WEB版すこやかライフ ぜん息&COPD(慢性閉塞性肺疾患)のための生活情報誌

すこやかライフNo.53 2019年3月発行

小児ぜん息 その他のアレルギー現場レポート:みんなが楽しめる給食のために 学校での食物アレルギー教育

事例① 墨田区立曳舟小学校〔東京都〕

ひとりの児童の発表を学校全体の取り組みのきっかけに

食物アレルギーの子と、保護者の方の思いとは…

曳舟(ひきふね)小学校では、卵・乳アレルギーのある5年生の女子児童・Aさんが、食物アレルギーについての思いをつづった作文を発表しました。この企画を考えたのは、養護教諭の小瀬良(こぜら)初代先生です。

「食物アレルギーの児童が増え、学校側は誤食が起きないよう、必死になっています。でも、食物アレルギーの子やその保護者の方々は、どんな思いでいるのだろう、その気持ちをみんなに伝えたいと思いました」

Aさんの発表と併せて、学校医の先生が食物アレルギーの説明も行いました。

Aさんは、牛乳のしずくが肌に触れただけで症状が出るほど重症だったので、クラスメートは、給食時に牛乳をAさんから離して置いたり、当番を代わったりするなどの配慮はしていたそうです。しかし、そのほとんどは食物アレルギーの知識に乏しく、先生の指示に従ってはいるものの、「なぜ」配慮しなければいけないのか、よくわかっていませんでした。Aさんの本当の気持ちも、ごく親しい友人以外、知らなかったでしょう。ましてや食物アレルギーの児童がいなかったり、軽症の児童しかいなかったりする他のクラスでは、理解も配慮もできていませんでした。

「子どもの『なぜ』に答えることで、初めて子どもは本当に納得して行動し、その行動は定着します。Aさんの『気持ち』の発表と併せて、この『なぜ』に答えることで、食物アレルギーの知識と配慮を全校に広げるのが、この企画の狙いでした」と、小瀬良先生は語ります。

身近にいる「あの子」が生の声で気持ちを伝える

発表は、2017年10月、児童朝会の時間を利用して行われました。

最初に、保健給食委員の児童が、「食物アレルギーの子は原因食物が入った食事をとると症状が出て、命にかかわることもあります。だから原因食物を除いた給食を用意して、それがひと目でわかるように、他の給食とは違う色の食器やトレーを使う必要があるんです」ということを説明し、次に、学校医の西島由美先生が食物アレルギーの仕組みを説明しました。続いてAさんが壇上に立ち、「気持ち」を発表。Aさんのお母さんからの手紙も保健給食委員の児童が読み上げました。

「児童たちにとっては、『クラスメートのあの子』『上級生の、あのお姉さん』『いつも見かけるあの子』が、生の声で語ってくれたことで感動し、食物アレルギーというものを、本当に身近なものとして感じ取ってくれたのではないでしょうか」と、小瀬良先生は話します。

イラスト:㈱少年写真新聞社SeDoc

除去食の食器(きいろい食器、ピンクのトレー)

保健給食委員会の児童が説明に使ったパワーポイントの一部。アレルギー反応の仕組みや、除去食の食器、トレーは、色を変えていることを説明している

Aさんの発表

私は、卵と乳製品にアレルギーをもっています。なので、給食の時間は、みんな気をつかってくれています。例えば、牛乳は毎日出てくるので、ビンを私から遠い位置に置いてもらったり、机をはなしたりして、もしこぼれても大丈夫なようにしています。また、こぼれてしまったときは、はなれている班なら友達が教えてくれることもあります。同じ班だったら、近くの別の班に入れてもらっています。

食事の準備、片づけでも、牛乳ビンを運んだり、給食当番でアレルギー物質が入った食べ物をよそったりはできないので、私が担当のときは他の人が代わってくれて、とても助かっています。

アレルギーがあって得なことはないけれど、どんな食べ物にどんな材料が使われているかには少しだけくわしくなります。スーパーでは、食べられそうなものを見つけると、お母さんと一緒に商品の裏をみて、原材料を確認します。最近は、アレルギーをおこしやすい食べ物が別に書かれているものも増えて、わかりやすくなっています。

食べられないものはたくさんありますが、気を付けていればふつうに生活できます。ただ、まちがえて食べてしまうと命にかかわることもあるので、今日の集会で少しでも食物アレルギーに関心をもってもらえるとうれしいです。

Aさんのお母さんからの手紙

皆さんは、レストランでメニューを決める時、どこをみますか?写真を見ておいしそうだなと思った物を注文するのではないでしょうか?食材に何が使われているのか、気にしたことはありますか?

食物アレルギーのある人は、まず、食べられる物があるかどうかを確認しなくてはなりません。

お店のホームページに原材料を載せてくれている所もありますが、お店で直接確認するときは、対応してもらえずあきらめることもあります。

それでも最近は、低アレルゲンメニューがある店も増えてきて、場所は限られますが外でごはんを楽しむこともできます。

食物アレルギーの人は、口に入れる物やふれる食材に気をつけていれば普通に生活できます。ただ、どうしてもみんなと同じ食事が食べられず、家のお弁当だったり、お菓子の交換ができなかったりすることはあります。

そんな時には、どうか「変な子だな」と思わないでください。周りにそういう子がいたら、食物アレルギーという体質があることをちょっとだけ思い出してもらえたらうれしいです。

最後になりましたが、いつも娘の周りで気づかってくださる先生方、お友達のみなさん、ありがとうございます。みなさんに見守られて毎日楽しく、安心して学校生活が送られること、本当に感謝しています。

Aの母より

小瀬良先生から、読者の皆さんへ

Aさんの発表とお母さんからの手紙は、食物アレルギーのあるお子さんとそのご家族の気持ちが、読者の皆さんへもやさしく伝わることと思います。

また、食物アレルギーがあることを否定的にとらえるだけではなく、Aさんと同じようなお子さんやそのご家族にとっても、勇気づけられる内容ではないでしょうか。ぜひ、お子さんと一緒に読んでみてください。

繰り返し児童への指導を続けることが重要

Aさんの発表とお母さんからの手紙は、児童だけでなく教職員の心も動かしました。

同校ではエピペン®の実技を含む、教職員向けの研修を年2回行っていますが、小瀬良先生は、実際に対象児童をもつ担任とそうでない担任とでは、問題のとらえ方や切実さに温度差を感じることがあるそうです。しかし、「こうした温度差も、Aさんの発表で、多少は埋まったのではないかと思います」とのことです。

その一方で先生は、児童には、今後も繰り返し、発達段階に応じた指導を行っていく必要性も感じているそうです。

「今、目の前にいる子どもたちに、大人になっても健康への意識を持ち続けてもらうことが、私たち養護教諭の役割です。中学や高校に進学したり就職したりしても、食物アレルギーを理解し、食物アレルギーの人がいたらサポートするような人に育ってほしいです」と語ります。

また、食物アレルギーの児童には、「Aさんのように、食物アレルギーであることを前向きにとらえる姿勢や、自分の思いをはっきりと人に伝えられるような強さを身につけていってほしいです」と、希望を託します。

写真1
曳舟小学校・保健給食委員会の発表で、食物アレルギーの説明をする学校医の西島由美先生(にしじま小児科院長)

事例① 墨田区立曳舟小学校〔東京都〕
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