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特別号 地球環境基金は30周年を迎えました No.56 2024年3月発行

地球環境基金便り No.56 (2024年3月発行)

ERCAでは地球環境基金創設30年を迎え、次の10年の地球環境基金のあり方について検討するため、「今後の地球環境基金のあり方検討ワーキング」を設置し、各分野の有識者による議論を重ねました。そのワーキングメンバーによるスペシャル座談会をお届けします。

関口(進行役)

 最初に、地球環境基金との関わりや、この10年の環境問題を取り巻く変化などについて、お話いただければと思います。

この10年を振り返って

久保田

 地球環境基金とは、97年に北海道で環境財団を立ち上げた頃からの長い付き合いです。当時、私たちは中間支援組織として地元で小さな助成金サポート事業を始めたのですが、見本がなく、ERCAが貴重な情報交換先でした。これまでさまざまな環境活動に取り組んできましたが、長い時間をかけて取り組まないと効果が出ないことを実感しています。
 私は20周年の際の助成メニュー見直しの議論にも参加しましたが、この10年で環境分野は大きく動きました。特に、2020年に政府が、2050年カーボンニュートラルの実現を宣言して以降、地域では脱炭素の関心が高く、企業、自治体、住民の共通の課題として語られるようになっています。
 こうした中で10年前と比べ、国の政策の中でもNPOの活動への期待がより強く位置づけられるようになってきていると感じています。

草野

 私の環境活動は01年に北海道で開催されたロックフェスで、ごみ問題に取り組むことから始まりました。当時はNPO第1世代がバリバリ活動されていて、その方達に巻き込まれ(笑)、育てられ、はや22年になります。そんな第1世代の方たちが引退されたり、団体が解散したり、この10年で世代交代を感じています。
 地球環境基金とは、北海道ブロックで開催された研修のスタッフの一員に参画させていただく機会があり、その後、助成を受けるなどで関わりも広がり、育てていただきました。1.5世代として活動を引き継いでいかねばと思っています。

浅利

 私もいわば1.5世代です 。我が恩師は、市民活動としては公害・不法投棄問題などに対して住民目線で国と闘い、対話をしながら取り組んできました。

見山

 私はもともと銀行員です。97年の「京都会議」前後に銀行内でカーボントレードの研究会が立ち上がり、環境や資源の重要性を考えるようになりました。日本は資源制約を克服していった国でもあります。これから「環境の世紀」を迎えるにあたりアドバンテージがあるんじゃないかと可能性を感じ、銀行を辞めて異業種から環境業界へダイブ。
 企業の環境活動も、当時と比べると、この10年で誰もが本気で取り組まなければならない時代になりましたね。地球環境基金の評価専門委員を10年務めさせていただいていますが、地球環境基金はいち早くから「出口」側の取り組みをしっかり進めておられると感じています。トップランナーとしてもっと引っ張っていただいていいと思います。

新田

 私は98年より日本NPOセンターに所属し、NPO法の策定や普及、基盤整備に関わってきました。現在はERCAの助成先団体に在籍しています。今回、ワーキンググループに参加して「助成する側において、こんなにも議論しているのか!」と驚きました。さまざまな立ち位置から意見を出し合い、議論することの大切さを再認識しました。これからの時代は同じ価値観の一方向のみでは物事はうまく進まないと感じています。

関口(進行役)

 昔はシンプルでしたが、急速に環境分野の主流化が進んだことで、例えば、再生可能エネルギーと自然保護のように、環境テーマ間にも衝突が見られます。それぞれに正義があるから、なかなか難しいところです。

地球環境基金の今後の役割は?

関口(進行役)

草野さんや新田さんは、助成を受ける立場でもありますが、ERCAの役割という面はいかがですか?

草野

 当団体では、助成金申請書を若手スタッフが作成しています。悩みながら申請書を作成することで成長しており、助成を受けるだけでなく、人材も育ててもらっています。

新田

 助成を受ける側としては「申請書に書いたことをしっかりやろう」と思っていますが、実際に活動をおこなっていると難しい場面に遭遇することもあります。
 ERCAには親身になってくれる担当の方がいらっしゃるので、一緒に乗り越えていけるコミュニケーションの設計や応援の仕組みがほしいですね。ドナー(基金)が現場の人たちを応援し続け、エンパワーなメッセージを送り続けられるかが、活動を支えるカギだと思います。

久保田

 地球環境基金の目的や存在意義は「NPO支援」であるので、そもそも助成金を渡すだけではないんですよね。ただ、助成金の使い道の会計報告などがわりと厳しいこともあって「お金を出してくれる役所」というイメージがある。それをどうにか変えようと助成メニューを変更しながら、コミュケーションを取ってきました。
 この30周年を節目に助成メニューが大きく見直され、高い目標が掲げられています。それが生かされるためにも、助成先とのコミュニケーションがますます重要になってきます。

見山

 近年は、環境省に限らず行政や自治体の政策が、どんどんと「出口」側に寄ってきていることを感じます。プラットフォームづくりだけではなく、具体的な事業に近づいてきている。今後はさらに環境政策の「出口」としての事業を、どう作っていくかになると思います。
 「出口」に近いほど、企業、団体、学者、金融機関など多様なプレイヤーが必要になってきます。

浅利

 具体的な「出口」とともに、環境活動という「文化」を作ることも重要です。キラキラした人材を応援して、新しい文化を作っていきたい。
 欧米・アジア諸国に比べて日本人は環境意識が低いという調査結果があります。一因は日本人が忙しすぎることと考えられていて、地域、環境、他者のことを考える余裕がない……。もうひとつの背景としては、社会課題を気軽におしゃべりしづらいという問題点もありそうです。
 2020年の学習指導要領の改定によって持続可能性の概念が盛り込まれ、子供たちの意識は変わりつつありますが、大人こそまだまだ変わっていかなければなりません。

久保田

 「環境という文化を作る」まさにそうですね。環境活動は地域全体の動きとも関わってくるので、平気で10年くらいはかかってしまいます。例えばラムサール条約のように、湿地の重要性をずっとその地域で言い続けている人がいて、あるときチャンスが来てやっと花開く。環境活動は長く、助成期間はほんの一部でしかありません。ERCAとして、3~5年というその短い間にどれだけ団体のステップアップを支援できるかが重要です。

見山

 企業は単年度会計で、すぐに成果を求めます。最近の子供たちも結果を急ぐように感じます。私は土俵を割ってなお戦っているような諦めの悪さがあるのですが(笑)、NPOの人たちにも同じものを感じます。諦めないで未来を信じている。そんな「続けるという価値」を支えることも、とても意義があると思います。

草野

 文化といえば、よくサッカーやオリンピックの試合会場でごみを拾う日本人が話題になりますが、日本には独特の「ごみ拾い」の文化がありますよね。僕が住む北海道では、春、雪解けに合わせて地域単位でごみ拾いの日があるんです。ごみを拾いながらいろんな情報交換もしています。ごみ拾いやラジオ体操のように、日常の中にある日本の文化って、面白いと思いませんか?そういう当たり前にやっていることに目を向けて、再評価することも大事にしたいです。

久保田

 あとは、ERCAの助成の成果を見える化し、もっと多くの人に伝える必要もあります。それによって環境保全活動の価値が再評価され、ステータスも高まり、政策ともつながりやすくなります。

新田

 子どもの貧困やジェンダー平等に関する問題、障がい者問題などと違い、当事者の「環境」はしゃべれないですから、その価値を代わりに伝えなければいけませんね。SDGsには分野と分野をつなげる力があります。ERCAの助成先団体はSDGsにおける優良事例の宝庫なので、もっと上手く利用すればいいと思います。

見山

 自分が何者かって自分が一番わからない。環境の円環はますます広がるので、ERCAも他流試合をしていくとさらに自分の姿が見えるかもしれません。いまや環境と無関係な省庁や組織はありませんから、どんどん対話をしていってほしいですね。

浅利

 今回ERCAの中にも若い方や熱い思いのある方がいることを知りました。これまではどうしても行政色の強いかっちりした印象でしたが、これからは、ぜひ、そういうスタッフの方々がERCAの顔となって、想いがこもった助成活動を進めていってほしいと思います。

関口(進行役)

 私はこうしたワーキンググループが開かれること自体、すごくいいなと。これまで通りのことを続けていても誰も怒らないのに、多方面からメンバーを集めてさまざまな意見を吸い上げ、方針作りに活かしていく。これって独立行政法人として本当にすごい。時代の進展に応じて自ら変わっていこうとするところがERCAの素晴らしさです。我々も引き続き、共に力になっていきたいですね。
 皆さん、今日は貴重な意見交換をありがとうございました。

NPO活動が
政策とともに議論される
時代になってきた
久保田 学
公益財団法人北海道環境財団シニアコンサルタント。北海道地球温暖化防止活動推進センター、環境省北海道環境パートナーシップオフィスなどを設計、運営。一貫して公共政策と環境・地域づくりの現場をつなぐ継続的支援の仕組みづくりに携わる。
1.5世代として
環境活動を
引き継いでいく
草野 竹史
NPO法人ezorock代表理事。「RISING SUN ROCKFESTIVAL」(石狩市)における環境対策活動をきっかけにNPO法人ezorockを設立。延べ2万人を超える若者と共に、持続可能な地域づくりにつながるプロジェクトを多数展開。
環境を「文化」として
育んでいくことが
重要です
浅利 美鈴
総合地球環境学研究所 研究基盤国際センター 教授。ごみ、環境教育、持続可能なコミュニティ創出などを研究テーマに、「京都超SDGsコンソーシアム」「エコ~るど京大」「京都里山SDGsラボ(ことす)」などを展開。研究、実践、啓発を続ける。
環境の円環が広がり
これからは多様な
プレイヤーが必要に
見山 謙一郎
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス代表取締役。銀行員、ap bank理事などを経て、現在は環境省(地域循環共生圏)、総務省(地域政策)、林野庁(林業イノベーション)、地方自治体などの有識者委員を務める。専門は社会課題起点の経営学。
ドナーが送り続ける
応援の声が
活動の支えになる
新田 英理子
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク理事・事務局長。持続可能な世界の実現を目指して市民社会の立場から民間企業や自治体、国際機関、政府、他国の市民社会組織と連携し、政策提言活動や課題解決のためのコンサルティング活動などを実施。
時代の進展に合わせて
変化し続けるのが
ERCAのすごさ
関口 宏聡
NPO法人セイエン代表理事。市民活動を支える制度をつくるNPO法人シーズでNPO法制度改正のロビイングなどに従事。ケアラー支援や災害救助法改正などのアドボカシー支援にも奮闘。2021年よりセイエンに事業を承継し活動中。

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