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【大阪府豊能郡能勢町】銀寄栗のふるさと

【大阪府豊能郡能勢町】銀寄栗のふるさと

自然の摂理を尊ぶ里山管理で
「能勢の銀寄栗」をいつまでも

農薬に頼らぬ栗栽培と生態系に配慮した山林整備を行い、経済活動と豊かな自然が両立する環境を守り続けています。

銀寄栗存続の危機を受け
未経験から農に挑戦

大阪府の最北端に位置する能勢町。名産は栗、なかでも銀寄栗の発祥の地として名を馳せてきました。銀寄栗(ぎんよせぐり)は「栗の王様」とも称され、大粒で甘みが強いのが特徴。
その味わいから、和菓子の素材としても重宝されています。大阪府吹田市で御菓子司「津村屋」を営む角村(つのむら)茂さんも、その価値に注目した一人。
店の看板商品にふさわしい銀寄栗を求め、当時、町内の各地で開かれていた朝市へ。そこで出会った生産者から仕入れを行うようになりました 。しかし、直接やりとりを重ねるうちに、農家の高齢化が進み、年々、収穫量が減っていることを知ります。
「このままでは能勢の栗がなくなってしまう」そんな危機感を抱くなか、生産者から「自分で育ててみないか」と勧められ、2012年に栗栽培へと踏み出したのです。

和菓子職人と栗園の管理者として活動している角村茂さん。
和菓子職人と栗園の管理者として活動している角村茂さん。

栗の木の栽培をきっかけに
希少種が息づく里山へ

借り受けたのは約700㎡の区画でしたが、栗の木は、8割ほどが枯れ、残っていたのはわずか4本。苗木を植えるところからのスタートでした。しかも農業は未経験。
まずは講習会で基礎を学び、先代にならって農薬に頼らない環境保全型の栽培方法を選択。剪定や下草刈りを重ねながら樹勢を養うことで、次第にかつての活気がよみがえっていきました。
この栗園を含む山の購入を地主から打診されたのは、栽培を始めて3年ほどが過ぎた頃のこと。
「経済的負担もあり悩みましたが、これまで注いできた努力を無駄にしたくないという一心で、2019年に購入しました」
同時に重機を導入し、道や水路の整備、間伐といった作業に着手。閉ざされていた山に光が入るようになると、エリア一帯の植生が多様化し、希少な生物が生息する豊かな里山へと再生していきました。

栗の木と共に、生態系のために下草も維持している栗園。
栗の木と共に、生態系のために下草も維持している栗園。

里山環境を守る営みが
次世代のまちの財産に

その環境を象徴するのが、 大阪でここでしか確認されていない希少な蝶、キマダラルリツバメです。調査に訪れた貝塚市立自然遊学館の天満(てんま)和久博士は「薬剤を使わず、豊かな植生が残っているからこそ飛来するのではないか」と分析します。
また、博士と行動を共にするジュニア学芸員の鞍井希凪(くらいきな)くんの存在も欠かせません。
「下草を刈る際に、生きものの生活環に合わせて、(栗園内の)場所ごと、季節ごとに下草を管理してほしい」
彼のこの言葉は、生態系の循環を考え試行錯誤を続けてきた角村さんの興味を強くそそるものでした。これを機に、草刈りは、生物の出現時期を避けて樹冠下周辺のみに留めるように。イノシシやシカなどの獣害対策も講じながら、環境の維持に取り組んでいます。
このような細やかな管理により、栗の木は、銀寄をはじめ、数種あわせて百本を数えるまでに。丹精込めて育て上げた、自慢の栗で作る和菓子は、今や行列ができるほどの人気商品に。でも、相手は自然。思うようにいかない時もあります。収益性だけを追い求めては、この過酷な道は続けられません。 どんなときも角村さんが前向きに活動し続けられるのは、ささやかなことに喜びを見出す「楽しみ上手」な一面があるからにほかなりません。

遊び心が育む里山の未来
兆しを力に、次なる百年へ

「木や自然の回復には時間がかかります。でも、少しずつ兆しが見えてくるのがやりがいなんです。例えば、能勢の町花であるササユリ。昨年、はじめてその葉を見つけました。栗はもちろん、こういった能勢ならではの豊かな環境を、次の世代に手渡していきたいと思っています」(角村さん)

活動中のエピソードや想い

自然の循環を断ち切らない
おおらかな栽培を

おだやかな日差しが木々を照らす2月。角村さんが管理している「銀寄栗のふるさと」を案内してくれました。枝の剪定(せんてい)はこの時期に行うそうで、余分な枝が落とされ、樹形を整えられた栗の木が、冬空の下にすっくと立っています。
「大きな実を育てるためには、この剪定作業が欠かせません。枝が込み合うと風通しが悪くなり、害虫が発生しやすくなりますし、木のなかを巡る養分が枝葉に偏ると、実が小さくなってしまいます。だから枝を整理して、光と風を通し、養分が木全体に行き渡るようにしてあげることが大切なんです」
さらに欠かせないのが、一本一本の木を見て回ること。冬の間に木に卵を産みつけるクスサンや、クリオオアブラムシは、栗の木を弱らせ、ときに枯らしてしまう原因になります。そのため、これらを丁寧にとり除く必要がありますが、農薬は使いません。それは、自然の力を損ないたくないから。
「自然界には必ず天敵がいるんです。たとえ一時的に害虫が増えたとしても、翌年にはその天敵が増えて、どこかでバランスがとれるはず」
無理に断ち切るのではなく、自然のレジリエンスのようなものを大切にする。角村さんのそのおおらかな眼差しが、栗の木とともにある生態系を見守っています。

枝の剪定(せんてい)を行う、「銀寄栗のふるさと」を管理する角村さん

草を敵としない姿勢が育む
栗園の生命力

この取組の調査も兼ねて、角村さんは「津村屋」のお客さまを対象に、毎年、昆虫観察会を行っています。この観察会の講師の一人である鞍井希凪(くらいきな)くんは、貝塚市立自然遊学館のジュニア学芸員であり、昆虫のエキスパート。フィールドで発揮される彼の洞察力が、栗園の草刈り方法を見直すきっかけになりました。
一般的に草は栽培する植物の害虫の温床となりうるため、農業では“敵”とみなされがちです。しかし、生態系の視点では、草も重要な役割を果たしていて、残し方によってそこに集まる虫の種類が変わってくるそう。
「草をいっきに全部刈らずに、(栗園内の)場所ごと、季節ごとに草の刈り方を変えてほしい」。
希凪くんのこの言葉は、生態系の循環を考え試行錯誤を続けてきた角村さんの興味を強くそそるものでした。
この一言を機に、角村さんは草を残す場所や刈り方に配慮するように。すると、これまで見かけなかったカヤキリやカヤコオロギ(共にバッタの仲間)が姿を現すようになったのです。
また、こうして草を適切に残すことで、木にもよい影響が現れるようになったといいます。
「草が地表を覆うことで、直射日光を防ぎ、土の乾燥を抑える役割を果たしてくれているからかもしれません」
特に近年は猛暑期の高温による日照りが懸念されています。そうした環境に負けない木に育てるために大切なのが、根を深く張らせること。根が長く伸びることで、地中の水分や養分を自ら吸い上げる力が育ちます。この力が栗園の木々をはじめ、生態系のバランスを支える基盤になるのです。

角村さんは「津村屋」のお客さまを対象に、毎年、昆虫観察会を行っています。

徹底した獣害対策が
里山と実りを守る

こうした働きかけが少しずつ成果を見せ始める一方で、深刻なのがイノシシやシカなどの獣害です。収穫間近の栗や若木の根や新葉・新芽が食べられてしまわないよう、現在は電気柵とワイヤーメッシュ柵を組み合わせた二重構造で防除を徹底しています。
銀寄栗の場合、実がしっかりつき出すのは10年ほど経ってから。若いうちは実はほとんどつきません。そのため、地道な獣害対策を続けることは、単に収穫を守るだけでなく、栗園の未来を支える土台そのものといえます。これからの季節、里山の芽吹きとともに活発になる獣害の動きを注視しながら、柵の補修や調整を続けていくことが欠かせません。

収穫間近の栗や若木の根や新葉・新芽が食べられてしまわないよう、現在は電気柵とワイヤーメッシュ柵を組み合わせた二重構造で防除を徹底しています。

里山の恵みが店の味。
自然と商いの好循環

栗栽培を始めて14年。思うように実らない年もありましたが、手をかけ続けてきた結果、昨年は素晴らしい豊作に恵まれました。
大粒の銀寄栗は甘みが強く、和菓子に加工すると、さらに素材の力が引き立ちます。角村さんの店「津村屋」では、「栗から育てた羊羹・銀寄」(期間限定)をはじめ、栗きんとんや栗まんじゅうなど、この栗を使った和菓子が大人気。今後も十分な収穫量を安定して確保できるのが理想ですが、天候や自然条件に左右されるのが農業の難しさ。土地によって向き、不向きもあるため、栗に向かない場所では柿や梅、レモンなどを育て、いずれはお菓子の材料として活用する予定です。
また、栗園の周辺には、まだ手つかずの場所も多く、ゆくゆくは、松やクヌギなども植えて山林としての価値を高め、経済的な可能性を広げたいと角村さん。
「あたり一面を見渡せる雑木林のてっぺんに、お風呂もつくりたいんです」と、ささやかな夢も語ってくれました。
義務感だけでは続けられない農の道。楽しみながら自然と向き合うことが、山を守り、実りを育て、店の味を支える。その循環こそが、この活動がもたらすいちばんの実りなのでしょう。

角村さんの店「津村屋」では、「栗から育てた羊羹・銀寄」(期間限定)をはじめ、栗きんとんや栗まんじゅうなど、この栗を使った和菓子が大人気。

「自然共生サイト」に申請した理由とメリット

環境を持続的に維持するには個人管理では限界があります。継承の形で引き継ぐ必要がありますが、後継者確保は容易ではありません。
関心を呼ぶために、土地の知名度を高めることが重要です。「自然共生サイト」認定にはこうした利点があり、土地のブランド化を通して、持続的な里山保全につなげられます。

環境再生保全機構 担当者から


生物多様性に配慮した栗栽培を実践し、農業と自然保全の両立を着実に形にしている点が特に優れています。地域の環境を守りながら魅力ある農産物を生み出す姿勢は、他の取組の参考として非常に示唆的です。

DATA

紹介誌面はこちら [2MB]