WEB版すこやかライフ ぜん息&COPD(慢性閉塞性肺疾患)のための生活情報誌

すこやかライフNo.47 2016年3月発行

小児ぜん息 成人ぜん息 その他のアレルギー医療トピックス:アトピー性皮膚炎 治療とセルフケアの最新動向

―最新の研究から学ぶ― アレルギーマーチの進行を抑えるためには

乳児期にアトピー性皮膚炎がある場合、成長にともなって食物アレルギーやぜん息、鼻炎などほかのアレルギー疾患を発症する確率が高くなることがわかっています(これを、アレルギーマーチといいます)。しかし最近の研究により、アトピー性皮膚炎を予防できる可能性や、アレルギーマーチの進行を抑えられる可能性があることがわかってきました。

たとえば、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは深く関係しており、アトピー性皮膚炎の重症度に比例して、食物アレルギーを発症しやすくなる、というデータがあります。

アトピー性皮膚炎の場合、バリア機能が低下しているため、食物が皮膚から体の中に入ってきやすくなっています。これに加えて、皮膚の中に炎症があることによって、免疫に関わる細胞が入ってきた食物を異物だと認識し、食物アレルギーの発症に関係する「IgE抗体」をつくるメカニズムを働かせてしまいます。そのため、食物アレルギーが発症しやすいと考えられています。

つまり、アトピー性皮膚炎の治療をきちんと行い、皮膚のバリア機能を高めて炎症を抑えることが、食物アレルギーの予防につながる可能性があります。

また、アトピー性皮膚炎に加えて、すでに食物アレルギーのある人であっても、皮膚の状態をよくしておくことが、食物アレルギーの症状を抑制することにつながると考えられています。

トピックス 新生児期からの保湿がアトピー性皮膚炎を予防する

アトピー性皮膚炎の人は、バリア機能の低下により皮膚の水分が失われやすい(乾燥しやすい)体質です。 そこで、生まれて間もないころから保湿剤による保湿を行うことで、アトピー性皮膚炎を予防できるのではないか、という仮説が立てられ、実際に研究が行われました。 2013年10月に大矢先生のグループが発表した研究結果は下記のとおりです。

対象
両親もしくはどちらかの親にアトピー性皮膚炎がある、もしくは先に生まれている子どもにアトピー性皮膚炎がある新生児118人
方法
  • 新生児を59人ずつ、AとBの2つのグループに分け、どちらのグループもまずせっけんで体をきれいに洗う。
  • グループAは、毎日1回以上、全身に保湿剤を塗る。
  • グループBは、保湿剤は使用せずに乾燥したときだけ白色ワセリンを塗る。
  • これを32週継続。
結果
グループBでは、28人(57%)がアトピー性皮膚炎を発症したのに対して、グループAでは、19人(38%)がアトピー性皮膚炎を発症。保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎の発症率が34%低下。

体質としてリスクの高い子どもであっても、毎日1回以上保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎の発症を低下させることが実証されました。

まだ研究段階ではありますが、遺伝的なリスク要因がある場合、新生児期からの保湿がアトピー性皮膚炎を予防し、さらにはぜん息など、ほかのアレルギー疾患を予防する可能性も出てきています。

生後32週目までのアトピー性皮膚炎累計罹患率の推移を表わした折れ線グラフ。両グループとも10週目より罹患率が上昇するも、32週目では、グループAはグループBよりも34%数値が下回っている。

(J Allergy Clin. Immunol 2014より改変)


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