バイオミメティクスにつながる異化代謝プラットフォーム―自然に学ぶモノづくりを目指して―

Methylorubrum extorquens AM1 という植物葉上共生細菌※1由来のギ酸脱水素酵素(FoDH1)※2の新規変異体を創出し、高効率な異化代謝プラットフォームの構築と共役モデルの実証に成功しました。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)は、生体内の異化代謝※3に関わる補酵素で、本補酵素が必要なNAD依存性酵素は酸化還元酵素の約30%を占めます。天然に存在する多種多様なNAD依存性酵素を利用した生体模倣技術(バイオミメティクス)は、バイオ燃料電池やバイオセンサ、バイオリアクタなどの幅広い応用展開が期待されていますが、補酵素であるNADを再生するための異化代謝プラットフォームが必要です.今回、効率的な NAD+/NADH 再生系を実現するために、FoDH1のβサブユニット単独発現体(FoDH1B)の発現系を構築し、直接電子移動型酵素電極反応(DET型反応)※4によって、NAD+/NADHの再生効率を約2.5倍に改善しました。また、本再生系とNAD依存性酵素の共役にも成功し、グルコース燃焼やグリセロール合成をモデル系として実証しました。さらに、数理解析モデルに基づいてFoDH1BのDET型反応を解析し、NADHおよびNAD+の酸化還元触媒反応における電子移動経路を推定しました。今回の研究成果は、異化代謝を模倣したバイオテクノロジーの創出に向けた共通基盤技術として期待されます。
※1 植物葉上共生細菌:植物葉面に優先して生息し、植物と相利共生関係にある微生物。
※2 ギ酸脱水素酵素:本酵素の生理的役割はギ酸からのエネルギー獲得ですが、DET型反応※4によってNADHからNAD+への酸化、NAD+からNADHへの還元を触媒できます。
※3 異化代謝:外から取り入れた物質を小さな構成要素に分解してエネルギーを取り出す生体内での反応。
※4 直接電子移動型酵素電極反応:酵素反応と電極反応が共役した反応を“酵素電極反応”と呼びます。その中でも、酵素が電極と直接的に電子移動できるものを直接電子移動型と呼び、本文中ではDET型反応と記載しています。