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プログラムディレクター紹介

ご挨拶

近年、欧州を中心に世界中で注目を集めている「サーキュラーエコノミー」という概念をご存じでしょうか。これは、地球上の限られた資源の消費量を減らして効率的に循環させるとともに、付加価値の最大化を目指す経済活動の概念であり、直訳して「循環経済」ともいいます。大量生産・大量消費・大量廃棄を伴うこれまでの「リニアエコノミー(線形経済)」に代わり、将来まで持続可能な社会を目指すために有効なシステムとして注目されています。

サーキュラーエコノミーではあらゆる資源が循環の対象となりますが、SIP第3期課題「サーキュラーエコノミーシステムの構築」の推進に当たり注目したのが「プラスチック」です。プラスチックは金属に比べて軽量性に優れ、低い温度で様々な形や用途に加工できるため、非常に便利で身近な素材です。一方で、多くが石油などの限られた資源を基に作られる素材であるにも関わらず、最も使い捨てられやすい素材でもあるともいえます。また、海へ流出すればマイクロプラスチックなどとして長期間環境中にとどまり続け、焼却処分すればCO2を発生して地球温暖化の原因にもなるため、地球環境の保全や再生を考えるうえでも大きな課題となっています。さらに、これらの環境問題の解決に向け、欧州ではELV規則案などプラスチックの利用に関する規制が次々と提案、施行されつつあり、もしこの潮流に乗り遅れることがあれば、輸出産業の国際競争力が弱まり経済的な損失も計り知れません。もはや「プラスチックの循環」は一つの環境問題対策にとどまらず、国を挙げて取り組むべき経済対策でもあるのです。

※廃車(End Life of Vehicles)規制案。2030年より、欧州で販売する自動車には、使用されるプラスチックのうち25パーセント以上を再生プラスチックとすることを提案しています。

プラスチックのサーキュラーエコノミーを実現するための重要な要素として、1つは「デジタル化」が挙げられます。プラスチックのマテリアルフロー(原料調達→製造→流通→消費→回収→再資源化)をデジタル情報によって可視化するとともに、各工程の事業者が必要とする様々な情報を共有することで、プラスチックの循環を効率化して促進することが必要です。また、実際の再生プラスチックそのものの品質を向上し量を確保すること、そしてそのための研究開発基盤となるプラットフォームの整備も不可欠です。本課題ではこれらの要素を、ビジネス化による収益性の確保、消費者の意識・行動変容、人材の育成、制度・法律の整備によるサポートなどと組み合わせて、社会実装することを目指します。

サーキュラーエコノミーの概念はまだまだ社会に広がり始めた段階ですが、日本では、ペットボトルのリサイクルをはじめとする優れた資源循環の成功例があり、サーキュラーエコノミーの土台となる基盤は一部では進んでいるともいえます。しかし、プラスチック全体に目を向けると、まだまだ多くの課題が残されています。限られた資源を無駄なく活用し、次世代に豊かな環境を引き継ぐとともに、今後も国際競争力を高めていくためには、産業界や消費者、行政が一体となってさらなる技術革新や行動変容が求められます。本課題を通じて、最先端のデジタル技術や研究開発を活用し、経済的利益と環境保全を両立させた社会モデルを実現したいと考えています。皆様と力を合わせ、国内外に誇れるサーキュラーエコノミーの実現に向けて尽力してまいりますので、ご支援とご協力をお願いいたします。

プログラムディレクターを務める伊藤耕三教授。東京大学特別教授

東京大学 特別教授
伊藤 耕三
プログラムディレクター

課題紹介動画

サーキュラーエコノミーとは?SIPの取り組みとは?
日本の現状とこれからの課題について、本プログラム 伊藤耕三プログラムディレクターが解説します。