロイド薬が有効なタイプの副鼻腔炎が増えています。どちらも、鼻づまり、膿の混じった鼻水、頭痛、においを感じにくいなどの症状がある場合は、医師に相談しましょう。
小児、成人ともに、肥満(内臓脂肪型肥満)がぜん息の悪化要因となっていることがわかってきました。健康診断などでは、BMI(注1)25以上で肥満と判定されますが、日本人は軽度の肥満であっても、ぜん息発症のリスクが高いことがわかっています。
日本人におけるBMIとぜん息発症リスク
とくに女性の場合はBMIが高いほど、ぜん息が治りにくくなるというデータもあります。
日本人成人ぜん息におけるBMIと難治性ぜん息の割合
また、BMIよりも内臓脂肪の指標である腹囲と身長の比(腹囲/身長)が大きいほど、ぜん息が治りにくいというデータもあります(注2)。
肥満がぜん息を悪化させる理由としては、内臓脂肪に含まれる脂肪細胞そのものが、炎症性サイトカインと呼ばれるぜん息を悪化させる物質を出すこと、気管支周辺の脂肪組織のすき間に、マスト細胞やマクロファージという細胞が多く集まり、それらから出される物質によってさらに炎症が引き起こされること、が挙げられています。
内臓脂肪はぜん息だけでなくメタボリックシンドロームにも関係します。内臓脂肪の増加を放置しておくと動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気を引き起こす原因にもなります。
食生活や運動習慣を見直し、メタボリックシンドロームを予防、改善することは、ぜん息の悪化予防にもなることを覚えておき、肥満気味の方は減量を心がけましょう。
ファストフードや牛肉などの高脂肪食を頻回に摂取する人ほど、気道の炎症がひどく、ぜん息が悪化しやすいということもわかってきました。
悩みや心配ごと、いやなことがあってストレスがたまるとぜん息発作が起こりやすくなります。原因ははっきりとわかっていませんが、ストレスを感じることで体の中にあるマスト細胞から、気管支を収縮させる炎症物質が出されるためと考えられています。
ストレスというと子どもよりも大人のほうが感じやすいと考えてしまいがちですが、子どもも大人と同様、日々、ストレスにさらされています。学校でいやなことがあった、いじめっ子がいるなど、大人にとってはささいなことでも子どもにとっては大きなストレスになることがあります。また、起きている間はせきがひどいのに、睡眠中はまったくせきが出ない、という場合はぜん息よりむしろ何らかの心理的な原因が考えられます。せきが続いたり、発作が起こったりしたとき、子どもの普段の様子を観察するのもぜん息悪化予防対策のひとつです。