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【愛知県岡崎市】岡崎市 小呂湿地

【愛知県岡崎市】岡崎市 小呂湿地

失われゆく市内の湿地を保全し、
固有種を守り続ける

かつて水田だった小呂湿地には、希少な動植物がたくさんいます。
そのいのちを守るため、市とボランティアが立ち上がりました。

湿地で暮らす希少な
動植物のいのちを守りたい!

小呂(おろ)湿地は岡崎市の中央部に位置する小呂町の丘陵地帯の谷間にある湧水湿地です。この一帯は西三河地域湧水湿地群と呼ばれ、かつては多くの湿地が点在していました。しかし、宅地開発などにより、その多くが消滅。比較的大きなものは市内では本湿地と北山湿地の2カ所だけになってしまいました。
小呂湿地にはサギソウ、カキラン、ハッチョウトンボ、ヒメタイコウチ、ニホンアカガエルなどの希少種や固有種が暮らしています。また、北山湿地では見られないツヤネクイハムシやホソクロマメゲンゴロウもいます。
「ここがなくなれば、貴重な動植物たちも失われてしまう」と危機感を抱いた市は2004年、土地所有者の協力を得て、市職員とボランティアによる保全活動に踏み出しました。2007年には市民活動団体「おかざき湿地保護の会」(以下、保護の会)が設立。現在は市・保護の会・「岡崎市動植物調査会(動植物の専門家チーム)」の3者による協議会をつくり、より専門的かつ計画的な保全活動が行われています。

小呂湿地で保全活動をしている協議会のみなさん
小呂湿地で保全活動をしている協議会のみなさん。

地元の高校生と一緒に、
草刈りや木道補修

保全活動は毎月第1土曜日に実施しており、湿地の周辺にあるアカマツなどの二次林の間伐や湿地の草刈り、木道の補修を行っています。特に冬に行う草刈りは、春から夏にかけて芽吹く植物のために重要な作業です。
保護の会の鈴木好則会長は、
「湿地を好む水生植物は背が低いものが多いので、背の高い雑草を刈って日当たりを良くします。土壌を貧栄養・弱酸性に保つため、刈った草はそのままにしないで近くの山に運びます」と説明します。湿地というのは、人の手が入らないとあっという間に草や木が茂って陸地化してしまうため、こまめな手入れが欠かせません。
木道の補修は、ゆるんだネジを締め直したり、滑り止めの網を敷いたり、傷んだ板を新しい板と交換したり。水気の多い環境のため木の板は傷みやすく、数年で交換が必要です。
こうした作業には、市職員と保護の会メンバーのほかに岡崎北高校の有志生徒も参加しています。「木道に使う板は1枚10㎏。元気で力のある学生さんたちが率先して運んでくれるので頼もしいです」と初代会長で現在は相談役の名倉正志さんも嬉しそう。
しかし、この日は心配事が1つ。
「この時期は絶滅危惧種のニホンアカガエルの産卵時期ですが、晴れ続きで水たまりが消えてしまい、産卵場所がないのです」と鈴木会長の顔が曇ります。作業の傍らみんなで卵を探しますが見つかりません。諦めかけたとき、「あった!」の声が。かろうじて残っていた小さな水たまりに1つだけ卵塊がありました。

日本一小さなトンボとしても知られる、ハッチョウトンボ(メス)。
日本一小さなトンボとしても知られる、ハッチョウトンボ(メス)。

ここで生まれ育った“小呂湿地固有のDNA”を残していきたい

小呂湿地は、自然共生サイト以外にも市の自然環境保護区に指定され、県の天然記念物に登録されています。こういった区域は多くの場合、入場が制限されますが、小呂湿地は常時一般公開です。特にサギソウの群落が有名で、夏には真っ白な羽を広げたサギそっくりの花が満開になる様子を見られます。市職員の濱川共香さんは、
「自然共生サイトの認定をきっかけにもっと多くの人に知ってもらい、湿地の重要性や生物多様性の大切さに気付いてもらえれば。そのために、今後も観察会などを開いて認知を広めていきます」と。そして、「みんなで生態系を守り、ここで生まれ育った“小呂湿地固有のDNA〝を大事に繋いでいきたい」と決意を語ります。
そのためには保全活動に参加してくれる仲間の継続的な確保が不可欠です。鈴木会長は保護の会を「市によるリーダーシップと有識者によるバックアップの両面が備わっている全国的にも恵まれた組織」と評価し、「今後はこの会を次世代に受け継ぐための人材育成にも力を注ぎたい」と話します。

ニホンアカガエルの卵を探して

2026年2月23日(月)に小呂湿地で行われた、岡崎市とおかざき湿地保護の会による保全活動の様子をレポートします。

乾いた土を見て募る心配

朝9時、月1回行われる保全活動の日。小呂湿地入口には市職員の濱川共香さんと保護の会のメンバー7人が集合しました。冬でも湿地の管理に休みはありません。
当日は朝方に雨がちらつきましたが、活動が始まる頃には晴れ間が広がり、日が高くなるにつれて気温が上昇、軽作業でも汗ばむほどの陽気となりました。
(ちなみに、保全活動は本来、第一土曜に行われます。今回は日にちをずらしたため、いつも参加してくれる地元の高校生たちは不参加でした。)
入口から湿地の脇を通って奥へと進む間、メンバーは口々に「水たまりがないぞ」「こんなに乾いたのは初めて見るかも」と言いあい、湿地の水不足にショックを隠せません。この冬は太平洋側を中心に記録的な少雨と日照多照に見舞われ、湿地のあちこちにあるはずの水たまりがほとんど枯れてしまったのです。鈴木会長は「予想はしていましたが、それ以上に乾燥が進んでいる。一番心配なのは、ニホンアカガエルの産卵です」と語ります。
小呂湿地は、絶滅危惧種であるニホンアカガエルの貴重な繁殖地であり、毎年この時期には水たまりにたくさんの卵塊が確認できます。しかし、今年は産卵場所となる水たまりがないため、産卵できないままになってしまうかもしれません。
不安を募らせつつ、全員で草刈りと木道補修に分かれて作業が始まりました。

この冬は太平洋側を中心に記録的な少雨と日照多照に見舞われ、湿地のあちこちにあるはずの水たまりがほとんど枯れてしまったのです。

体力勝負の草刈りと木道補修作業

草刈りグループは、鎌でヨシなどの背の高い雑草を短く刈り取ります。背の低い湿地の植物たちが春から夏にかけて芽吹くための重要な作業です。袋に詰めていき、袋がいっぱいになると、湿地を囲んでいる斜面まで運んで捨てます。
「見学に来た人からはよく『刈り取った草を置いておけば肥料になるのでは?』と聞かれます。この湿地に湧く地下水は貧栄養で、そういう環境を好む植物が自生しているので、栄養があると逆にダメなんですよ」とメンバーの中川員さん。
木道は人が繰り返し歩いたり、木が劣化することで少しずつ板が反ってぐらつきが生じます。そのため1枚ずつ点検して、ゆるんでいる箇所のネジを締め直します。腐食してしまった板については新しいものと交換し、歩く際に靴が滑らないよう鉄製の網を被せます。
「自然への影響を考えて防腐処理をしていない板を使っているので、5年ほどで傷んできてしまいます。交換は重労働ですが、安全のためには欠かせない作業です」と濱川さん。

草刈りグループは、鎌でヨシなどの背の高い雑草を短く刈り取ります。背の低い湿地の植物たちが春から夏にかけて芽吹くための重要な作業です。

ニホンアカガエルの卵を求めて水源を確認

作業中もみんなでニホンアカガエルの卵を探しますが、いっこうに見つかりません。ここで相談役の名倉さんが動きます。「水源を見に行こう。あそこなら水があるから、卵も見つかるだろう。」
鈴木会長と2人で丘陵の斜面に入り、水源を目指しますが、普段なら地面からじわじわと水が湧き出し、深い水たまりになっている箇所が、今年はただ湿った地面が広がるのみ。足で地面をぐっと踏み込むと、少し水が浸み出す程度で、これでは卵は産めません。「ここもダメか」とがっかりする2人。
この時期に卵を産めないと、今年はオタマジャクシも成体のカエルもいなくなってしまいます。オタマジャクシは昆虫や魚や鳥などの餌になるので、捕食動物にも影響が避けられません。
「今年がダメでも来年たくさん産めばいいじゃないかと思うかも知れませんが、自然はそう単純ではありません。このまま乾燥が進めば土中のカエルも死んでしまうかもしれません。個体数が減れば産卵数も減りますから、元の個体数に戻るのに何年かかるか……」と鈴木会長。

ニホンアカガエル

たった1つ見つかった“希望の光”

水源を諦めて改めて湿地に戻り、卵探しを再開。すると、メンバーの1人から「あった! 見つけた!」の声が響きました。急いで駆けつけると、水深10㎝ほどの小さな小さな水たまりに、確かにニホンアカガエルの卵塊が浮かんでいます。「よかった!」「やったね!」の声が上がり、自然と拍手がわきました。
中川さんの見立てでは、「生まれて2~3週間くらい」「あと1週間から10日くらいで産まれそう」とのこと。期待に胸が膨らみます。
ただし、ニホンアカガエルの場合、オタマジャクシから成体になれる割合は数%と言われています。卵塊1つではあまりに心許ないと言わざるを得ません。
それでも、ここに1つあるということは、私たちの目の届かない場所にまだ卵はある可能性はあります。それに、鈴木会長は「近日中にまとまった雨が降れば、まだ産卵期間に間に合う」と言います。
天気予報を見れば、この週の半ばから雨予報。小呂湿地に豊かな湧き水が戻ってくることを祈って、この日の保全活動は終了となりました。

水深10㎝ほどの小さな小さな水たまりに、確かにニホンアカガエルの卵塊が浮かんでいます。

「自然共生サイト」に申請した理由とメリット

市では30by30の実現に向けて「生物多様性の保全」に取り組んできました。そんな中で、
歴史的な自然遺産を後世に継承するために自然共生サイトに申請しました。メリットとしては、

①生物多様性の保全に貢献できる
②認知度が向上する
③市民が小呂湿地の魅力を再発見できる

と考えています。

環境再生保全機構 担当者から


固有種や絶滅危惧植物が息づく小呂町の湧水湿地を、市と市民が連携し継続的に守る取組は、
地域一体で自然を未来へ引き継ぐ好例であり、他地域にも大いに参考となる事例です。

DATA

紹介誌面はこちら [2MB]

【岡崎市からのお知らせ】


岡崎市では、SDGsや生物多様性保全に向けた取組を進めており、企業の皆様からの温かいご支援とご協力をお願いしています。
現在、小呂湿地の保全・活用を目的として、企業版ふるさと納税による寄付を募集しています。
▼詳細はこちら
https://www.city.okazaki.lg.jp/kurashi/gomi/1002429/1002431/1002444.html(外部リンク)